第127話 身から出た錆
部屋に戻ってアマンダ姉さんたちが俺に話したかったことは、「運気上昇のタリスマンと、どっちが効果が高いと思う?」ということだった。
「ドロップ率は上がるが、ギャンブル運までは試したことはなかったよな?」
「大食い大会での賭け事とは違って、そういうのはしないものねぇ」
ラヴィアンの幸運のアイテムと、俺の作った運気上昇タリスマンで勝負したらどうなるか。それが気になったそうだ。
「あちらさんのアイテムは『10面ダイス』らしいんだよなぁ」
「変わったアイテムよね。そんなの何に使うのかしら?」
「普通は6面だよな? 10面なんて見たことねぇんだが……」
おや? この世界では多面ダイスは普通にあるわけじゃないのか。
俺は色々持ってるんだけどね。
256面ダイスなんてゴルフボールみたいで出た目が全然わかんないのが面白い。
他にも10面や20面、100面ダイスもある。ネットでふと見かけて、カラフルで見ていて楽しいから沢山買ってしまったのだ。
『TRPGをする訳でもその相手がいる訳でもないのに、そんなに沢山買っても仕方がないでしょう? あなたのその無駄物買いクセは治らないのですか?』ってアレクサにバカにされたんだけどさー。
「こういうのかな?」
なのでとりあえず、見本として10面ダイスを出してみた。
コロコロとカウンターに転がる赤色のダイスを見て、みんなが驚く。
「おまっ、これ!」
「アイテムなのか?」
「ただのサイコロ」
だと思うよ。
「さいころ? ダイスじゃねぇのか?」
「ダイスだよ」
「まさか、幸運のアイテムなのか?」
「ちがうよー」
サイコロは通じなかったか。
でもラヴィアンの持っている幸運のアイテムとは違うことは確かだけどね。
『マスター、忘れていませんか?』
何を?
『ご自分の持ち物であれば、それが
「あーっ!」
「どうした!?」
「やっぱアイテムなのか!?」
幸運のアイテムを脳裏に描きながら取り出したせいで、このダイスはアイテムと言えばアイテムになるんだろうけど、効果のほどは定かではない。
とはいえ、俺の魔道具化能力には法則があった。
願えば必ずそうなるというのではなく、あくまでも俺の知識や常識の範囲内に収まるってことなんだけどね。
嘘発見器がファクトチェッカーになったのも、真実より事実の方がより正しいと思ったからだ。
何せ嘘と本当には矛盾が生じる。二つの物事が食い違っていて、辻褄が合わないこともよくあるからね。しかもその矛盾にパラドックスまで加わるから更にややこしくなるんだよな。
だから客観的な事実のみを判定したいと願ったせいで、ファクトチェッカーになっちゃったんだろう。
お陰でかなりヤバイ代物になっている。だからリュックないないの刑にしてあるんだけど……。
「そのダイスに何かあるのか?」
「急に黙られると怖いんだけど」
「まーた何か考え込んでんな……」
「悪巧みしてる顔じゃないっすけどね」
「それだけが救いだわ」
俺の中では幸運のアイテムと言えば縁起ものである。
間違ってもサイコロなどではない。お守り代わりになるかどうかは個人の縁に関係するかもだけど、日本人としての感覚じゃサイコロは縁起物という考えは薄かった。
ということは、この10面ダイスにもなにがしかの影響があるかもしれない。
取りあえずSiryiに鑑定してもらおう。
ヤバいモノになってなきゃいいんだけどなー。
『マスターの知識によれば、この10面ダイスは勝負運を高める効果があるようです。サイコロはマスターにとって乱数を発生させる時に使うものでしかないようですので、鑑定の結果として色に関連した効果が優先されるようですね』
サイコロに色があることで、効果に違いが出るってことか。
赤なら勝負運、青なら集中力、緑なら癒し、黄色なら財運、ピンクなら人気という感じに、夫々効果が違うとSiryiが鑑定してくれた。
サイコロに人気や癒しって必要なのか判んないんだけど。意味不明なので他のサイコロは出さないでおこう。
『マスターのコレクションにある、鉱石類も似たようなものですよ』
そっちは元々そういう効果があるとされる石だから関係ないよ。
信じる者は救われるっていうじゃん。思い込み思い込み。
『……』
だとすると、やっぱ赤いサイコロがいいのかな? 勝負運が上がるっていうし。
赤ならアマンダ姉さんだし、持たせてみようかな?
「これ、あげる」
「え? な、なに?」
「しょーぶうんがあっぷするよ」
「勝負運?」
幸運のアイテムとは効果は違うけど、勝負運の上がるアイテムである。
それが賭け事なのか、一発勝負的な戦いなのかは判んないんだけど。
俺の考えでは、その人の持つ素質とか実力に関係して効果が変わる気がする。
なのでこの赤いダイスはアマンダ姉さんが持つに最も相応しいと思われ。
そういった内容をディエゴに伝えて、みんなに説明してもらった。
「い、いいのかしら? これ、すごく貴重なアイテムなんじゃないの?」
「そーでもないよ」
運任せのアイテムというのなら、サイコロは理に適っていると言えるだろう。
だから幸運のアイテムというのはおかしい。
神はサイコロを振らないっていうし。確率論として条件が同じであれば出目は全く同じになる筈なのに、現実はそうではない。必ず隠れた変数が存在しているからだ。
それこそイカサマを仕込んだサイコロでなければ、常勝なんてありえない。
見返りもなく幸運をもたらすものはきっといつかその対価を払わされる。
トンボ玉で作られたタリスマンは本人の努力を手助けするものだったけど、ラヴィアンの持っているアイテムはきっと違う。
膨れ上がった幸運の対価という名の負債によって、いつか必ず持ち主を不幸にする時限爆弾のようなアイテムに違いない。
ダンジョンでドロップする
禍福は糾える縄の如しって言うからね。
ここ最近、思考が邪悪な子供と化していたので、ボガードの考えていることが何となく判ってしまうし、この予想は間違いないだろう。
錬金術も同じことで、等価交換がそれにあたる。ということは、今まで受け取ってきた幸運が、反転して不幸となって襲い掛かる可能性が高い。
それを呪いというのならばだけれど。
なんて予想をディエゴに説明すると、ふむと考え込まれてしまった。
さっきも考え込んでいたんだけど、何か気になる事でもあるのだろうか?
「――――やはり世の中にある呪いのアイテムの多くは、元は幸運のアイテムだった可能性が高いな」
「うん? どういうこと?」
「魔塔には、呪われたアイテムをどうにかしてくれという依頼がよくあるんだ」
「へ?」
魔塔って、お祓いを頼まれるお寺さんみたいなこともしてるのかな?
もしやディエゴは寺生まれのDさんなのだろうか? 冗談だけど。
「そういや、ギルドで鑑定できねぇ珍しいアイテムも魔塔に依頼を出すんだってな」
「頭のおかしい連中が目立ってて、ちゃんとした研究をしてるのを忘れるのよねぇ」
「アタシ、魔塔の人っておかしな実験ばかりしてるイメージしかないよ?」
「ほらな。日頃の行いっつーか、ヤバい連中が目立ちすぎて、まともな研究をしてる奴の印象が薄いんだよ」
「じゃぁ、ディエゴさんはそのまともな研究をしている部類だったんすか?」
本人を目の前にして、みんな言いたい放題だな。
俺は賢く黙っておくけどね。
「……俺はその、アイテムの研究をしていたんだ。魔塔では魔法を研究をしながら魔道具を作るのが主だが、その一環としてダンジョンのアイテムを研究しているからな。呪われたアイテムも集まるんだ」
そのせいで自分も
いやまさかねぇ。ディエゴのデバフアイテム作りは一種の才能だと思うよ。うん。
とはいえディエゴが俺の持っている電化製品という名の魔道具に興味を持つのは何となく判った気がする。
作れるか作れないかで判断するのも、ダンジョン産のアイテムを研究していたからなんだろう。
途中から「妖精には敵う訳がないか……」とかなんとかブツブツ呟いてたことがあったし、仕組みを考えながら諦めていたからね。その内魔道具も進化したら、電化製品になるから諦めなくても良いと思うよ?
「魔塔に持ち寄られるモノの多くが、持ち主が頻繁に入れ替わる古いアイテムばかりなだけに、もしかしたら使用し過ぎて呪いのアイテムになった可能性は高い」
持ち主が頻繁に変わる呪いのアイテムって、ホープダイヤみたいな感じかな?
まぁアレは逸話を脚色してるって話だけれど。
「げ。そうすると、現存するアイテムも、その内呪いのアイテムになるってことじゃねぇか?!」
「それが本当なら、質が悪いわよ……」
「でもアタシたち、そんなアイテム持ってないよね?」
「え? 俺、この前リオリオに石をもらったっすよ? 持ってると癒されるというか、自信が湧いてくるような……」
「アマンダのもらった10面ダイスも、アイテムだよな?」
え? なんでみんな俺を見るの?
どうしてアマンダ姉さんは、俺からもらったサイコロをそっとカウンターに戻してるのかな――――ってコラコラ! テオも俺から貰ったチャロアイトを取り出すな!
『マスターのここ最近の行動によって、信用が失墜しているようですね』
え、そうなの?
いやそうかもしんないけど!
ちゃんと心を入れ替えたから!
もうダークサイドに陥ることがないように気を付けるし、反省してるから!!
『こういうのを自業自得、または身から出た錆というのです』
わーん!
Siryiのツッコミが酷い!
正論なだけに反論も出来ないし!
そうして俺は、一度落ちた信用を回復させることが難しいのを、改めて学ぶことになった。
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