第102話 初回特典のようなモノ
レヴィアタンといえば、伝説の海の怪物である。
聖書では七つの大罪の『嫉妬』を司る悪魔だったかな?
この世界には天使や悪魔という概念はなく、近い存在なのは妖精でありボガードで、神に近い存在ならば精霊となるらしいけどね。宗教といっても、精霊信仰みたいなもんらしいよ。興味がないからあんまり聞いてないけど。
だから俺の既存の知識とは全くの無関係と考えていいだろう。
七ツ星ランク以上の魔物とはいえ、レヴィアタンの姿はここでは海生爬虫類なので、ワニやヘビに竜を混ぜたような姿をしていた。
なんかどっかで見たような姿なんだけど、何だったかな?
しかも全長約四十メートル。十三階建てのビルのような大きさだ。
巨大タコの倍以上の大きさだよ? そんな巨大生物、斃せる気が全くしないんだけど。
「ありゃぁ、どういう魔物だ?」
「シーサーペントでもないし、シードラゴンでもないわよっ!?」
「ザラタンでもねぇよな? つーか、そいつらを混ぜてくっつけたような見た目じゃねぇか?!」
時折海域に出没する六ツ星ランクの魔物の名を上げるが、誰一人としてあのレヴィアタンを知る者はいないようだ。
みんなの知っている海生爬虫類の大きさも巨大タコより少し大きい程度の、全長二十メートル未満らしい。
レヴィアタンはそれよりも巨大で、このダンジョン独自の魔物ってことかな?
「巨大なオクトパスといい、コイツも聞いていた話と違うだろうが!」
「ディエゴさんなら知ってるっすか?」
「―――ヤツの名は、レヴィアタン。リオンの鑑定によると、七ツ星以上だそうだ」
「嘘でしょ!?」
「六ツ星じゃないのぉっ?」
「ディエゴ、お前なら倒せそうか?」
「……いや、情報が全くないから、俺でも難しいかもしれん」
ウサミミ帽子でみんなの会話を聞きながら。Siryiからの鑑定結果をディエゴへと念波を飛ばしつつ、俺は攻略法を考えることにした。
七ツ星以上とはいえ、実際はそれ以上のランクだろう。明確な強さを測るには、既存の魔物ではない為、Siryiですら判断が難しいらしかった。
『単体攻撃は「噛みつき」がメインですが、気を付けるべきは全体攻撃である大津波を繰り出す「体当たり」、水圧砲の「ウォーターブレス」です』
近付くことも難しい相手じゃないか。
みんなには警戒するよう、ディエゴを通じて奴の攻撃手段を伝える。
『レヴィアタンは、この海域エリアの最強種で、災害級の攻撃をしてきます。そして海域エリアのフィールドボスのようです。アレを斃さない限り、六ツ星ランクの魔物は警戒してエサには食いつきません』
「なんでそんなのが……?」
フィールドボスってどういうことなんだよ。
他の六ツ星ランクの魔物でいいじゃないか。
よりにもよって、いきなりラスボスのような存在が出現するとか、初見殺しも良いところだ。
『フィールドボスなので、最初に斃した者に与えられる初回特典のようなモノが手に入る筈です』
「……そんなのいらない」
『フィールドボスを斃すことで、このエリアは通常の六ツ星ランクの魔物のみとなりますが、如何しますか?』
ここで倒さず逃げ出せば、また現れるってことか。
毎回おびき寄せる魔物がラスボスだとしたら、いつまで経ってもこの海域エリアは攻略出来ないってことになる。人海戦術という手もあるにせよ、おそらく被害は尋常ではなく出るに違いなかった。
「じゃくてんは?」
『電撃です。しかしこのパーティで、レヴィアタンを斃せるほどの電撃攻撃が出来る者はおりません』
「ディエゴでも?」
俺はすぐさまディエゴに電撃攻撃が出来るか念波を飛ばす。
だが返ってきた答えは「威力の高い電撃魔法の連発は出来ない。広範囲に影響を及ぼすから、精々一撃だろう」とのことだった。
『一撃では無理でしょうね。一時的に痺れさせるのが精一杯といったところではないでしょうか? しかも電撃以外の魔法攻撃は一切通用しません』
「―――ふむ」
電撃攻撃で痺れさせて、みんなでボコボコに殴り斃せばワンチャンあるかな?
とはいえ、威力の高い電撃攻撃となると、味方への影響もあるから難しいな。
『レヴィアタンの回復力を侮ってはなりません。痺れると言っても、せいぜい数十秒でしょうから。一旦回復すると、全体攻撃を仕掛けてきます』
「あ~……」
これはあれだね。アースドラゴンのように、回復力が高すぎる魔物だ。
「しょーがないね」
俺はリュックから、『一撃必殺』のタリスマンを取り出す。コイツに賭けるしかないのかと思うと複雑だけど。
既にレヴィアタンは餌であるタコを食べ尽くし、砂浜に居る人間を餌と見定めて向かって来ていた。
他にもエサはあるだろうに、ダンジョンの魔物って、本能的に人間を攻撃するプログラムでも組み込まれているのだろうか?
「まずい、みんな散れっ! ウォーターブレスを吐くぞ!」
大口を開けるレヴィアタンを警戒して、ギガンが叫ぶように指示を出す。沿岸から放たれる水鉄砲というには威力があり過ぎる攻撃を受けて、全員一斉に飛び退った。
遠方から放たれたのに、見事なほどに砂浜がえぐれている。洞窟の入り口まで離れている筈の俺にまで、その余波である海水塗れの砂嵐が届いた。
アレが掠りでもしたら即死は免れないだろう。
怪獣映画のゴジラ(第二形態の蒲田くん)かアイツは。放射能を吐かないだけマシってだけじゃん!
あんな化け物怪獣、人間に斃せるレベルじゃないだろっ!
軍隊ですら、攻撃するのが難しそうなのに―――。
「どうやったら斃せるのよっ!」
「ここは一旦体勢を立て直すしか―――」
「体勢を立て直すにしても、隠れる場所なんてないっすっ!」
「だだっ広い砂浜と、見晴らしのいい岩場しかないよ~っ!」
「逃げるにしても狙い撃ちされるわよっ!」
走って洞窟の出入り口に逃げようにも、狙われる可能性の方が高い。
抉れた砂浜のせいで足場も悪く、寧ろ岩場の方へ走った方が安全だった。
「アースドラゴンよりもデカイってのに、こんな少人数で立ち向かう方法なんてあんのかっ!?」
「いや、リオンが攻略法を思い付いたそうだ。もう少し待て!」
「近付けもしねぇのに、どんな攻略法があるってんだっ?!」
そうこう言っている間にも、レヴィアタンは体当たりの津波を繰り出す。
大波に攫われないよう、みんな逃げるのに必死だった。
迷っている時間もないし、後で考えれば色々やりようもあったかもしれないと反省するだろうけれども。
予期せぬ緊急事態に置いて、突発的に思い付く方法なんてたかが知れている。
頼みの綱であるディエゴの電撃攻撃も、相手を痺れさせると同時に味方にもその影響があるそうだ。電気だからね。放電しまくるみたい。
唯一攻撃手段のあるディエゴにタリスマンを持たせる方法も考えたけど、全体攻撃になるので、おそらく味方も全滅するだろう。
そしてこの手段は人数が多いほど危険な状況に陥る。
やるなら今、この時しかない。
ディエゴお兄ちゃ~ん、みんなを避難させて、電撃をお見舞いしてくれるかな?
「リオンが、電撃攻撃をしろ――と、言っている」
「ちょ、ちょっと待て。お前の電撃って―――」
「味方も痺れさせるから、やらないって言ってたじゃない!」
「無差別な全体攻撃なんだろう?!」
「奴の弱点は電撃しかない。だから離れてくれ。出来るだけ遠くに」
ここで奴を斃さない限り、何度でもラスボス状態のピンチに陥るというのは、ディエゴに伝えてある。
そして危険ではあるけれど、必勝法も考えてあると伝えた。
上手くディエゴが電撃攻撃でレヴィアタンを痺れさせれば可能ってだけなんだが。
だから最大出力でお願いします、お兄ちゃん!!
そして。
ノワルお願い。俺を掴んで空高く飛んでくれる?
「ワカッタ。ジャーキークレ」
「はいはい」
ノワルに俺以外を掴んで飛べるか聞いてみたところ、「ムリ。オモイ」ときっぱり断られた。
確かに俺以外のみんなは、細く見えてもムキムキだからね。背も高いし(くそっ)持ち上げられても高くは飛べないんだそうだ。
そしてどういう訳か、タリスマンは人間でなければ効果を発揮しない。以前ちょっとした実験で、ノワルとシルバに持たせてみたが、何の効果もなかったのである。
だからこれは、俺がやるしかない。
(―――準備は、良いか?)
(いいよ)
周囲の魔素を搔き集めながら、ディエゴが苦しそうに俺に問い掛けて来た。
俺も覚悟を決めて頷いた。
それを合図に、俺はノワルに掴まれて、空高く舞い上がる。
レヴィアタンは再びウォーターブレスを吐き出そうと、大きく口を開けているところだった。
そうして俺が電撃の影響範囲から離れたのを確認したディエゴは、ありったけの魔力を搔き集めると、咆哮しようとするレヴィアタンに向かって電撃を打ち放った。
稲妻のようにジグザクに放たれる、落雷のような電撃によって、視界が真っ白に埋め尽くされる。ゴーグル越しだからこそ、辛うじて目が潰されずにいられるけれど、激しい音と光で一瞬時が止まったように感じた。
『―――マスター、レヴィアタンが、電撃によって麻痺しました。上空への影響はありません』
Siryiに状況を確認してもらう。上手く痺れているようだ。
そんじゃまぁ、一撃必殺の効果を確認してみようか。
「えいっ」
電撃によって一時的に痺れたレヴィアタンに向かって、電撃の攻撃範囲から離れていた空の上から俺は包丁を投げつけた。
あれだけ大きいと、外す方が難しいよね。外したら一巻の終わりだけど。
一撃だったら何でも良いんじゃないかな~という考えの下。
俺の持っている武器って、包丁ぐらいしかないのが残念ではあるが。仕方がないよね。ついでに掛け声も間抜けだけど気にするな。
投げ放たれた包丁は真っすぐレヴィアタンに向かって落ちて行き、刃先が奴の表皮に触れた瞬間、唸り声を上げることなくヤツは動きを止めて砂浜にもんどりうって倒れ込んだ。
陸に上がって暴れようとしていたところ、間一髪で間に合ったって感じだね。
俺の握り締めていたタリスマンも、包丁の切っ先がレヴィアタンに触れた瞬間に、弾けて壊れた。
確りとタリスマンの効果を発揮した証拠だろう。
う~ん、やっぱこのタリスマンは危険すぎる。
一撃の判定があの程度でも効果があるなんて怖すぎるだろっ!
暫くすると、ダンジョンの魔物を斃した時と同じく、レヴィアタンはキラキラと光を放つと消えて行った。
そうして。
奴が消えて残されていたのは、ヒトデのような星の形をしたドロップ品のみ。
それ以外は何もなかった。
「なんだろうね?」
放電も収まり、避難していたみんなもよろよろと近付いて来る。やっぱりちょっと帯電したようだ。
一足先にノワルから砂浜に降ろされた俺は、ヒトデの形をしたドロップ品を拾い上げてSiryiに確認してみた。
『これは―――ダンジョンコアですね』
Siryiの鑑定によると、レヴィアタンのドロップ品は、ダンジョンコアらしい。
でもダンジョンコアって何だろう。どこかで聞いたことがあるような気はするんだけど、価値のあるモノなのだろうか?
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