第53話 一狩りしようぜ!


 くるくると渦巻くトルネードの中に、魔牛であるエアレーが巻き込まれて空に舞い上がる。それを見た俺は、宇宙船にキャトられる牛の姿のようだと思った。(実際に見たことはないけど)


「おーほほほほほ! 天高く舞い上がりなさぁ~い!」


 普段はディエゴやギガンに指図して、自分ではあまり闘うことのないアマンダ姉さんが、魔術を駆使してエアレー狩りを楽しんでいた。

 アマンダ姉さんは魔法使いの杖(タクト&ロッド)ではなく、グローブに施された魔晶石を媒体にして、自身の魔力を放出するタイプだ。彼女のような【魔術師】と呼ばれる者たちは、体内に巡る魔力を魔晶石(の付いた何か)を媒介にしないと放出できないんだって。

 ディエゴはそういった媒介がいらない。自身の魔力も、自然界にある魔素も自在に操れるので【魔法使い】なのである。(だから魔力切れとかもない)


「おいこらっ、アマンダ! そのまま叩き落としたら、肉がダメになっちまうだろうがっ!」

「だいじょうぶよぉ~。目を回してやるだけだからぁ~。チェリッシュ、ゆっくり着地させるから、矢で射って頂戴ねぇ~」

「はぁい! まっかせて~!」


 視力向上料理のお陰なのか、的中率の上がったチェリッシュは、自信たっぷりに返事をした。アマンダ姉さんの補助として、止めの一撃を放つ気満々だ。

 チェリッシュの武器である弓だけど、矢は弓に仕込まれた魔晶石で作られる。電池みたいに魔晶石が必要とはいえ、矢を買う必要がないので便利だよね。

 ふむ。こうして考えると、電池的な役割だと思っていた魔晶石だけど、色々と用途や仕組みが違うような気がしてきた。

 これも要研究対象かな? 機会があれば調べてみよう。


「ったく。おいテオ。いいか、狙うのは首だ。一気に掻っ切れ!」

「うすっ! 了解っすギガンさん!!」


 この二人は首狩り族か何かかな?

 まるで首置いてけと追いかけてくる戦国武将のように、やたらと首を刈ることに拘っている。一発で仕留められるなら、それに越したことはないけど。

 ギガンの武器は巨大なハルバードと呼ばれる槍斧で、刺突もできるそうだ。

 しかし主に使うのは斧の部分で、やたらと首をぶった切っている。(それしか見たことがない)

 テオの武器はバスターソードで、某RPGゲームの主人公の使っていた剣とは違う形状だがかなり大きい。最初出会った頃は両手で振り回していたバスターソードだけど、今では片手でも振り回せるほどになっていた。

 良質な筋肉を育てる為、日々飲ませている(運動後や寝る前と朝)ディエゴと作ったプロテインの効果だろうか? 顔も幾分か引き締まっており、成長期って凄いなと思わせる変化を見せている。

 そんな見るからに重そうな武器を振り回しながら、二人はエアレーの首狩りに勤しんでいた。

 そして吹っ飛ばした首から血飛沫が吹き上がるのを、ディエゴが魔法で回収しては掘った穴に捨てている。それ以外は何もしていないのだが……。

 これも連係プレイなのだろうか? お兄ちゃん、たまに欠伸してるんだけど?


 そうして俺と言えば、シルバの背に乗ってノワルを肩に乗せ(重くないけど、両肩に足を掛けているので、このまま攫われそうなビジュアルだ)、混戦模様となったエンゲル草原に群れるエアレー狩りの様子を、安全な位置から眺めていた。(遠視魔法の施されたゴーグル便利だね)

 因みに俺が被っているウサミミ付き帽子だが、実は魔法が付与されていて、意識すると遠くの音も集音できる優れものだ。(このウサミミはただの飾りじゃなかった)

 こうして考えてみると、色々と俺のことを心配して装備を揃えてくれていたことが判る。まぁ、見た目が可愛いことが前提ではあるけれど。


 他の冒険者パーティも概ねこんな感じで、夫々持ち前のチームワークでエアレー狩りをしていた。

 ただし、ロベルタさんのパーティだけはなんかちょっと違う。

 彼女が華麗なるがぶり寄りからの素早いタックル攻撃の連続技で、エアレーを倒して抑え込むまではいい。だけど、その状態でメンバーが夫々の武器によって、お構いなしにボコボコにして斃していた。


 う~ん。あれはどういう状況なのだろうか?

 へっぴり腰で武器を振り回し「えいっ! えいっ!」と、互いに掛け声をかけ合いながらボコっているのだけれど、(餅つきかな?)コレと言った決定打がなく、無駄に時間がかかっていた。

 あれじゃ斃されるエアレーが可哀想だ。討伐対象とはいえ、無駄に苦痛を味合わされている。


「あれでは、せっかくの毛皮や肉が台無しになってしまいますなぁ……」

「うん」


 横にいるシュテルさんが、俺の気持ちを代弁して呟いた。

 そうなのだ。折角イイ感じで止めを刺せる状態なのに、無駄な攻撃が多くて毛皮や肉を台無しにしている他の女性メンバーによって、ロベルタさんのパーティは悪い意味で目立っていた。


 同じように安全な場所から観戦している商人さんたちも、呆れたようにやれやれと首を振っている。彼らの立場からすれば、肉や素材は傷んでいない方が良いし、それらを適切に討伐する冒険者の実力を見るいい機会でもあった。

 だからみんな頑張っているんだけどね。

 冒険者の力量を図るのも、護衛を頼む上では重要なのである。

 同じランクの冒険者でも、こうして見比べると違いが判るものだ。

 であれば、実力が上の方が良いだろう。


 このエアレー狩りが終われば、夫々移動先の違う商人さんたちは離脱する。

 その時に改めて護衛を依頼する冒険者パーティを評価するべく、こうして暢気に見えて鋭い眼差しで彼らの実力を見定めているのだった。

 スプリガンは既にシュテルさんに指名依頼(強制)を受けているので、評価対象から外れているけどね。

 

「彼女のパーティのメンバーは、もう少し考えて攻撃をしないといけませんなぁ」

「そうだねー」


 やっぱり実力が違いすぎるのかな?

 数ヶ月前のテオやチェリッシュみたいに、もしかしたら二ツ星だらけなのかも。

 それでもコロポックルの森でキャリュフ狩りが出来ていたということは、ロベルタさんが三ツ星以上で、実力不足なメンバーの底上げに協力していたと考えられる。

 それに今回の護衛依頼は、三ツ星以上のランクがパーティに一人でもいればいいっていう内容だった。


「それよりも、どうですかリオン君。私の護衛二人は、実に素晴らしいでしょう?」

「うん」


 シュテルさんの護衛である、ランドルさんとギルベルトさんだけど。言われて見れば、護衛をやっているだけあってその動きに無駄がない。

 襲い掛かってくるエアレーもなんのその。ランドルさんとギルベルトさんが、まるでシンクロするようにエアレーを挟み込み、冷静に、確実にサーベルで急所を貫く。

 顔は似てないと思うんだけど、動きがまるで双子のようである。


「彼らは同じ孤児院出身でしてね。私が彼らを引き取ったのですが。いやぁ~最初は商売を教えようと考えていたのですが、護身術として剣術を覚えさせたら、何時の間にやらあのようになっていましたよ」

「すごいねー」


 あっはっはと、暢気に笑うシュテルさん。多分、あの護衛二人は、シュテルさんのポンコツっぷりを見兼ねて、自分たちが剣の腕を磨かなければならないと思ったに違いないよ?

 ほんと、俺ってラッキーだな。保護してくれたのが実力のあるスプリガンで。

 パーティ内最弱でも、安全な場所で待機させてくれるし、頼もしい護衛も付けてくれて、文句も言われなければ追い出されることもない。

 ただ料理をしているだけで感謝されるし、たまに暇潰しの実験や研究にも付き合ってくれる。よく大人しくしていてくれとは言われるけれど。それ以外は比較的自由にさせてくれるので、ストレスフリーな環境である。


 だからこそ気になるんだよね。

 同じ冒険者パーティでも、ロベルタさんのパーティは、実力者である彼女を蔑ろにしているような気がしてならない。

 俺のこの集音魔法付きウサミミ帽子が、彼女に対する悪口を、メンバーがあけすけに言い放っているのを聞き逃さなかった。

 本来なら感謝すべきなのに、自分たちの実力不足を棚に上げて、食費の掛かるロベルタさんへの不満をぶちまけていたのである。

 聞かなければ良かったと思うけれど、聞いてしまったのだから仕方がないよね。


「どうにかならないかなー?」


 旅に出ることで、他の冒険者の様子も知ることができたのもあり、俺は少しだけど周りの状況を窺う機会を得た。


 人間関係は複雑で、面倒な付き合いをしなければならないから、俺自身は他人と関わることが嫌すぎて好んで孤立していたけれど。どうしても拘わらなければならないこともある。そういう時は、その場限りの愛想で乗り切って来た。

 コミュ障だけど、そうとは思えないように振る舞い、でもその先はない。長く付き合いたいと思えるような、気の合う友人も作れなかった。

 原因は俺にあるんだろうけど、人って表面的には親しくしていても、陰で何を言っているか判らないもんだしね。

 俺は気にしてなくても、親切にも誰がどう俺のことを言っていたのか、わざわざ耳に入れてくれたりするし。その悪口って、本当にその人だけが言っていたのかな? 一緒になって、君も同意していたんじゃないの? ――――って感じで。


 俺は昔の記憶が少しだけ蘇ってしまったのか、ロベルタさんの置かれている状況に、少しだけ気がかりを覚えた。

 別に具体的にどうこうしてあげたい訳でもないし、大きなお世話になるから手出しはしないけれど。彼女自身が、本来の実力を発揮できるならば、そしてそれを望んでいるのなら、手助けぐらいはしてあげたいなと、思ってしまったのだった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る