第121話 ロシアン餃子パーティ
翌日には何故か、温室の雑草抜きのお手伝いのグロリアスメンバーが増えていた。
というか、メンバー全員いるみたいなんだけど。
「坊主の作ってくれた燻製肉がバレたんだよ」
「スマンな」
「
そういうことらしい。
まぁ、雑草抜きの人員が増えたのは有難いので、こき使ってやろう。
当然お礼はするけどね。
ざっと数えて10人ほどだけど、大食いのシャバーニさんやロベルタさんで慣れているので、ちょっと食いしん坊な野郎が10人増えたところで全然問題ない。
「雑草だけ引っこ抜けよー。って言ってる傍から、セージを引っこ抜こうとするんじゃねぇっ! なげぇこと薬草採取してねぇからって、忘れてんじゃねぇっ!」
「いいかお前ら。間違って必要な草を抜いたヤツは、昼飯抜きにするっ!」
「集中して仕事に取り掛かれよ! これは遊びじゃねぇんだからな!」
昨日作業を手伝ってくれたグロリアス漫才三人組が、クランメンバーへ説明しながらケツを叩いていた。
どうやら彼ら三人が、グロリアス・トップというクランの幹部のようだ。
ハルクさんがリーダーで、グラスさんとハンターさんがサブリーダーポジションって感じかな?
元々三人パーティだったそうで、少人数で難関ダンジョンの最下層をクリアした実力者らしいよ。
「ハルク隊長! 向こうの果樹エリアの木は、引っこ抜いても良いでしょうか?」
「バカ野郎! 果樹の木を引っこ抜いてどうする!!」
「グラス副隊長! この纏わりついている蔓は、どうしたら良いでしょうか?」
「それぐれぇ自分で考えろっ! その蔓でてめぇをぐるぐる巻きにすんぞっ!」
「ハンター副隊長! そろそろ腹が空いてきました!」
「仕事をしねぇヤツはそこら辺の雑草でも食ってろっ!」
そんな三人が率いるクランなので、ちょっとした軍隊的なノリである。
GGGさんたちとはまた違った、鍛え抜かれた精鋭部隊のようだ。
まぁ、脳筋なのは同じなんだけどね。
そんな彼らを眺めつつ。
雑草抜きの作業をしなくても良くなった俺たちスプリガンは、グロリアス軍団のお腹を満足させるべく料理をすることにした。
この人たちの胃袋を掴んで、身を守る肉の壁を構築しよう作戦である。
「やっぱおにくかなぁ?」
「揚げ物はどうっすか?」
「カラアゲやトンカツってのはどうだ?」
「こってりし過ぎじゃないかしら?」
「野菜も食べたいよねぇ~」
「う~ん?」
大勢でワイワイしながら食べれるモノは何かなと考える。
今ある材料で、肉と野菜を使って、更に満足できる料理かぁ。
「ギョーザかな?」
肉も野菜も使うし、スプリガンのみんなで大量に作れる。
焼いてよし、蒸してよし、水餃子にもできるしね。
「ギョーザ?」
「えっとねぇ~」
ディエゴに作り方を伝達して、手作り餃子をみんなで作ることにした。
ロシアン餃子にして、中身は色々な具材を詰め込もう。ロシアンといってもロシアの餃子ペリメニではないけどね。あ、でも揚げ餃子もいいな。
定番の豚(ボア)挽肉とキャベツの他に、チーズやウインナーの変わり種、ハズレとしてジャムやタバスコにマスタード入りも作るぞー。ふひひひ。
「あ。リオっちが何か悪い顔してる……」
「企んでる顔っすね」
「妖精だからな」
「ありゃもう、種族性だから仕方がねぇよ」
「せめて可愛い悪戯であって欲しいわ……」
挽肉はディエゴやギガンに作ってもらって、キャベツはアマンダ姉さんとチェリッシュに刻んでもらう。
テオは俺と一緒に餃子の皮を作る作業だ。分厚くなった皮(メイドインテオ)は揚げ餃子と水餃子にして、薄い皮(メイドイン俺)は蒸し餃子と焼き餃子に回そう。
「流石はリオンね。手際が違うわ。本当に器用よねぇ……」
「うわぁ~ん、皮がくっつかないし中身がはみ出るよう~!」
「中の具が多すぎるんっすよ。リオリオを見習うっす」
「ディエゴは種をこねてろよ? お前さんは意外と不器用だからな」
「……わかった」
餃子って、みんなで作ると楽しいねぇ~。
そうだ。ハズレもいいけど、それで終わったら面白くないし、ハズレに当たったら良いモノをあげよう。ハズレなのに当たりっていうのもおかしいんだけどね。
大当たりのハズレ餃子の中身は何にしようかな?
マスタードやジャムにタバスコはぬるいしなぁ――――あ、ハバネロソースがあったはず!
よーし、デミドラゴンのお肉がまだあったし、ハバネロ餃子に当たったら夕食にドラゴンステーキを食べさせてあげよう。
どれくらい辛いのか試してみたくて買ったけど、飛び上がるほど辛くて捨てようと思ってたのに、捨てるのを忘れてまだ持ってたんだよねぇ~。いやでもジョロキアにしなくて良かった。
こんなところで役に立つとは思わなかったけど。
「リオリオがコソコソしてるっすよ?」
「ありゃぁ、なんかやってんな」
「ねぇねぇ、肉じゃない赤いモノが見えたんだけど……」
「さっきはマーマレードジャムを入れてたわ」
「一応、食べられるモノではあるようだが……」
自分で仕込んで自分に当たると拙いので、テオの作った餃子の皮に仕込んでおくとしよう。見分けやすいしね。イッヒッヒッヒ。
「なるべくテオの作ったギョーザの皮は食わねぇようにしねぇとな」
「なんすかそれ! 酷いっす!」
「だって嫌な予感しかしないもん」
「食べられるモノなのは判るけれど、一応ね」
「中身がよく判らんからな」
大量に作られた餃子は、数えるのも面倒なほどだ。
四~五百個はあるかな? 足りるか余るか微妙な数だけど、狂戦士の二人なら全部食べちゃいそうだよね。
しかもこの中に三つだけ、ハバネロ餃子が混ざっている。
誰に当たるかお楽しみだね!
「お~、良い匂いじゃねぇか」
「うお~! 腹が空いてきた~!」
羽付き餃子を焼いていると、温室から軍団のみなさんが匂いに釣られて出て来た。
「なんだこりゃ?」
「肉じゃねぇのか?」
「でも肉の匂いがずるぜ?」
作業台として出しているテーブルの上では、魔道具という体でIHコンロやホットプレートを取り出し、餃子を焼いたり揚げたり蒸したりしている。
調理関係に疎いグロリアスのみなさんなので、器具より料理の方が気になるみたいだから、特に疑問に思う人はいなかった。
「当たり付きギョーザという食べ物だそうだ」
「この中に、飛び上がるぐらいの当りがあるそうよ」
「飛び上がる?」
「転げ回るかもしれんそうだ」
「転げ回る?」
「とにかくそう言う味の物が混ざっている。食えば判るらしいから、説明は不要とのことだ」
実食前に、餃子の説明をして貰う。
スプリガンのみんなとは一緒に作ったからね。中身の具材については、とりあえずの説明をしておいた。
死ぬほどの辛さじゃないから、味見をするか聞いたらみんな拒否したけどね。
タバスコの100倍の辛さだよって言わなきゃよかったなぁ。
「当たった奴には、夕食に招待するそうだから、頑張って当ててくれ」
「デミドラゴンのステーキらしいっす」
「デミドラゴン!?」
「滅多に食えねぇ高級肉じゃねぇか!」
「すげえっ! オレまだ食った事ねぇんだよな!」
「よーし、頑張って当てるぜー!」
「お前さんらの健闘を祈る」
さぁ、楽しい餃子パーティの始まりだ!
あ、その前にみんな手を洗ってね。ばっちい野郎は食べさせないぞ。
「ピリッとした辛さがうめぇなこのギョーザ」
「コショウとは違う辛さじゃねぇ? しっかしうめぇな」
「うめぇとしか言えねぇが、マジうめぇぜ」
「こっちは爽やかな甘さと苦みが肉に合ってんな」
「どれが当たりなんだ? 飛び上がったり転げ回るもんはねぇぞ?」
「美味すぎて転げ回るってのとはちげぇのか?」
「取りあえず飛び上がっとくか?」
ちっ。
マスタードやマーマレードジャムは、意外と肉に合っていたか。
タバスコもそこまで辛くはなさそうだ。
「リオンが作ってたのは、そこまでヤベェもんじゃなかったのかね?」
「でも悪い顔してたっすよ?」
「本人も不本意そうだな。不貞腐れた顔でギョーザを焼いたり揚げたりしてるぞ」
「さっきジャムに当たったけど、美味しかったよ?」
「そうよねぇ。案外美味しく食べられちゃうわよね」
食べ物で悪戯をするのは良くないけど、ロシアン餃子は面白おかしい反応を見るのが醍醐味なのに、みんな美味しそうに食べている。それはいいんだ。美味しく食べてもらいたいからね。
せめてハバネロ餃子は面白い反応が見たいんだけどなぁ。
ちゃんとヨーグルトやレモンを用意して待っているのに、誰もまだ当たっていないのが面白くないぞ。
ちょっとチキって思い切りぶち込まなかったのが敗因だろうか?
全部普通に美味しく食べられては、当たりという名のハズレを作った意味がない。
なんてことを思っていたら、ハルクさんがいきなり転げ回った。
「うごああああああっ!」
「ハルク隊長! いきなりどうしたんすかっ!?」
すると同調するように、グラスさんとハンターさんがおかしな反応をした。
「ぐがあ~~~~っ!?」
「グラス副隊長!? いきなり走り出して、狂ったんですか!?」
「ぼえぇぇっ!!」
「ハンター副隊長が飛び上がったぞ!?」
甲板を走り回ったり転げ回るクランリーダーたちを見て、軍団が慌てふためいた。
俺の時は声も出せずに蹲るだけだったんだけど、あの三人は元気に跳ねまわる気力があるから凄いね。
甲板が広いせいもあるけど、良い運動になっているんじゃなかろうか?
「お前ら、隊長たちを捕獲しろっ!」
「どうしたんすか、たいちょーっ! しっかりしてくださーい!」
「副隊長が死んだら、俺らどうなるんすかーっ!?」
おっと、面白がるだけじゃなくて、早くヨーグルトやレモンを食べさせて中和しなければ。
俺は慌てて暴れ回る三人へと駆け寄った。
「引きが強いっすね、あの三人」
「うわぁ……食べたらあんな風になるんだー」
「ある意味、持ってる奴らだな」
「ほぼ同時に当たったわね。仲が良いってことかしら?」
「リオンにあのソースを使うのを、止めるように言っておく」
「そうしてくれや。流石にあの反応は見てて怖ぇよ」
「そうっすね。六ツ星ですら倒す威力があるみたいっすし」
「いつかお仕置きに使われそうで怖いわ」
「リオっちを怒らせないようにしようね! ね!?」
そうして、楽しいロシアン餃子パーティの結果。
デミドラゴンステーキの獲得は、トリオ漫才の三人に決定したのであった。
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