第134話 空を飛ぶ巨大な鳥のようなモノ

 広大な砂漠地帯にあるサヘールへ行くには、その砂漠地帯を通過するか、魔動船で空から向かう方法がある。

 砂漠にはデザートデミドラゴンや、サボテンの化け物のような魔物、巨大な毒サソリが生息しているらしい。

 その中でもサボテン怪獣――――じゃない魔物は、毒のある棘で攻撃してくるので厄介なんだって。ビオランテかな? でもあっちはバラだったっけ。

 普通のサボテンのふりをして隙を見て襲い掛かってくるというけれど、砂漠の民は騙されないんだけどね。


 中でも空の支配者であるナベリウスが最も危険だとされている。

 住処である山脈を通過しようとすれば、電撃攻撃を仕掛けてくるからだ。

 魔晶石で儲けているサヘールが他の国から狙われないのも、ナベリウスや砂漠地帯の魔物がある意味守ってくれているからと言うのも、何とも皮肉な話なのだけれど。


「ナベリウスを討伐出来なかったことで、いつも通りに魔動船で帰還してくるとは思っていないのか、兄上たちは包囲網を解除していると連絡があった」


 いよいよサヘールが間近になって来た頃。

 アマル様が状況が整ったことを伝えにやって来た。


 何度か移転鏡ターンミラーで移動できる距離を実験して、問題がないことを確認したのもある。山脈を飛び越えるぐらいはワープできるようだ。

 ただし物凄い量の魔晶石を消費するので、金食い虫のような神器であることも判明した。

 魔動船の機関室を見せてもらったんだけど、まるで蒸気機関車の石炭をくべるみたいに魔晶石を放り込んでいたんだよね。

 なんかもっとこう、空中に浮かぶ水晶的な動力源を想像していたので、そのあまりのアナログさに逆に新鮮さを感じてしまった。

 本当にスチームパンクみたいな世界だよなぁ。空気が淀んでないだけで。

 だからお金がないと魔動船を動かせないというのも、納得せざるを得なかった。


「隙を突いての帰還となりますので、ある程度の混乱は免れないかと」

「そなたたちは私の客人として扱うことになっているがな」


 本当は護衛として雇われているけど、魔動船を購入する希望者という扱いにするらしい。俺とディエゴは完全に客人として自由に行動するから良い目晦ましになる。


「歓迎はされないだろうが、くれぐれも気を付けてほしい」

「了解した」

「オレらはさり気なく殿下の護衛をしながら、無事に王女殿下の元へ辿り着くようにすればいいんだな?」

「ああ。表向きは帰還の報告と見舞いだ。特効薬を持っていることは悟られてはならない」


 アースドラゴンから作られた欠損部位を再生する治療薬は、魔塔と賢者の塔の一部の関係者ぐらいしか知れ渡っていないとのこと。でもどこから情報が洩れているか判らないので、警戒しなければならなかった。

 魔塔の方はアースドラゴン探しという、見当違いの方向へ興味が向いているから心配する必要はないらしい。アグレッシブあたおか集団で助かった。

 シュテルさんが知っているのは、引き籠りの賢者の塔に生活用品を降ろす間柄だからなのと、ディエゴが分析の依頼していたからだ。(賢者の塔に立ち寄ることがあれば、進捗を聞いて欲しいと頼んでいた)

 それで速攻、アマル様に治療薬と骨の買取りを打診するところは侮れないが。


 細かな打ち合わせをして、俺たちは漸く長い魔動船での旅を終え、サヘールへと到着することとなった。

 山脈を移転鏡ターンミラーで通過する前に、ちらっとだけナベリウスを確認することが出来たんだけど、シャープなキングギドラだったことを報告しておく。









 サヘールは砂漠の国であるが、王族の住むお城は小高い山の上に建てられていて、空中都市とも呼ばれている。

 見た感じはマチュピチュみたいなものかな?

 ナベリウスの生息する山脈とは別に、ごつごつした岩のような山に囲まれたサヘールはもっと広大だけど。

 山頂部分を切り拓いて作られた広い丘の上って感じだが、日本の竹田城跡みたいに雲海が広がる程の高さじゃない。

 そして一番高い場所に王城があり、段々畑のようにぐるりと囲むような形で街が形成されていた。


 そんな空中都市サヘールが視界に確認できた途端、巨大な魔動船が上空に突如現れたことで、下は大騒ぎになった。

 まさか無事に帰還するとは思ってもみなかったのだろう。

 民衆は歓喜の声を上げているけれど、一部では思惑が外れたことで怒声が飛び交っているかもしれない。


「流石はサヘールだな。飛竜を飼いならしてるってのは本当だったんだな」

「ほえ?」


 俺が下ばかり見ていると、上空を眺めながら感心するように呟いたギガンの言葉に思わず変な声が出た。

 そういえば空を飛ぶ巨大な鳥のようなモノがあちこちに居るな~と思ってたけど、あれって飛竜なの!? あ、ゴーグルをかけてよく見たら、ごっついプテラノドンの上に人が乗っているのが確認できた。

 ファンタジーの世界ではワイバーンって言うんだっけ。ドラゴンの一種とも亜種とも言われているらしいけど。魔物だよね?


「サヘールって、竜騎士もいるんだよね!」

「確か竜騎士って、テイマーじゃないとなれないんすよね?」

「サヘールにはテイマーが多いらしいわよ」

「山脈に囲まれているし、サヘール自体が高い山の上にあるからな。飛竜は昔から乗り物として飼育されているそうだ」


 みんな知ってた。知らないのは俺だけだった。

 テイマーが居るのは知ってるけど、どんな魔物を使役できるとか全然調べてなかったからなぁ~。クマバチを使役できたらいいなって考えてた程度だし。

 というか、飛竜はテイマーにとっては使役できる魔物なんだ。へぇ。

 もしかしてナベリウスも使役しようと思えばできるのではなかろうかと俺が思っていると。


「ナベリウスも使役してみたいところだが、残念ながら人間に従う魔物ではないのだ」


 察したアマル様が苦笑しながら答えてくれた。


「伝説によると、サヘールを建国した初代王が、ナベリウスを使役できたとされております」

「王族の威厳を保つために作られた、ただの説話だろうがな」


 アマル様は否定されたけれど、侍女さんの話によると、黄金に輝くナベリウスを使役した王がこの地へと導かれ、建国したってのが伝説になっているそうだ。

 日本でいうところのヤタガラス的なナニカみたいなものかな?

 キングギドラに乗って大空を駆け回るのはある意味浪漫だけど、逆を返せば電撃攻撃で地上を破壊しまくれる危ない戦闘機に乗っているようなもんだ。

 寧ろ乗り物として使役できたら無敵状態じゃないか。

 だとしたらこんな砂漠に導かれて、国を興す理由が判らない。

 

「我が姉上は、テイマーであり竜騎士を率いている竜騎士隊長なのだ。ナベリウスの討伐も担っていながら、いつか使役したいと考えていてな……」

「だがナベリウスの卵を奪わないことにはどうにもらなんだろう?」

「ああ。だから産卵期ゆえ、王位を狙う兄上たちに唆されたと私はみている」


 なるほど。そこへ話が繋がるのか。

 優秀なテイマーであり、竜騎士隊長である姉王女様は、王位を狙う腹違いの兄王子たちにとっては邪魔な存在だ。

 何せ竜騎士はこの国では花形の職業であり、その隊長さんだから人気もとても高く、姉王女様は次期国王(女王)候補として国民から支持されている。

 その同腹の弟であるアマル様は魔動船の商団長でお金も沢山稼いでくるから人気があって姉弟仲も良好。

 となると、他の兄王子様方にとっては邪魔な存在でしかないってことか。


「魔動船があるとはいえ、竜騎士もこの地にはまだ必要とされている。だが姉上は、その内形骸化するであろうことを懸念されて、初代国王の使役していたとされるナベリウスを手に入れたがっているのだ」


 そこを付け込まれて、罠にはめられて大怪我を負ったってことか。

 話を聞く限り、サヘールの国益になる仕事をしているのは、アマル様とその姉王女様で、他の兄王子様方がどんな仕事をしているかは判んないんだけどね。

 国民目線からも貿易関係で外交もしているアマル様と、ナベリウスや他の魔物の被害から国そのものを守っている姉王女様が際立っているって感じかな?


 自国じゃないから興味がないのもあって、実はサヘールのお国事情をそこまで詳しく聞いてはいなかった。

 大人組はちゃんと情報を仕入れて知っていると思うんだけど、俺を含め若手組はその手の話を一切耳に入れてないんだよな。大体の事情は話してくれてたんだけど、何て言うかこう、興味がないから耳を素通りするみたいな感じで聞き流していた。

 これは俺の悪いクセだから、改めなきゃって思ってたのにな……。


 船から降りる前に改めて確認しておかないと、この国での振る舞いを間違えてしまいそうだ。

 妙なことに巻き込まれない為にも、Siryiとディエゴにちゃんと教えてもらおう。

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