第2話 ブラウニーとの出会い(冒険者視点)
妖精族(ブラウニー)と呼ばれる、不思議な種族がいるというのを聞いたことがあるだろうか?
彼らは勤勉で礼儀正しく、賢く手先が器用とされ、美味しいものに目がなく、美味しくない食べ物を与えると、文句は言わないがいつのまにかいなくなるそうだ。
そして彼らが現れれば治安が良くなったり、思いがけぬ幸運が訪れるとされ、見つけ次第構い倒さない程度に接触を試みるというのが、暗黙の了解となっていた。
だがそれが非常に難しい。
友好的でありながら構い倒さずにどう接触すればいいというのだ。
とはいえ、そんな生き物に出会ったことはなく。
扱いの難しい妖精族(ブラウニー)の存在は、最早おとぎ話として語り継がれているだけとなっていた―――がしかし。
「ね、ねぇ……、ギガンさん……。あれ、ブラウニーじゃないすかね?」
「あん?ブラウニーって何だよ。まだ宵の口にもなってねぇのに、寝惚けてんのか?」
ギガンと呼ばれた大男は、先程狩ったボアの血抜きをしているところへ声を掛けられ、パーティーメンバーに加わってまだ日の浅い青年を訝し気に見遣る。
「違うっすよ!あそこ、ホラ、あの木の茂みに隠れてるっす!」
興奮気味に騒ぐ、くすんだ金髪に、ヘーゼルの瞳をした青年テオは、ギガンの肩を叩きながら指をさした。
「どうせ魔狼か何かだろうが。アイツら、俺らの狩った獲物を狙う習性があるからな」
「違うっす!人っすよ人っ!でもあれ、絶対ブラウニーだって!」
「ブラウニーって、お前なぁ。ありゃ、おとぎ話の種族だろうが。夢見てんじゃねぇよ」
夢見がちな青年であるテオは、伝説やおとぎ話に出てくる不思議生物に出会いたくて冒険者になった変わり者である。だからきっと、おとぎ話に出てくる妖精見たさに、思い込みでそう信じたいのだと思っていた。
がしかし、面倒臭そうに指をさす方向へ視線を向けると、ひょこりと顔を覗かせる存在があった。
「な?な!?アレ、ブラウニーみたいっすよね?」
「……あ、ああ……。いや、ただの子供だろ?いや、子供が何でこんな森の中に居るんだ?」
魔素が濃く魔獣が出る森に、冒険者でも狩人でもない人間が入り込むことはない。何せ危ないから禁止されているのだ。それ以前に、魔素が濃すぎて子供なら森に入る前に気分が悪くなるだろう。
そうしてギガンとテオは、茂みからこちらの様子を窺っている子供をちらりと見遣った。
「あら……?赤い帽子、小さい背丈、見たことのない奇妙な茶色の衣服、革で出来た大きな背負い袋。確かに、ブラウニーの特徴そのものねぇ?」
そう呟くように口にしたのは、パーティメンバーの魔術師であり、リーダーでもある女性だった。
単に赤っぽい(濃いオレンジ)帽子は熊避けであり、虫を寄せ付けにくい茶色の衣服は山菜取りの基本スタイルだ。背丈が小さいのは余計なお世話だと、ブラウニー呼ばわりされた人物なら文句を言いそうだけれど。
「じゃぁ、ちょっと声をかけ―――」
「待ちなさいっ!」
テオが喜び勇んで駆け寄ろうとするのを、リーダーである女性が呼び止める。
「な、なんすか?今このチャンスを逃したら、また出会えるか判んないんですよ!?」
「だからよ。慎重に、驚かさないようにしなさい……」
「迷い込んだガキの可能性の方があるだろうけどな?」
「それもそうね、でも」
声を荒げては駄目よと、彼女はテオとギガンの肩を掴んで留めた。
妖精だろうが、ただの人間の子供だろうが、夜が更けてしまえば更に危険が伴う。
正体はともかくとして、保護しなければならない対象なのは違いなかった。
そうして始まった『だるまさんが転んだ』は、ブラウニーが警戒を弱めて近付いてくるまで、小一時間ほど続いたのである。
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