第67話 不用品(無駄物買い)の大放出
「その魔道具、便利だな」
「そうだねー」
お利口さんなルンボが店舗内を清掃しているのを眺めながら、俺たちはまったりとコーヒーを飲んでいた。
シルバとノワル、そして俺とディエゴだけというのは、久しぶりな感じがするね。
コテージから出なかった時は、これが普通だっただけに。
旅行というには長く、旅というには短いようなアントネストまでの道のりの間。
人付き合いが苦手な俺もこの世界でかなり鍛えられたのか、スプリガンのメンバー以外の知り合いも増えているし、なんだか不思議な感じがする。
あっちとこっちの世界では、何が違うのだろうか?
やっぱ妖精と誤解されているのも一つの理由なんだろうけど、俺を妖精だと思っていない人とも、余り面倒だと思わず(シュテルさんを除く)付き合えているような気がするんだよね。
そういう人たちは俺を子供だと思っているから、扱いや対応が甘く優しい。お陰で割とやりたい放題だ。ほんと、甘やかされてるよな~。
不本意だけど、俺の子供のふりも板についてきた感じだ。
「そろそろ掃除も終わるな」
「うん」
カウンター周りは掃除していたんだけど、店内の方がまだだったんだよね。
生活空間は二階と、食事の時に使用されるカウンター部分だけとはいえ、基本土足だし埃っぽいのは拙いということで、ルンボで床の掃除中である。
入り口には靴拭きマットが置いてあるけど、それもハゲにすることなく汚れだけを吸い込んでいる。なんていい子なんだろうか。最早別人(?)である。
ルンボは充電式だから動くのは不思議じゃないとはいえ、他の家電(熟成庫他)は電源がなくても動くからおかしいと言えばおかしい。
自宅ではアレクサが家電の大部分を支配(連携)していたのだけど、今考えると、設定していなかった家電までアイツは動かしていたような気がする。
なんだかんだ快適だったので気にする程でもないと放置していたのだけれど。
しかし今、その謎を追求するのはちょっと怖い。なんか面倒なことになりそうな予感がするし、そういうのは触れないに限るのだ。
取りあえず、このルンボが優秀だったということで納得しておこう。
ディエゴはルンボが魔晶石で動いていると思っているようだし、「回路は複雑そうだが、作れなくもない。だが障害物を避けるにはどうしたら……」等と、ブツブツ言っているので放っておくことにする。
作れるか作れないかで判断するので、やっぱりディエゴの判定はザルだよね。
「じゃぁつぎー」
掃除を終えて戻って来たお利口さんなルンボをリュックに仕舞う。
店舗内はルンボが粗方掃除を済ませたので、今度は二階の女性用の寝室へ向かうことにした。
貴重品はマジックバックの中なので、それ以外は何もないから好きにして良いと許可をもらってあるので構わずドアを開けると、内装は男部屋と同じでベッド以外には何もなく、ロフト部分がないせいで少し狭かった。
とはいえ、日本人の感覚からしたらかなり広いんだけどね。天井も高いし。
ただ物がない方が狭く感じるんだからおかしなものだ。
では早速、女性たちに喜んでもらうべく、この部屋の模様替えをしよう。
まずは一つだけある窓に、カーテンをかけて日除けをしなくちゃね。夏だから日差しが強くなっているし、この部屋は西向きだから夕方になれば室温が上昇する。
俺たちの部屋は東向きに窓があるので、眩しくてみんな早くに目が覚めたんだよ。なので早々に
ロフトの窓はガラスじゃなくて木の扉だから、開けないと日は差さないから問題ないんだけどね。自分だけ枕元にヘッドライトを置いてあることは秘密だ。
女性の部屋なので、
日本の夏は暑くて湿度が高いから、この手の日除けグッズは沢山持っているのだ。
しかも予備がないと不安になるので、二つ以上購入するのが癖になっている。
ということで、窓よりも少し大きくて長いロールスクリーンを、(設置が簡単だから)ディエゴに頼んで掛けることにした。
身長のせいで手が届かないんだよ!
次は来客用の高級羽毛敷布団(爺さんが訪問販売で買わされた)を取り出し、唯一置いてあるベッドに敷く。お。サイズもちょうどいいや。そこにひんやり素材の掛け布団を乗せ、枕も置いた。
この枕も快眠だの低反発だのという謳い文句で購入したのはいいけれど、頭を乗せてなんか違うと思って使わなかったモノである。ショップに行って確認しなかったのが敗因だ。そしてネット通販の限界を痛感した。
他に何かあったかなと思い出しながら、そう言えば買ったのにほぼ使うことのなかったアレが浮かんだ。
「それは、何だ?」
「ダメなクッション?」
俺にとっては埋もれるだけで終わった無駄にデカイクッションというか、チェアーというかソファーというか、そういう商品である。
人をダメにするという謳い文句通り、身動きが取れなくなるだけだった。
リラックス以前の問題で、起き上がるのに苦労する方のダメな奴だ。
こういう商品って、合う合わないってあるよね~。コイツがダメならヨ〇ボーだと、また別のをネット購入して失敗を繰り返すのである。(懲りてない)
しかもお高目だったにもかかわらず、直ぐに押し入れの肥やしとして放置されていた可哀想な奴なわけで。もしかしたらここで日の目を見るかもしれないと、女性部屋の飾りとして置くことにした。
俺には合わなかったけど、チェリッシュやアマンダ姉さんなら優雅に寛げるサイズかもしれないし。俺には起き上がるたびに転げ落ちる欠陥品だったけどね。
他にも買ったはいいけど、使われなかったカウチやテーブル、ベッドサイドチェスト等も取り出し、それをディエゴが適当に配置していく。
俺の持ち物には、こういう無駄な物が多い。
自分でも判っちゃいるんだけど、見てたら欲しくなってしまって、サイズとか考えずに購入しちゃうんだよね。(密林の罠)
どう考えても和室に合わない洋風の飾り棚とか、テーブルとか、酔っているとわけわかんない間にポチってしまう癖があった。
無駄に爺さんの家が広いのもあって、それらガラクタを収納できる部屋があるのも悪い。(本当に悪いのは俺だけど)必要最低限の生活用品で暮らすミニマリストから見れば、怒られそうな無駄物買いを仕出かしている。(断捨離するのも面倒)
それらを取り出し、二人で適当に模様替えをしていくことにした。
「気に入らなければ、自分たちで配置換えするだろう」
「そうだねー」
センスもクソもない模様替えなので、後は自分たちで好きに変えて頂こう。
ただ物自体は良いと思うんだよね。素面の時は冷静なので値段を見て買うのを諦めることもあるけど、困ったことに酔うとバカな買い物をしてしまう。だから現在は禁酒中なんだけどね!
この部屋に敷いたカーペットも、夏用のひんやり素材で作られていて、確か結構な値段だったと記憶している。ただ畳の部屋に敷くとなった時に、畳の方がひんやりしていたので、ガラクタ置き場へ直行された曰く付きだけど。
漸くそれらが使われるのだと思うと、俺の無駄物買いも役に立ったというべきかな? (アレクサにバカにされたことはこの際スルー)
そして最後に、何となく部屋に彩を加えたくて、おもしろキャンドルを取り出す。所謂本物に似せた『お供え物ろうそく』である。そこに興味本位で買ってしまった果物やスイーツ類の食品サンプルも添えてみた。
いつ見ても本物そっくりで美味しそうな食品サンプルだね。流石日本の職人さんである。細かいところにも拘りが見える逸品だ。
インテリアとして棚に飾ったら面白そうだと思ったんだけど、こういうのはセンスが必要なので、俺の部屋で妙に浮いていた代物だ。
それらをなんかイイ感じにテーブルに並べて俺は満足気に頷いた。
よしよし。旅館やホテルのおもてなしっぽくなったぞ。まぁ、飾りだから食べれないけど。
「それは、そこに置いていて大丈夫なのか?」
「おもてなしー」
「おもてなしとは?」
「う~ん?」
そう言えば、旅館のお饅頭やお茶って、おもてなしの意味もあるけど、低血糖やのどの渇きを癒すためでもあったような?
「あ、そうだ」
コードレスタイプのレトロ風電気ケトル(お高い)もあったことを思い出し、それも併せてテーブルに置く。お洒落なティーカップは持っていないけど、猫の足型で裏が肉球になっている可愛いのがあったから、それも一緒に使ってねと二つ(三毛猫と黒猫タイプ)取り出した。
するとなんということでしょう。
女性同士が楽しくおしゃべりしながら、ティータイムを楽しむ空間になった。ような気がする。多分。
だが食べ物は全てフェイクである。
「ほんものもおく?」
「もしかして、これは全部偽物なのか?」
「うん」
もしかして本物だと思って「そこに置いていて大丈夫か?」って聞いたのか。
だから偽物だよと俺が頷くと、ディエゴは食品サンプルやお供え物ろうそくを手に取って、じっくりと眺めたり匂いを嗅いでいた。
お供え物ろうそくはアロマキャンドルみたいに匂いがするけど、食品サンプルは匂わないよ?
「まぁ……、これはこれでいいだろう」
「そう?」
ディエゴが良いと言うならいいことにしておく。
ぼそっと一言「これも妖精の悪戯か」って呟いていたけど、別に悪戯のつもりはないんだけどな~。だって飾りだし、触れば偽物だって判るもん。……判るよね?
「後は俺たちの部屋にも、適当に何か物を置くか?」
「うん」
女性部屋と違って、さらに適当に色々置けばいいだろう。
野郎部屋の方は俺の持ち物の中でも特におかしなモノ(アレクサ談)を取り出して、模様替えをすることにした。
そして野郎部屋は土足厳禁として、入り口に靴置き場を設置し、スリッパを並べて置くことにした。
テオやギガンは床でゴロゴロするから、土足だと嫌なんだよね。そこに布団を敷くから余計にね。なのでスリッパか裸足を徹底させようと思う。
ディエゴお兄ちゃん、夏だからこの『竹踏み』か『い草』のスリッパ履いてね。
俺はゴジラスリッパ履くから。何でそんな変な顔してんの?
「これは、なんだ?」
「ぷらねたりうむ」
「?」
「くらくなるとわかるー」
家庭用プラネタリウム で、『ギャラクシー スタープロジェクターライト』という。音楽も聞けるし、音声機能も付いている。がしかし、ここにはアレクサがいないので、単なるプラネタリウムのライト機能しか使えないだろうけどね。
ぐっすりオヤスヤするために、このプラネタリウムで癒しを求めようと購入したのに、アイツは時々これを使って俺に嫌がらせをするんだよな。
真夜中にパーティ状態にしたことは忘れないからな! (ヒップホップは止めろ)
子供向けアニメソングばっかり流すな! (雰囲気を考えろ)
何が情操教育だ! (日本昔話を読み聞かせるんじゃない)
だがここではアイツの支配から逃れているので、本来の目的である安らぎ空間を演出してくれることだろう。
女性の部屋にも、似たようなベッドライトを置いた方が良いかな? 確かまだ他にあったと思う。触ると色が変化する、丸くて可愛いのがね。
ライトと言えば、夜は魔道ランプの照明があるけど、階段が暗いんだよなぁ。人感センサー付きのステップライトがあった筈だし、試しに設置してみよう。
ソーラー式の屋外用だけど。土足だから気にしない。
気になるのはソーラー式という点であり、センサーが反応するかってとこだよね。(確認したらちゃんと点灯した)
「それは、なんだ?」
「うんどうよう?」
俺が取り出した健康器具を見て、ディエゴがちょっと変な顔をした。
爺さんが運動不足解消のために買った健康足踏み機とかいう商品だったかな?
俺は使わないから放置してたけど、思い出したので出してみた。
なので一応、使い方を教える。
「こうやって、ふっむぅ~っ?!」
なんだこれ。めっちゃ足に負担がかかるんだけど!
爺さんはホイホイ踏んでたけど、これってこんなに力が必要だったっけ?
俺が顔を真っ赤にして足踏みしていると、ディエゴもやりたそうにしていたので代わってあげた。
「これは……っ、鍛えられるな」
「……うん」
ディエゴも眉間に皺を寄せながら踏んでいる。俺に比べると楽そうだけど、それでも結構なしんどさのようだ。
よし、これはテオにでも使わせよう。足の筋肉を鍛えるのにいいかもしれない。それか【GGG】のみなさんに譲ってもいいかな? 不思議道具過ぎて駄目かなぁ。
「色々あるな」
「うん」
他にも買ったはいいけど使わず放置された、可変式ダンベルとか、腹筋ローラーも取り出す。(ハンドルを掴んで床でコロコロするやつね)
そしてディエゴはそれらを見て、「作れないこともないな」とか呟いている。
まぁ、こういう健康器具は電動式じゃないから、仕組みさえ理解すれば作れないこともないんだろうけどねぇ。
やっぱトレーニーな【GGG】のみなさんに譲ってあげた方が良いかな?
腹筋ローラーって、地味にしんどいんだよ。お陰で一回使って直ぐに
「これで終わりか?」
「まだあるよー」
カーペットにベッド替わりのマットレス、ローテーブル等、女性部屋の物よりお洒落さはないけれど、俺的に使い勝手のいい物を取り出していく。(ちょっと年季が入っている)
シルバの寝床用に大きなクッションやなんちゃらスリーパーを出し、ノワルには止まり木になりそうなシェルフラックを取り出すと喜んでくれた。
このマットレスは寝転がりやすくて気持ちいい? それは良かった。
え? ノワルもクッションが欲しいの? いいよ~クッションの種類は色々あるからね。好きなのを選ぶといいよ。
何故こんなにクッションを持っているかって?
俺はこういう大きくてもふもふしたクッションを見ると欲しくなってしまうのである。(ぬいぐるみはなんか違う)だからやたらと持っているのだが、(失敗もする)今はもふもふしたシルバやノワルがいるのでクッションは必要ないのだ。
こういう癒しグッズに頼らなくても、今は癒されているってことかな?
俺のロフトにはもっと色々置いたけど、見ちゃダメだよって言っておいた。
見られたからってどうってことはないんだけど、アレクサ曰くガラクタに囲まれてないと落ち着かないんだからしょうがない。(小動物の巣とか言われたし)
だがそんなのかんけーねーのである。
自室用の小さな冷蔵庫や、お気に入りの図鑑(この世界では役に立たない)とか、昆虫の模型に変わった形の石コロを並べて満足する。
誰の視点よりも高いところだから、見下ろせるのは気分が良い。
ここで誰憚ることなくゴロゴロできるなんて、最高ではないかね諸君!
コテージの部屋ではできなかったことが、
そうして寝室部分をなんちゃって快適空間に模様替えし終え、最後の仕上げに一階にある浴室にドラム式洗濯機や、バスグッズ等を男女別に設置した。(因みにキャンプ用トイレもここに置いてある)
昨日はアマンダ姉さんたちに譲った、例のシャワータンクを設置できるテントを使ったんだけど、お風呂とかどうしようね?
浴室用の魔道具は大きすぎるし、わざわざ購入したところで無駄になるし。でも浴槽がないのが寂しいんだよなぁ。俺の家にある浴槽とか、取り出せるのかな――――あ、取り出せた。
でもこれ、ミニバスタブタイプのヒノキの浴槽なのだけれど、俺のサイズでちょうどいいから、みんなには小さすぎるような気がする。そんなことを考えていたら、ディエゴが魔法でお湯を溜めてくれるって。
「他の連中は別に使うことはないだろう?」
「そう?」
「湯に浸かる習慣はないからな」
「そっかー」
みんなはお湯を溜めて身体を洗うぐらいなら使うだろうとのことで、そのまま置いておくことにしよう。湯に浸かるのは俺だけだろうしね。
他には洗面器や
「かんりょー」
「本当に、色々持っていたんだな……」
「そだねー」
「まだあるのか?」
「あるかもねー」
「……」
俺のリュックから色々出てくることに、ディエゴはあんまり驚かなくなっていたけれど、流石に家具類がこれだけ出てくると驚きを通り越して呆れの方が強いみたい。
自分でもこれだけ無駄な物を買っていたことを再確認してびっくりだよ。
そうして。
大体こんなもんかと、思いつく限りの模様替えをし終わったので、俺たちはお昼を店舗部分のカウンターでとると、アクセサリーショップへ出かけることにした。
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