第66話 集めよう!ドラゴンフライボール
やることが、やることが、多すぎる!
全部自分のせいなんだけどね!
トンボ玉を集めなきゃいけないし、でも他の巨大昆虫も見たいし、プロテインの開発も途中だし、どうして俺の身体は一つなのだろうか?
この際、分裂しても良いと思うのだが。異世界なんだから、そういう妙な能力が生えたりしないのだろうか?
でも生えたりしないんだよな~。妖精だと勘違いされているけど、相変わらずただの人間でしかないので。とはいえ、普通の人間であるとも言い難い状態である。
よって妙な能力に目覚めるかもしれない可能性は無きにしも非ず。
いやいや、落ち着け俺。ありもしない可能性に期待するな。
こういう時は、出来ることから処理していこう。
出来ないことより、出来ることからだ。
プロテインは一先ず置いておこう。不味くても文句は言われていない。テオだけには不評だが。甘いもので誤魔化せる。
それに魔昆虫見学ツアーは、急がなくてもいいような気がする。だってダンジョンは逃げないし。予定として一月ほど宿泊予約を入れたので、時間的にはまだ余裕があると考えていいだろう。俺としても夏休み感覚だし。
となると、目下の課題は【トンボ玉】の効果を調べることかな? 鑑定虫メガネの性能を確認したいし、一番興味のある研究内容でもある。
鑑定虫メガネによれば、ゴミのようなドロップ品でも、効果のあるアイテムに化ける可能性を秘めている。
とはいえ、シュテルさんの集めている『
しかしそれを確認するためにも、集めなければならないのだ。
ドラゴンフライボールを!
なので俺はディエゴに相談することにした。普段は残念なお兄ちゃんだけど、この手の研究とか好きそうだもんね。
朝食をとりながら本日の予定をみんなで相談しているところに、俺がディエゴに頼んでおいた提案をしてもらうことにした。
「草原エリアで、大量にガラス玉を集めたいって?」
「今日は森林エリアに行くんじゃなかったっすか?」
「例の鑑定虫メガネによると、あのガラス玉は【トンボ玉】という名で、個数を揃えることで効果のあるアイテムになるんだそうだ」
「それであんなに拾ってたのね?」
「え? それじゃぁ、またあの巨大トンボを追いかけるの?」
ダメかな? と、しょんぼりした顔(唸れ俺の演技力)でみんなを上目遣いで見上げる。(身長差のせいで図らずともそうなる)
「うっ、い、いや、どうせ決まった予定もねぇし、俺は構わねぇよ?」
「そ、そうね! リオンが言うなら、きっと素敵な効果のあるアイテムになるんじゃないかしら?!」
「俺は最初から反対してないっすよ?」
「あ~、アタシもなんだか、あのガラス玉を集めたくなっちゃった!」
「そんじゃぁ、今日は草原エリアを中心に、トンボ玉集めをするか?」
おっし! アマンダ姉さんの教え通り可愛い(可哀想?)を武器にした結果(自尊心がちょっとだけ傷付くけれど)、みんな快くトンボ玉集めを引き受けてくれることになった。
見た目が子供というだけで、これ程までの効果があるとはね。トンボ玉よりも威力があるな……。自分でやっておいて引くけど。
「それとバッタのドロップ品も欲しいそうだ」
「あの気味の悪い液玉も?」
「中身は硬化液で、使い道があるらしい」
「いともほしー」
「スパイダーシルク? 量がないと駄目な素材よね?」
「魔物のドロップ品の割に、燃えやすく水に弱いからな。普通の糸よりゃ綺麗な見た目だが、そこまで需要はないんだよなぁ?」
「硬化液に浸すと、強度が増すんだそうだ」
「へぇ~、そんな使い道があったんだ~」
ディエゴから改めて詳しい説明を受け、みんなに手に入れたいドロップ品の理解をしてもらう。でないと意味不明なドロップ品だからって、捨て置かれたら勿体ないもんね。
「それで昨日、色々やってたんすねぇ」
「何してるのか判んなかったけど、そういうことだったんだ~」
「判ったわ。トンボ玉だけでなくて、他のドロップ品も捨てずに全部拾えばいいのね?」
「リオンが欲しいって言ってんなら、何かに使えるってことだし、その他も見逃さずに全部拾ってこようぜ」
「ありがとー!」
でもこれだけでは俺の我儘なので、少ない中から作ってみた、効果のありそうな【タリスマン】を渡すことにした。
もし効果を実感できれば、トンボ玉を集めるのも苦にならないだろう。多分。
「火力アップの効果があるの?」
「そうみたい」
「攻撃力なのか、火属性の魔力なのかは判明していないそうだがな」
一番多く手に入ったアキアカネのトンボ玉と、ハグロトンボのトンボ玉を、2112の鏡数字に繋げたところ、『火力上昇効果』という表示になった。なので、火属性(&風属性)のアマンダ姉さんに渡した。火力上昇とはいえ、火属性の力なのか、魔力そのものなのか、体力的なものなのかがいまいち判明してないんだけどね。
火力とは威力でもある訳で。ダメージを与える力が増すというのなら、みんなで使用感を試して欲しいと頼む。
ただどれほどアップしたかは判らないので、使用には注意して欲しいと伝えた。
「最初に私が使ってみて、後はみんなが試すって感じね。わかったわ」
「それと、これー」
トンボによって出現率が違うので、最強のオニヤンマのトンボ玉は一つしかドロップしていないが、その他はそこそこの数があった。
なのでもう一種類、効果の違う【タリスマン】が作れたので渡すことにした。
特にアオハダトンボや、アキアカネやハグロトンボが多かったしね。自然界でもやたらと飛び回っている種類でもあり、このダンジョンでも例外はなかった。
しかしヤンマ系は非常に少なく、ギンヤンマやクロスジギンヤンマ、オオルリボシヤンマは、オニヤンマと同じく見かけると俺のテンションが上がるのだが、トンボ玉のドロップ率も低いので数がない。全てが二~三個ずつあるかないかといったところである。一日中、草原エリアでトンボを追いかけまわした結果がコレだよ。
オネーサンやシャバーニさんたちの狩りの成果を聞けば、俺たちって何やってたんだろうって、情けなくなるのも仕方がない。
しかもオニヤンマは最初にエンカウントするだけで、大量に出現する訳じゃないんだよな~。ゲームでいうところの初見殺しみたいな役割でもあるんだろう。しかもオニヤンマを斃さないと、他の魔昆虫が出て来ないんだよね。
うん。やっぱこの世界のダンジョンは捻くれている。
妖精の悪戯と思われても仕方がない仕様だ。
でも
それらの実験をお願いするにあたり、比較的出現率が高く、手に入りやすい同じ種類のトンボ玉で作ってみた
ブレスレットやネックレスはサイズを考えないといけないし、俺が簡単に作れるアクセサリーとなると
「運気上昇のタリスマンだって?」
「そうらしーよ?」
同じ柄のトンボ玉を三つ繋げると、全て『運気上昇効果』と表示された。
これは全てのトンボ玉に言えることなので、種類の違いでどれだけ運気が上昇するかは判らない。ただし最強オニヤンマの
しかも柄が違ったり三つ以上繋げると効果はなくなるようで、同じ種類でも試しに四つにしたら『運気下降効果』に変化したので慌ててバラした。
運気を下降させるって、意味があるのかどうか判んなくて怖いんだけど!
そもそも数もそれほどないので、『運気上昇効果』のタリスマンを沢山は作れないのだけれど、三つずつなら人数分作れたので渡すことにした。
ただしオニヤンマのはない。大事なことだから二度言う。だってビギナーズラックで手に入れた一個しかないんだよ? オニヤンマのトンボ玉の効果がどれほどなのか、確かめるには数を揃えなければならないのだ。
ヤンマ系のトンボは何故こんなにも出現率が低く、そしてドロップ率が低いのか。多分だけど、それだけ効果が高いってことなのかもね。トンボ玉しかドロップさせないくせに、色々と意地が悪いダンジョンだよ全く。
「お前さんのお陰で、運気は高い方だと思うんだがなぁ?」
「そうっすよね。でも、これ以上運がアップするとしたら、どうなるんすかね?」
「ものすごぉ~く、良いことがあるんじゃない?」
俺のお陰で運気がアップするとかありえないんだけど、まぁ、引き寄せの法則みたいに、そう思っていればそうなるのかもね。
信じる者は救われる。宗教ってそういうところから始まるみたいなもんだ。
この【タリスマン】も、そういう意味では『幸運の壺』みたいなもんだろうし。だから宗教って、妙な幸運のなんちゃらを売りつけてんだろうな。実際の効果は全くないにも拘らず、何故か売れるっていう。同じ思い込みであるプラシーボ(プラセボ)効果より胡散臭いのにね。
「それで、ディエゴはどうするんだ?」
「俺は、リオンとアクセサリーショップに行って、トンボ玉を買おうと思う」
「まぁたアンタだけ楽しようとして!」
「アクセサリーショップなら、アタシだって行きた~いっ!」
相変わらず隙あらばサボろうとするディエゴに、女性陣から非難の声が上がった。
しかしこればかりはどうしようもない。俺の拙い言葉では、お店の人と交渉など出来ようもなく、通訳のディエゴに伝えてもらうしか手立てがないのだ。
なのでここはひとつ提案をすることにした。
「ここをもっと快適にしてくれるの?」
「うん」
「アタシたちの部屋を?」
「うん」
俺の不要在庫でね。ディエゴは模様替えのお手伝い要員だ。
コテージ宿泊の時とは違って、ここには生活に必要な家具類が全くないので、俺の家にある使っていない家具類を出せばいいのでは? と思い付いた。
寝るだけならいいんだろうけど、俺は少しでも快適に過ごしたいのだ。
でも俺だけ快適では申し訳ないし、スプリガンのメンバーになら、俺の世界の家具類を見せても問題ないだろう。二階に誰も招かなければいいんだから。
「お前たちが帰ってくるまでに、ある程度は心地好くしておく」
「くっ、ちょっと楽しみだなんて、そんなことは―――思ってしまったわっ!」
「リオっちの快適って、想像できないけど、絶対良いに決まってるもん!」
寝室に少し手入れさせて欲しいと伝えると、快くOKしてくれたのでこれで良し。
どうせ後からそうするつもりだったからね。
俺たちの男部屋の方は、お布団の導入によってかなり寝心地が良くなったのだが、女性部屋の方はベッドはあっても実は寝袋だったのを今朝知った。
俺たちの方も寝袋だと思っているので、コレがバレたらちょっと拙い。
というのも今朝、床に直に布団を敷くのも嫌だなと思って、ベッドの代わりにマットレスを取り出していたら、ちょっと待てとギガンからストップがかかった。
こちらばかり快適にして良いものかどうか。この部屋を見られたら色んな意味で終わるかもしれないので、布団だけにしないかと言われたのである。
そう言われればそうだなと、自分たちのことしか考えておらず、異性として苦手な女性陣とはあまり拘わらないので、気遣いが出来ていなかったのを反省した出来事である。
ギガンは他の野郎(俺を含む)と比べて、何だかんだ周りを良く見てるよね。
彼女たちだって同じ仲間なのだから、野郎とばかり遊んでいては駄目だろう。
それに女性陣に俺のお願いを快く引き受けてもらうためにも、サービスを怠ってはならないと改めて気を引き締めたのだった。
「あ~、俺らの方の部屋も、そうなるのか?」
「うん」
「わ~楽しみっすね~!」
君らはもう少し演技力を磨け。ちょっとわざとらしすぎるぞ。
だがまあいい。これで『運気上昇効果』のタリスマンによって、ドロップ率が変化するのかどうかが検証されるだろう。結果が楽しみだね!
「それじゃ、行ってくるっす~!」
「いっぱい獲ってくるねぇ~!」
「いってらっしゃーい」
お昼ご飯(お弁当)を渡し、みんなを見送る。
そうして俺たちはアクセサリーショップに行く前に、部屋の模様替えをすることにした。
面倒なことは先に済ませておこう精神である。
さて、女性にウケル家具とかあったかな~?
因みに店舗にあるカウンターの調理場は、既に俺のキャンプ用品の調理器具や調味料類を並べて、使いやすく快適な状態になっている。
朝だけオープンする喫茶店として遊んでるけど、みんなからは好評だよ!
アレクサの目を盗んで購入したムキムキ筋肉マグカップや、大仏マグカップを棚に並べているのを見て変な顔をされたけど気にしない。
ここでは余程のことでもない限り、みんな俺の好きにさせてくれるからね。
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