第13話 エンゲージメント(保護)されました


 どうもリオンです。つい先ほど、召喚獣(?)として、召喚士であるディエゴに使役されることになりました。コンゴトモ、ヨロシク―――って。どういうことなんだよ!?俺、合体もしてないし、悪魔でもないんだけど!

 いやいや、落ち着け俺。意味が判らないとはいえ、取りあえずよく判らん異世界で野垂れ死にする未来は阻止できたってことでいいのか?


 つっても、職業(ジョブ)アサシンだと思っていたディエゴが、まさかの召喚士とはね。俺にとって召喚士はラノベの鉄板ネタである、別世界から勇者とか聖女とかを一方的に呼び出す、誘拐犯のイメージしかないんだが。これも偏ったゲームやアニメとかの知識のせいだけど。

 でもそういうのとは違うというのは、ディエゴとエンゲージメントした時に、この世界の召喚知識が少しだけ流れて来たから知ることができた。


 この従魔契約時に、エンゲージメントによって聖痕(スティグマータ)が現れる。

 だがエンゲージメントつっても、婚約って意味じゃないぞ。ビジネス用語である契約とか誓約って意味な。BがLになるような意味はない。

 そんでこのエンゲージメントには、二つの種類がある。主従関係となる契約と、互いに協力し合う誓約だ。でっかいわんこのシルバは、主従関係の契約で、俺の場合は協力関係の誓約である。そして互いの力関係によって、エンゲージメントの効力が変わるらしい。

 主従関係の場合は、主人の命令に従わされる力関係が発生するんだけど、協力関係にある誓約の場合、俺がディエゴに保護を求めて、受け入れられた形のようだった。

 まぁ、そんな誓約をした記憶はないんだけどね。保護してくれと強く望んではいたけれど。

 シルバのような魔獣は、強い主人を求める傾向が強く、ディエゴがそのお眼鏡に叶った形だ。だからシルバは自分より弱い相手の命令には絶対に従わない。でも俺にはとても優しい良い奴だ。

 そんで俺の場合は相手が保護したいと思っていて、俺も保護して欲しいと思ってたのが、誓約という形になった―――らしい。というのを、ディエゴがパーティの仲間に説明していた。

 本人も突然のエンゲージメントに驚いて、混乱してたんだけど。それを聞いた冒険者パーティも滅茶苦茶動揺していた。お陰で俺もつられて動揺しまくった。


 それと朗報なんだが。

 俺が何でそれを知ることができたかというと、ディエゴの保護下に置かれたことで、言葉が理解できるようになったからだ。今まではニュアンスでしか判んなかった言語が、ディエゴを通じて翻訳されるようになったのはマジで助かる。とはいえ、俺自身がこの世界の言葉が話せるようになった訳じゃない。

 一方的に向こうの言語を理解できるだけで、俺の話す言語は翻訳されないのである。

 シルバも人間の言葉は理解できるけど、人語が喋れないのと同じ。

 でも召喚士であるディエゴには、聖痕(スティグマータ)によって、俺たちと精神的な繋がりがあるので、凡その気持ちの伝達は出来るようだった。従魔の感情を読み取れるというのも、召喚士に必要なスキルなんだって。

 でも俺は犬と違って人間の声帯を持っているので、努力次第で言葉を話せるようになるだろう。多分。でも面倒な会話をしなくて良いなら、喋れないふりを続けるのも手かもしれん。

 因みに何故か同じ従魔(?)同士だからなのか、シルバの思考が俺にはよどみなく理解できた。

 とはいえ所詮はわんこなので、人間のように複雑な思考をしていない。賢いけど単純なんだよ。良い意味でね。


 そんで今現在に至るんだけど、目下俺はシルバの背中に乗せて貰って楽をしております。

 彼ら冒険者パーティは、現在この森で薬草採取の依頼中なのだ。薬草採取と言えば、新人冒険者やレベルの低い冒険者の依頼と勘違いされがちだが、この世界ではレベルが高くないと受けられない類の物らしい。

 それというのも、一般人でも採取できる薬草は、わざわざ冒険者に依頼なんてされてないからだ。よってギルドには、魔素の濃い場所に生える、危険な崖の上や森の奥深い場所に自生する、栽培不可能な希少性の高い薬草しか依頼は出てないのである。それも山菜同様、種類によって季節限定なのだ。

 野菜や薬草でも、栽培の難易度によってその価格が変わるしね。さもありなんといったところだ。

 中には冒険者に依頼をしても、知識がないせいで品質の悪い薬草を採って来ちゃうこともあるそうで、薬草採取をする専門家を護衛するだけの依頼とかもあるんだって。

 

 そういう話を、下っ端であるテオや、知識の浅いチェリッシュに説明をしながら、大人組の三人は慎重に森の中を探索していく。

 たまに出てくる猪(ボア)や、フライングエイプという、人間の持ち物を狙って襲ってくるサルなんかを追っ払ったりしながらだ。

 そういうのを狩って殺すと死体を処理するのが面倒なんで、基本的には追っ払うらしい。とはいえ、魔狼の中でも強い個体であるシルバが居るので、あまり魔物は襲っては来ない。

 昨夜はわざわざ食用に、ボアを一体だけ解体したらしい。因みにボアの毛皮は固くて汚く、質が悪いので売れない素材なので、燃やすしかないとのことである。肉も硬くて臭いのでよほどのことがない限り食べないんだとか。

 もしや野生の獣を解体して、旨味が出るように熟成する知識がないのか?あえてしないのか、できないのか。まだ知識が足りなくて混乱する。ただ色々と雑過ぎる気がしてちょっと頭が痛い。文化水準もよく判らないし。

 俺の知ってる猪の毛皮って、その硬さが逆にヘアブラシに丁度いいんだけどね。適度な油分と水分があるから、静電気も起こりにくくなるし。歯ブラシやシェービングにも使えるのに勿体ない。

 厄介な猪だけどそこそこ売れる素材になるから、俺としてはこの世界の猪の素材もちょっとだけ興味があるんだよな。


 ところで。

 言語翻訳機(ディエゴ)を手に入れたことで、俺は彼らに子供と勘違いされていることが判った。

 まぁね。判るよ。日本人って、人種的に年齢不詳っつーか、ハッキリ言って幼く見えるもんね。

 特に俺は未だに平日の昼間に街を歩けば補導されるし。背はそこまでちびっこではないつもりだが、同じ人種である日本人であっても俺は中高生にしか見えないらしい。ちくしょうめ。

 だが俺はそれを否定しなかった。子供と侮られていれば、保護の対象とされ、周りから護って貰えるからである。そう言う誓約を交わしたってのもあるけど。シルバの背中に乗ってるのもそのお陰だ。

 まぁ、成人男性だとバレたらバレたで、勝手に勘違いしていたコイツラが悪い―――この選択が、後に自分を苦しめることになるのだけれど。この時点での俺にはそれが判っていなかった。


「……見落としが酷い」


 さっきからテオもチェリッシュも、教えて貰った薬草の付近をうろついてるくせに、見落としまくっている。それを憐れなモノを見るかのように、俺は残念そうな顔をした。


『どうした?』


 やれやれと首を振っている俺に気付いて、言語翻訳機―――もとい、ディエゴが声をかけて来た。

 なのであちこち指をさし、彼らが見落としている場所を教えてやる。


『リオンは賢いな。もう見分けがついたのか?』


 まぁね。こちとら山菜取り歴20年以上のプロだぞ。異世界の薬草であろうと、些細な特徴も簡単に区別が付くのだ。ただし、教えて貰わないと、名前も効能も何も判らんけれども。

 あの阿呆な若者二人よりは見る目は持っている。鑑定眼とか言う便利なスキルはないけど。


『だがこれも勉強だからな。気付いても、安易に教えるなよ?』


 うんと頷けば、よしよしと頭を撫でられた。

 子供の頃に、爺さんからこうしてよく頭を撫でて貰った記憶が蘇る。ディエゴは爺さんにちょっと似てる気がするんだよな。この落ち着き具合とか。お陰で俺は、子供っぽく振る舞うことに恥じらいを感じなくて済んでいる。


『そう言えばこの子、最初から薬草みたいなのを沢山摘んでたわよね?』


 アマンダ姉さん、アレは薬草ではない。高級山菜だ。天ぷらにして食べるつもりだったんだよ。

 薬草も基本的に食べられる物が多いしね。この世界じゃどういう効能があって、食用とされているのかは判らんけど。


『ここら辺りじゃ見かけない、妙な薬草だったな』

『どこで採って来たの?』

「……?」


 ギガンのおっさんと、ディエゴに訊ねられても答えようがない。だって山の幸だもん。この森にある訳ないじゃん。植生自体が違うんだろうけど。

 答えるのが面倒なので、先輩従魔であるシルバの真似(主人以外に返事をしない)をしておこう。


『はぁ……。やっぱりディエゴ以外は無理なのかしらねぇ』

『俺たちの言葉は通じないのか……?』


 取りあえずは、そういうことにしといてね。ってことで。でもシルバを見習って、アマンダ姉さんには敬意を払うことにする。

 

「あ、キノコ」


 暇を持て余してキョロキョロと辺りを見渡していると、キノコっぽい何かを見つけた。

 シルバから飛び降りて、ディエゴを引っ張って連れて行く。


『ん?何を見つけたんだ?』

「コレ、食べられる?」


 樹の皮に紛れて非常に見つけ難いが、霊芝によく似たキノコを発見する。でもここでの効能とか判らんし、ディエゴに一応聞いておく。毒々しさはないけど、よく判らんもんは触るなって、爺さんに言われてたからね。

 

『おまっ、これは……!』

「?」

『ガノマダケだ』


 お~、自動翻訳機能(ディエゴ)によって、マンネンタケと頭に浮かぶ。古来より、万病に効くって言われてるよね。一般的には食用ではないけど。生薬ではある。


『あれだけ探して見付からなかったのにな……。やはり、ブラウニーだからか』


 またもやよしよしと頭を撫でられる。

 どうやら彼らにとっても、このキノコはイイモノらしい。俺は愛想よくニコッと笑っておいた。


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