第128話 呪いの種類
幸運のアイテムは『使用限度を超えると呪われたアイテムになる説』のせいで、みんなが俺の渡したアイテムにすら懐疑的になってしまった。
『呪われていなくても、やがて呪われるアイテムに見えるようですね』
「うぐぅ……」
怨念や呪いなんて籠めてもいないのに、10面ダイスやチャロアイトをカウンターに置かれ、俺はちょっと涙目になっていた。
ごんぎつねのごんの気持ちってこんな感じなのかな?
信用されないのって、こんなにも辛いんだね。
アレクサがやたらとこの手の絵本を読み聞かせていたのは、教訓として俺に教え込ませようとしていたのかもしれない――――ような気はするが、半分以上はただの嫌がらせだろう。
最近の度を越した悪戯が、こんな形で影響を及ぼすなんて思ってもみなかった。
Siryi曰く『マスターが意図していない悪戯も含まれているようです』とのことなので、勘違いで悪戯だと思われていたモノも含むってことだろ?
一体全体何をやらかしていたというのだ。無自覚なだけに、どうしたらいいのか判んないよ~!
嘘泣きじゃない本物の涙が溢れそうになる。
それを不憫に思ったのか、ディエゴが「リオンのアイテムは補助的な役割で、役目を終えると消失するから大丈夫だ」とフォローしてくれた。
ありがとうお兄ちゃん。お礼に日本酒を晩酌に出すね。
それに元はと言えば、俺が『呪われたアイテムに転変するかも説』を提唱したのが切っ掛けなんだよな。結果的に自分で自分の首を絞めただけだけど。
「確かに、リオンのアイテムは壊れるというか、ダンジョンの魔物みてぇに光の粒子になって消えるしな。呪いのアイテムなら消えたりしねぇ気がするぜ?」
「それにリオっちのアイテムって、作ってる時も虹色にキラキラ光ってるし、呪いのアイテムになるようには見えないよねぇ?」
「そういやそうっすね……」
「そう言われれば、そうだったわ……」
周りのフォローも相まって、アマンダ姉さんとテオは再びダイスとチャロアイトを手にしてくれた。
うっ。思わず感動の涙が溢れそうだ。
これを機に、もっとちゃんとみんなをバックアップしようと心に誓う俺だった。
そして更にディエゴは俺をフォローするように、本物の呪いのアイテムとはどういうものかを説明し始めた。
「実際にある呪いのアイテムは、壊れると黒いモヤのようなモノが出る。そこが決定的な違いだな」
「え? それってディエゴさんの作ったタリスマンみたいな感じっすか?」
「……」
テオよ。それは気付いても言っちゃいけないことだぞ。みんなもあちゃーって顔をしてるし。せっかくディエゴが俺をフォローしてくれたのに台無しである。
可哀そうなので、ディエゴにはとっておきの『十四代』を晩酌に出してあげよう。慰めの意味を込めて。
そしてお兄ちゃん。もしかして魔塔に居た頃、呪いのアイテムを好奇心で壊しちゃったことでもあるのかね?
「……実際に破壊したのは俺ではなくて、他の研究員だ」
なんだ良かった。
でもその研究員さんは、呪われたんでしょう?
「幸いソイツは、呪いといっても階段の最後の段を踏み外したり、外に出ると必ず鳥の糞が頭に落ちてくると言った、軽いモノだったそうだ」
「地味に嫌な呪いね……」
「ただのドジか、不幸体質ですませられそうだな」
「それって本当に呪いなの?」
「偶発的な不幸でもそれが常に起こる為に、流石に呪いだと気付いたそうだ」
しかもその研究員さんは呪いの効果が切れるまで外出を控えなきゃならなかったらしいし、三年ぐらい細やかな不幸が続いた――――というのを、ディエゴは先輩研究員さんに聞いたのだそうだ。
呪われた本人も魔塔に所属するだけあって、これを機に研究が進むと喜んでいたから、やっぱ研究者って頭のネジが吹っ飛んでるよね。
たまたま緩い呪いだっただけで、中にはかなりやばいモノもあるって話だし。
だから呪いのアイテム壊しをしたのは随分と昔の話なんだってさ。
とはいえ死に至らないってだけで、それがずーっと続くと考えるとイヤだよね。
これが好奇心は猫をも殺すってヤツなんだろう。俺も気を付けねば。
「それじゃぁ、魔塔にはそんな呪いのアイテムが一杯あるの?」
「ああ。だが悪用される可能性もあるから持ち出しは出来ないし、厳重に保管されている」
そんなに呪いのアイテムがあると魔塔自体が呪われそうなのだが、不思議とそれら呪いのアイテムを一緒に保管しているだけだと何も起きないらしい。
使用したり持っていると必ず不幸が訪れるらしいけれど。
しかも長年の研究結果により、呪いに呪いをぶつけると相殺されることが判明したんだって。ということは、魔塔にある呪いのアイテム保管庫内は、貞〇vs伽〇子みたいな状態なのだろうか? うっわ。想像したらゾッとした。
「呪いのアイテムにも種類があって、帰属性アイテムの場合だと必ず持ち主の元へ戻るから、保管することもできないんだがな」
そうしてみんなの脳裏に、元貴族の三男坊の幸運のアイテムが思い浮かんだ。
「……放っておいても、その内不幸になりそうね」
「俺らの予想が当たってりゃそうなるんだろうな」
栄枯盛衰というか、盛者必衰というべきか。
努力せずに手に入れた幸運は、やがて失われるものだからなぁ。
それが早いか遅いかなんだろうけれど。
「じゃぁ、放っておくか?」
「それが良いと思うわ」
「どうせ自滅するだろうしな」
ラヴィアンのアイテムvs俺の作ったアイテムについて話していたような気がするのだが、最後は呪いのアイテムの話題になってしまった。
途中から「俺は悪い妖精じゃないよ!」みたいになったし。
なんかもう、みんなが俺を妖精扱いするからその気になってたし、困ることもないから放置していたことで誤解も生じて踏んだり蹴ったりだよ。
だから俺も、安易に誰かを恨んだり呪うことがないように気を付けようと思う。
人を呪わば穴二つって、こういうことを言うのかもね……。
◆
そろそろ最後の下船チャンスであるジボールへ到着するということで、退屈な船旅に飽きてきたという言い訳をするクランは下船準備をし始めた。
そこへ、グロリアストリオから新たな情報が齎された。
「ジボールにゃ、カジノがあるらしい」
「カカオ目当ての金持ちも多く集まるからな」
「リゾート地でもあるし、ラヴィアンにとっちゃカモだらけって訳だ」
話を聞けば聞くほどジボールって、名前からしてカカオの産地であるコートジボワールに似てる気がする。
カカオの他にもココナッツやコーヒーの産地であり、美しい海に囲まれたリゾート地にもなっているそうだ。
よってお忍びの貴族や豪遊目的の豪商なんかも沢山やってくる。
だからここで下船したとしても、様々な観光名所があるため不満が出ることはないようだ。お詫びの慰謝料も出るしね。
「オレらの方も、アホ共をここで下船させることになった」
「誘惑に負けずに鍛錬したら、高難易度のダンジョンに挑戦させてやるつってな」
「忍耐力の勝負だぜ」
リゾート観光をさせずに、精神修行と鍛錬を科すなんて鬼だなこの人たち。
果たして軍団のみなさんは、リゾート地の誘惑に勝てるのだろうか?
「四ツ星ランクのダンジョンもあるし、腕試しにアタックさせてもいいしな」
「遊ばせるよりはいいだろ?」
「舐めてかかると痛い目に遭うってのは、坊主のお陰で身に染みただろうしな。アホ共には良い薬になって、感謝してるんだぜ」
だから軍団の途中下船は問題がなくなったと、グロリアストリオの三人は喜んでいた。
「じゃぁ、ラヴィアンの連中は、カジノに行く可能性が高いってことか」
「間違ってもダンジョンには行かないでしょうね」
「豪遊する気満々だろうぜ。ここにゃヤツラを知る者はほぼいないだろうしな」
ハルクさんたちの情報によれば、既に都会ではラヴィアンの悪名が広まっていて、カジノは出禁になっているし、喧嘩を売られても誰も買わないんだそうだ。
彼らに身包みを剥がされて無一文になったり、勝負を挑まれて高価なアイテムをぶんどられた人も沢山いるんだって。
でもここジボールでは、ラヴィアンの悪行は知られていない。
だから必ずカジノに行くであろうことは間違いなかった。
「……行くか?」
「そうね。これはチャンスかもしれないわ」
「ヤツラのアイテムも確認したいしな」
ギガンとアマンダ姉さんが、お互い目配せし合って頷く。
そしてディエゴは、アイテムに興味があるようだ。
「お子様は行くんじゃねぇぞ。カジノは大人の社交場だからなー」
「行かないもんね~。アタシは買い物がしたいもん!」
「俺はリオリオの欲しがっている、カカオの買い付けに付き添うっす!」
「ありがとー!」
そんな訳で。
珍しいことに今回は、ジボールでの行動は大人組と若手組に別れることになった。
俺の護衛にはシルバとノワルが居るのは当然として、心を入れ替えた軍団さんが付いてきてくれることになったのである。
サボリ魔であるディエゴがいないのはちょっと不安だけど、アイテムの魅力に取りつかれてるみたいだから仕方がない。
妙に悪い顔をしているような気もするから、影響を受けないようにちょっと離れた方がいいかもね。
来るべきジボールでの下船に向けて、みんなに厄除けのおまじないをしておこう。
くわばらくわばら。
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