第81話 偽装『液玉』の正体

 炭火で焼く焼き鳥って美味しいよね。

 この屋台では元々焼いた肉にタレをかけて売っていたそうなので、実際は焼けた醤油の香ばしい匂いはしていない。網の上に零れた落ちた醤油の焼けた匂いが微かにするぐらいなんだよね。

 でも焼き鳥風の方が絶対に美味しいからと、肉にある程度火を通してから、再度肉にタレを付けて焼くことをお勧めしてみたのである。

 醤油の焼ける匂いって、食欲をそそるからね。この方が絶対お客さんを呼び込めると思うんだ。

 それに微かな醤油の匂いに気付けるのは、臭いに敏感な日本人おれぐらいだしね。(GGGさんは安さからこちらにやって来て、タレが醤油であることに気付いた)


 おじさんの屋台は、安く仕入れられる爬虫類トカゲなどのお肉を、炭火で焼いて売っているそうだ。

 日本円に換算すると一皿500円なので、魔獣肉屋台と違ってとても安く、しかも量があるので満足度は高い。値段は半分、量は倍以上なんだよ。

 BBQのように網焼きにしているので煙が凄いけど、ダンジョン入り口付近の広場からは遠いので、この香りが届かないのが悔しい。

 こちら側が風上にならないだろうか?


 そして今は、屋台からは香ばしい匂いが立ち込めていて、GGGのみなさんが食べ尽くす勢いで次々と焼けたお肉を受け取っていた。

 空になったバナーナの葉を差し出し、そのお皿に焼けたお肉を受け取り、新たなお皿を用意しなくてもいいようにしている。エコかな?

 しかも彼らはちゃんとマイフォークを持っているので、他の冒険者とそこが違う。

 まぁ、旅の間に俺がマナーを躾けたのもあるんだけど、(それまでは汚れを気にすることなく手掴みで食べたりしていた)順調に紳士なマッチョになっているようだ。


 あの後のことなんだけど。

 怯えるおじさんと息子さんを宥めて、俺が錬金術師アルケミストで、ディエゴは召喚士であり、お供のシルバとノワルを紹介し終えたところで、改めて話をすることになったのである。


「ショウユと、ミリンかぁ。コイツらにそんな名があるとはなぁ」

「魔昆虫と、そのドロップする中身は、直接関連がない。見た目がそいつらの落とし物のように見えるだけだ。ダンジョンのドロップ品によくある偽装だろう」


 ディエゴの説明を聞いて、おじさんも納得したように頷く。

 俺たちは屋台の裏方に入り込み、シケーダとブラックビートルからドロップした調味料を吟味しながら話を聞いていた。


「そう言われると、そうなんだけどよ……。ショウユはブラックビートルの卵に見えるし、ミリンはシケーダのションベンつって、冒険者はみんな拾わねぇんだ」

「だろーねー」


 俵型の液玉はパッと見、硬い殻である卵鞘らんしょうに覆われているように見える。はっきり言えば、ゴキブリの卵にしか見えない。

 でもこれ、どっちかというとペットボトルに似てるんだよな。液玉は水風船だし。そう思うと気にならないから、平気で触っている俺をみんなが変な顔して見てるんだけどさ。おじさんたちも初めて見た時は忌避感が凄かったそうなので。


 だがこの水風船、意外にも丈夫なのである。地面に叩きつけても跳ねるだけで割れない。だから鋭いナイフなどで切り込みを入れないと中身が出て来ないのだ。

 うっかり地面に落としても割れないのはいいんだけど、だからこそ中身の正体に気付く人はいなかったようだ。

 子供の玩具として持って帰る事すらしないのが謎なんだけどね。俺なら絶対持って帰っちゃうもんね。ゴムボールとして。そして何かのはずみで割れた中身が飛び出して驚くまでが予想できる。

 そして屋台のおじさんの息子さんも、俺の考えと同じようなことをしたらしい。


「ちょいと前に息子が知り合った冒険者から、たまたまドロップした液玉をいくつかもらったことがあってな。それをボール代わりに投げて遊んでたら、たまたま調理台のナイフに当たっちまってよぉ。そん時に液玉の中身がぶちまかれたんだよ」


 おじさんは怒って息子さんを叱ったらしいのだが、ぶちまかれた液体がたまたま焼けた炭にかかった際、とても甘い匂いが辺りに漂った。


「そん時に美味そうな匂いがしたもんで、毒じゃねぇってことが判っただけなんだが……」


 その時は味醂だったらしいんだけど、液体の焼ける臭いを瞬間的に美味そうだと感じたのだろう。それで他の液玉の中身も舐めてみるという暴挙に出たそうだ。

 この世界の一般的な庶民の知識では、毒は苦いといった程度の区別しかできず、醤油はしょっぱいけど甘く感じたから毒じゃないという判定になったんだって。

 それ多分、甘口醤油だったのでは? 九州や北陸地方では一般的な醤油だよね。

 しかし黒い謎の液体を舐めるその勇気に敬意を表したい。

 全てが偶然の『たまたま』が重なっただけだろうけど、そういうのが世紀の大発見に繋がるのである。液玉だけに。(やかましいわ!)


「すごい、だいはっけんだよー」

「全部の液玉を確認した訳でもねぇし、ドロップする魔昆虫も忌み嫌われてっから、そんなモン使ってると知られちゃぁ、営業停止は免れねぇだろ?」

「たしかにー?」


 中身をきちんと鑑定しなきゃ、『液玉』の正体は謎のままだ。この世界では醤油も味醂も作られていないのもあって、味のある謎の液体扱いなんだろう。成分も判らないから、説明しようもないしね。

 しかも嫌われ者のヤツからのドロップ品である。毒物と思われても仕方がない。

 それを調味料に使おうと思ったおじさんの勇気も凄いけど、結局のところ謎の液体のままだから、ギルドに報告も出来なかったようだ。

 自分たちで味を確認して、誰も具合が悪くならなかったからイケル! って思っただけなんだって。う~ん、チャレンジャーだねぇ。


 バッタの落とし物ドロップアイテムはゲロにしか見えないけど、そっちを舐めなくて良かったよ。

 息子さんに液玉をくれた冒険者も、たまたま調味料の入っている液玉をくれたから良かったものの、そうでなければ一大事になってたんじゃないか……?

 俺はSiryiのお陰で中身の液体が何であるか知れるけど、他の鑑定眼鏡では『液玉』としか表示されないし。硬化液は舐めると危険だしな。

 舐めなきゃ味も判らない醤油の『液玉』を、よくも舐めようと思ったもんだ。

 ナマコを最初に食べようとした人と同じぐらいの勇者だよ。漱石先生もその精神や勇気には敬服するべきって言ってるもんね。

 ナマコはコリコリしてて酢醬油で食べると美味しいよねぇ―――あ、なんだか海に行きたくなってきた。夏だしなぁ。


 でも醤油を落とす魔昆虫なら、別名醤油バッタと呼ばれるショウリョウバッタからのドロップアイテムでも良かったのでは? と思わざるを得ない。まぁ、そんな単純な仕掛けなら、ここまでこれらアイテムが拾われずに捨て置かれるわけないか。

 そもそも醤油バッタとか呼んでるのは日本だけだった。

 しかも二ツ星エリアのバッタからは、調味料の液玉はドロップしないんだよね。

 あちら二ツ星はタリスマンの材料となるドロップ品で、こちら三ツ星は食べ物関連のドロップ品に別れてるってことかな? まさかね……。


「そんじゃぁ、お前さん。他のシケーダのドロップアイテムも、危険なもんじゃねぇってことかい?」


 お向かいのから揚げを売っているおやじさんが、俺らに話しかけてきた。

 あちらの屋台も、GGGさんが買い食いの対象として贔屓にしているらしい。

 というか、この辺り一帯の爬虫類系のお肉を調理して売っている屋台のおじさんたちがみんな集まってきている。

 みんな液玉の中身を調味料にしているので、秘密を共有している仲間だそうだ。


「ほかの?」

「シケーダは全部ドロップアイテムがちげぇんだ」

「どうやらランダムらしいぜ」

「俺の息子もまだ冒険者として修行中でな。他の冒険者が捨てていく液玉をこっそり拾って持ってきてくれんだけどよぉ」

「全部中身がちげぇんだよ」

「ほほう?」

『アブラゼミからは、食用油がドロップします。お向かいの屋台では、油に似ている液体であるので、コスト削減のために使用しているようですね。しかもダンジョンの魔物のドロップ品ですので、油が酸化する原因となる、ヒドロキシノネナールや過酸化脂質という有害な物質が発生しません。長く使用していても、油が汚れて味が劣化する程度ですね』


 そうなんだ。ここのダンジョンの魔昆虫のドロップ品って優秀過ぎない?

 どうして誰もちゃんと調べないんだよ。バカなの? あ、脳筋だった。


『冒険者は身体が資本ですので、正体不明のドロップ品には極力触れません。ある程度の情報がなければ、生存率を上げるために、毒物のような液体には触れないのが鉄則ですからね』


 バカじゃなかった。寧ろ賢かった。脳筋だなんて言ってごめんね?

 でも持ち帰るぐらいはしてもいいんじゃないかと思われ。ちゃんと液玉として謎の容器に入ってるんだからさー。魔昆虫の落とし物っていう先入観で捨て置くからこんな重要な情報が集まらないんだよ!

 とはいえ、持ち帰って子供にお土産で渡すには物騒なんだよな。

 せめてギルドへ持って行けって話なんだけど、全てのたまたまが重ならなきゃ、醤油も味醂もずっと知られずにいたことを考えると、複雑な心境になる。


 こうして情報を集めて判ったけど、種類別でドロップアイテムが異なるのなら、他にも調味料関係の落とし物がありそうだね。

 俺の世界のセミは2000種類あって、日本にはその内の30種類が生息している。

 特に繁殖数の多いアブラゼミは、実は世界的にも珍しい翅が透明じゃないセミなんだよね。日本ではアブラゼミって名前だけど、海外じゃブラウンシケーダとかっていう名だったかな? 因みに味醂をドロップするセミはクマゼミである。熊だけに甘い味醂を落とすのだろうか? (そんな訳ではない)

 しかしアブラゼミから食用油がドロップするので、こちらは名前まんまなドロップ品なんだよな。とはいえ、アブラゼミとはここでは呼ばれていないんだけど。


 海外では種類別に名前を呼ぶことはないので、セミは全般的にシケーダと一括りにされている。(学術名はあるけど知る人は少ない)

 日本人がセミの種類をある程度知っているのも、虫の声で種類を区別する特殊能力があるというか、海外では虫の声を雑音や騒音として処理するのに対して、日本人は『声』として聴き分ける能力に長けているとかって話だったかな?

 

『西洋人は虫の音を左脳で処理するので雑音として捉え、一方で日本人やポリネシア人は虫の音を右脳で受けとめます。つまり日本人は「虫の音」を「虫の声」として聞く言語脳で処理しているということですね』


 詳細な説明ありがとう、Siryi……。それは俺の知識から検索したんだろうけどね。

 アントネストのダンジョンでのセミの種類別生息数は判らないけど、探せばあちこちに居るという話なので、これら調味料を実質無料で手に入れたい放題なのではなかろうか? ドロップ率もあるからそう簡単ではないかもだけど。


『ヒグラシからは、お酢がドロップします』


 うわぁお。流石アントネスト限定(だった)鑑定虫メガネだ。聞けば色々答えてくれるから有難いや。


『どういたしまして』


 因みにバッタもそうだけど、セミのドロップ品も全部表示が『液玉』となっているので、Siryi以外の鑑定眼鏡では詳細な説明はない。全て『液玉』という偽装をしているということだ。

 Siryiは既に俺の手下(?)として覚醒しているので、液玉の中身を全部バラしてくれるけどね~。一々舐める必要がないから安心安全である。

 そしてアントネストの魔昆虫が何故存在しているのか。その謎も解けたよ。

 有益なドロップアイテムではないと捨て置かれていたこれらは、実はとても素晴らしいドロップ品であることが判明したんだからね。

 やっぱ魔昆虫ってスゴイんだよ!

 何故存在しているのか判らないとか思われて、忌み嫌われていた黒いアイツだって、俺が探し求めるのすら諦めていた醤油をドロップする魔昆虫だったのだ!

 お味の方は俺の持っているモノに比べて劣るけど、それでもかなり近い味に再現されていることは間違いない。


 しかしどこかにとんかつソースを落とす魔昆虫もいるような気がしてきたぞ?

 …………Siryiが何も言わないので、どうやらいないらしい。ちぇっ。

 久しぶりに串カツが食べたいなって思ってたから、あれば助かるのに。自分で作るしかないのか。


『配合はマスターの記憶にありますので、材料さえそろえば可能です』


 それは便利だね。っていうか、とんかつソースのレシピをどこかで見たっけ?


『簡単ソースレシピのサイトをご覧になられたことがあるようです』


 そういやそんな暇なこともしてたな。結局買った方が作るより簡単だからって、見て終わったけど。


 ということで俺は、おじさんたちと本格的な秘伝のタレとやらの配合を考えることにした。

 他の屋台のおじさんたちも、GGGさんの注文を受けながら、各自隠し持っていたドロップアイテムの調味料を俺に差し出してきたしね。

 みんな安心して使うためにも、ちゃんと鑑定して欲しいらしい。

 当然から揚げ屋さんのおじさんは、アブラゼミのドロップ品である食用油だ。

 Siryiが大活躍してるよ。


 なんでこんなことになっているかと言うと、アルケミストという職業からのお墨付きであれば、信頼度が上がるからだって。なんだそりゃ?

 この世界の錬金術師って一体どういう立ち位置なんだろうか?

 俺が聞いた話だと、薬師や調理師の上位互換の職業だったんだが。


『この世界の錬金術師は、世間の常識を超えた貴重なものを作り出す、賢者的立ち位置です』


 賢者って……煩悩を滅した覚醒者だろ。俺は煩悩があることを自覚してるぞ?


『マスターの世界の賢者であれば、魔法使いの上級職ですね。遊び人が賢者になるパターンもあるようですが、それらはあくまでもゲームの世界の役職です。しかしこちらの世界では知識の探究者であると言われており、賢者は錬金術師の上級職として実在しております。滅多に賢者の称号は与えられませんけれど』


 ゲームの世界と、現実世界は違うってことか。

 しかも賢者もいるんだ。自称賢者とかじゃなくて、ジョブにあるんだね。

 だからオネーサンが俺にスパイスのことを聞いて来たんだな。知ってる内容だから引き受けられたけどさー。アルケミストはギリ行けるけど、流石に賢者はないだろ。


 そして色々Siryiに問い掛けて分かったことなんだけど、ブラックビートルの醤油はこれまた種類別で味が違っているようだ。

 あんまり直接名前を呼ぶと気分が悪くなるかもなので、今後は愛称で呼ぶけど。

 ワモンちゃんは甘口醤油、クロちゃんは濃い口醤油、チャバネ君は薄口醤油、ヤマト君は溜まり醤油である。醤油と一言で言っても、色んな種類があるのだ。

 これらは用途別で料理に使うので、適当にドロップした物を使うと毎回味が変わっちゃうことを伝えなければなるまい。


「だから味が安定しなかったのか!」

「やっぱアルケミスト先生はスゲェな!」

「何でも知ってらっしゃるぜ!」


 何でもは知らないし、俺は先生ではない。

 流石に薄口醬油は色が違いすぎて使わなかったそうだけど、その他は色合いが似ているので毎回適当に配合していたそうだ。

 ブラックビートルは全部ブラックビートルとして一括りにしていた結果。どれも同じようなドロップ品に見えるせいで、味が不安定になったんだろうな。

 Gの卵鞘らんしょうに似ているとはいえ、俵型の液玉はペットボトルの容器にしか見えないので、俺には忌避感がないのである。

 だから俺をそんな変人を見るような目で見るな。飛びつくように受け取ったのは、中身が醤油だって知ってたからなんだって!

 ディエゴですらギョッとした顔になったからな。ちょっとショックである。


「やっぱアルケミストってぇのは、すげぇんだなぁ~」

「これで安心してドロップした奴を使うことができるようになったな!」

「魔昆虫のドロップ品だからって、誰も詳しく調べようとしねぇし。調べても判る奴がいねぇつーか、ここらにゃ脳筋しかいねぇからよぉ……」

「このことが知られたら、営業停止に追い込まれるって、いつもビクビクしてたから、本当に先生に会えて良かったぜ!」


 だからなんで秘密にしてたんだよ―――って、まぁ、ブラックビートルを筆頭に、ヤバイ見た目の魔昆虫類のドロップ品だから仕方がないか。

 この世界ではセミを食べたりしないのかな? ナッツ風味のエビみたいで美味しいんだけど。イナゴも佃煮にしたモノをお土産にもらって食べたことあるしね。(流石にゴキブリは食べたことはない)

 美味しいモノしか食べたくないのに、好奇心から珍味類は子供の頃から爺さんと一緒にチャレンジしてたのだ。食わず嫌いではなく、食えず嫌いであるだけで。

 不味い物は流石に口に入れた瞬間に吐き出させてもらうことにしている。爺さんも無理せず「ペッしなさい」って言うし。

 爺さんが美味いっていうモノは安心して口に入れてたけど、美味しくない食べ物もあるから、好き嫌いがあるってだけだもん。


 それでもこれら『液玉』に注目して、調味料であることを突き止めただけですごいと思うんだけどね。公表できないと思い込んでいたのも、ドロップする魔昆虫に問題があり過ぎるからだろう。

 本当に紛らわしい形状のドロップ品にしたもんだよ。

 とはいえこのままでは何時まで経っても魔昆虫のドロップ品である『液玉』は日の目を見ない。

 なので俺は、魔昆虫類のドロップ品である『液玉』の正体を、冒険者ギルドに報告すべきだと提言した。

 ついでに俺はバッタのドロップ品である『硬化液』の報告をするつもりである。

 バッタも種類別で液玉の中身が違うことが先日判明したけど、それも含めて報告するつもりでディエゴに報告書を書いてもらっている。

 だからみんなで一緒に報告しに行けば怖くないよ!

 醤油だってその物を使うんじゃなくて、料理に合う味に調合しちゃえばいいし、各屋台秘伝の味が作れると思うんだ。種類別のタレによって、淡白な爬虫類系のお肉の美味しさを引き立てられるとアピールできるしね!


 魔獣のお肉を使っている屋台に比べると、爬虫類系のお肉で勝負している屋台は人気がない。味が淡白なので、冒険者にとっては味気ないんだろう。

 安いから買う冒険者がいるだけで、稼げるようになると途端に客として来なくなるんだって。屋台で使用する爬虫類のお肉は、オネーサンのお店とは違ってあんまり強い魔物のお肉じゃないから、安さが売りでしかないそうだ。

 お高目の爬虫類系の肉はオネーサンのお店や、高級宿や他のレストランでしか食べられないってのもある。

 酒場でも食事のメニューで安価な爬虫類のお肉料理があるとはいえ、やっぱり魔物肉の方の注文が多いんだって。

 それらの安いお肉は、商人さんも時々仕入れるらしいけど、大体は屋台のおじさんたちが仕入れることで住み分けているようだ。


 焼き鳥(違う)屋台のおじさん含む、ここら一帯の屋台で使用されるお肉は、三ツ星エリアの爬虫類系ばかりなんだって。

 だがそこに醤油を加えるだけで、劇的にお肉の味が変わるとしたらどうだろう?

 みんな大好き(特にテオが好き)な照り焼きや、焼き鳥のタレだったり、から揚げの漬け込みダレにしたりと、醤油を使ったタレは千差万別、多種多様なのだ。

 日本の醤油は世界的に人気で、某キッコーな醤油が有名だろう。

 この世界ではどうか判んないけど、今のところ隠し味で使って食べさせてるけど、みんな美味しいって言ってるもんね。だからきっと大丈夫!


 取りあえず醤油の有効活用法を考えてからの報告になるので、まずは各屋台の使用するお肉や調理の仕方を聞いて、調味料を調合していくことにしよう。

 焼き鳥のタレは黄金比があるけど、その他に加える必要のある砂糖やお酒はコスト的に無理っぽい。

 ダンジョンでドロップするハチミツを加えるという手もあるけど、かなりの種類の魔昆虫を斃さなきゃいけないんだって話になってくるしコスパが悪い。でもドロップ品である味醂はかなり甘いので、砂糖もお酒もそこまで必要じゃないんだよな。

 よってなるべく安価で、しかも美味しく配合できるかが腕の見せどころではある。

 といった説明をし終わったので、始めようか―――。


「ところで、から揚げはいつできるのだろうか?」


 じっと大人しく待っていたのだろうか? 話し込んでいた俺たちが顔を上げると、シャバーニさんが首を傾げて尋ねて来た。


「へいっ! 直ぐにお作りいたしやすっ!!」


 食欲の旺盛なシャバーニさんから注文を受け、から揚げ屋さんのおじさんは慌てて自分の屋台へすっ飛んでいった。

 それを見た屋台のおじさんたちも、各々の屋台へと駆けこんで行く。

 他の屋台の前にも、GGGさんたちがスクワットをしながら待っていた。暇潰しで身体を鍛えているのだろう。隙あらば筋トレしてるね、あの人たち。

 でも今は稼げるときに稼がなきゃ、商売できないもんなぁ。

 シャバーニさんが大食漢なのは判るけど、他のメンバーのみなさんもそれなりに食べるので。この一角では上客なんだってさ。

 だからまずは、先に彼らの胃袋を満足させてからの話だね。

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