第52話 娯楽の提案
賊を警邏隊に引き渡す際、懸賞金が掛かっていた連中だったこともあり、罠を仕掛けた俺たちスプリガンにはその報奨金が貰えることになった。
とはいえ罠を仕掛けた後は基本放置だったし、他の冒険者さんたちのスムーズな協力により、恙なく警邏隊へ引き渡せたので、俺たちだけの手柄にするのも申し訳なかった。
「というわけで、おーぐいたいかいを、かいさいします」
「大食い?」
「大会?」
なんだそれはと、テオとチェリッシュは首を傾げた。
この世界にはそのような娯楽的催しはなく、判らないのも無理はない。
ではその説明を、ディエゴお兄ちゃん&アマンダ姉さん(時々ギガン)からして貰いましょう。
お願いします!
「ここから三日ほど行った先に、エンゲル平原に出るんだが。そこにエアレーの群れが出没していて、近隣の街へ向かう旅人の行く手を阻んでいる。それで近隣の街の冒険者ギルドから討伐依頼が出ているそうだ」
「それは知ってるっす」
「はい! 警邏隊の人が、気を付けるように言ってました!」
はいはいと、良い子の返事をする、テオとチェリッシュ。
本題はココからなんだけどね。
「腕に自信のある冒険者が、この依頼を受けるつもりらしい」
「しかも、エアレーの肉と皮や角は売れるしな」
「他の冒険者も、今から楽しみにしているそうよ」
商人さんたちもワクワクしている。常に商談をしている目ざとい人たちなので、仕入れたキャリュフと一緒に、美味しいお肉も仕入れようという魂胆だ。
なので、討伐依頼も積極的に奨励している。
「大食い大会は、そのエアレーの肉が参加資格となる」
「どういうことっすか?」
「エアレーの肉をリオンが調理し、その料理を食べるだけの、簡単な大会を開催したいそうだ」
「そこで手に入れた報奨金を、優勝者の賞金として提供しようってことね」
「ただし、参加者は一パーティから一人だけだ」
全員が参加してたら護衛にならないからね。
商人さんにも相談して、長旅の間の娯楽として、安全を確保できるならやっても良いと承諾して貰っている。事前の根回しは必要だからね!
開催場所はエアレーの討伐依頼を出している街でやるので、賊や魔物の出現の心配はしなくていいのだが。そこで幾人かの商人さんと護衛の冒険者も離脱して、アントネストとは別方角の領地に行くらしいしね。だから苦楽を共にした人たちと、送別会気分でやってみたいなって言ってみた。
広場があればそこでやりたいなぁ~って考えてるんだけど、無理なら街に近い場所でもいいし。そこは街の冒険者ギルドに相談しよう。
参加するためにお肉は持参なので、そこはパーティ内で相談して貰いたい。
討伐頭数によって、参加するかしないかが決まるだろう。毛皮や角は売りたければ商人さんへ直接売ってもいいし、冒険者ギルドへ買取りに出すのも自由だ。
大食い大会で優勝すれば、優勝賞金として報奨金の半分を渡すことにしたし、ランキング形式で、どれだけ食べれたかで順位を決めるので、三位までは賞金を出すつもりである。肉は主催者である俺の買取りだし、それと参加賞も用意しているので、こぞって参加して欲しい。
それを今は他の冒険者のリーダーに話し、移動がてら仲間に説明して貰っていた。
報奨金を山分けしたらどうかと提案したんだけど、罠を仕掛けて実際に賊を捕獲したのは俺たちなので、それは遠慮すると言われてしまったのである。
コロポックルの森でキャリュフ狩りをしている冒険者さんは、互いに苦労を分かち合い、色々と悟ったのか、やたらと良い人ばかりだ。
でも大食い大会の優勝賞金としてなら受け取ってくれるみたいなので、現在は参加者募集中なのである。
既に旅程は半分ほど進み、みんな気持ち的に中だるみを起こしている状態だった。
賊も初日に出没したのを捕獲したきり出て来ないし。アレで全てではない気がするんだけど、捕獲された賊の噂が広がったんだろうか?
他の冒険者さんが、「血の池奈落の恐怖」とか「コロポックルの出張サービス」とか話しているのを耳にしたけど、何のことかな?
まぁそんなことはどうでもいいとして。
実はロベルタさんの食べっぷりを見ていて、他の大食いな人がどれだけ食べれるのか知りたくなったのが、この大会を催す切っ掛けだった。
別に報奨金をみんなで分けたいっていう理由ではないんだよね。残念なことに。
大食い自慢はよくあれど、大食いチャレンジで惨敗する人って結構いるからね。
本音としては、俺は久しぶりに大食いチャレンジ動画が見たかっただけだ。
見てるだけなら楽しいからいいんだよ。
ただ自分でやるとなると大惨事になるってだけで……。
以前、美味しそうに食べている大食いチャレンジを見て、無謀にも俺もやってみたくなったことがある。
お店に行くのは面倒なので、似たような料理を作ってやってみたら―――三日間身動きが取れなくなった。
配信ネタとしてそれなりに受けたけど、もう二度とやらないと誓ったのである。(すでに顔出ししていたので、大食いにチャレンジしろとアレクサに唆された)
でも大食いチャレンジ自体は見ていて楽しいから止められない。
この世界では動画が見れないので、リアルで見れるチャンスが来たとばかりに、ダメもとで提案したら通ったって訳だ。やったね!
こういう旅は緊張感も必要だけど、どこか気が緩んでしまうものだ。
でも途中でエアレーの大量発生もあって、冒険者のみなさんもやる気がみなぎっていた。
普通は魔物が発生するのを嫌がりそうなのだが、食肉としての魔物は大歓迎という風潮なんだよね。とはいえ、一般人には脅威でしかないのだけれど。
魔物を間引くのに必要な存在として、冒険者が各地を気軽に行き来できるのも、そういった理由からなのだろう。
「よくよく考えてみたのですがね、リオン君。その大食い大会とやら、私もぜひ参加させてください!」
「やめた方が良いと思いますけどね」
「エアレー狩りをするのは我々ですが、大食い大会に参加するのがまさかの会長とは……もしそれでお亡くなりになったとしても、我々の責任ではないことを一筆書いておいてください」
「私は死にませんよっ!?」
「まぁ、腹痛で暫く大人しくなると思えばいいのでは?」
「それはそれで、面倒な気もしますが……」
「どうしてお前たちは、一々水を差すのですか!?」
相変わらずのシュテルさんと、その護衛二人である。
アントネストに行く切っ掛けをくれた人たちだけど、まさかここまで長く関わるとは思ってもいなかったんだけどな。
人見知りをするという体で、余り面倒そうな人とは拘わらないようにしているけれど、見ているだけなら面白おかしい人である。
ただ他の商人さんたちから了承を貰う際、シュテルさんの協力を得たのも忘れてはいけない。まさか本人まで参加する気になるとは思ってもみなかったけど。
「むりはしないでねー」
実際にやってみた立場からの忠告をしておく。
己の胃袋の大きさを忘れ、まだ食べれると思って無理をすると、数日間は食べ物を見るのも嫌になるからね。
箱馬車で移動しているから、揺れる車内でのたうち回ることにならないよう、シュテルさんには無理だと思ったら、素直にリタイヤすることをお勧めするよ。
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