第118話 情報交換の対価

 非戦闘員のアルケミストなのに、五ツ星なのが謎である。

 それは俺だって思ってる。ある意味ミステリーだ。


「色々あってな。実績が積み上がって、こうなったんだよ」


 雑な説明をどうもありがとう。

 詳しく語ったところで余計に意味が判らなくなるからね。


「じゃぁ、マジで五ツ星なんだな?」

「だがお前さんらが絡まれたのも、その坊主の存在が大きいんだぜ」

「どこのクランも、見習い年齢の子供は連れてねぇだろ? 全員五ツ星しか乗せねぇのに、特例でガキを乗せてんじゃねぇかって思われてたんだよ」


 なるほどそうだったのか!

 よくある冒険者同士の威嚇イベントマウント合戦かと思ってたけど、魔動船に乗る条件を満たしてないような子供が現れたら、そりゃ不審に思われちゃうよね。


「ああ、でもこりゃ本物だな。れっきとした五ツ星だ」


 俺の冒険者タグを見て、ハルクさんは納得したように頷いた。


「ところでどうやって五ツ星にまでなれたんだ? 戦闘職じゃねぇと、ランクアップは難しいと思うんだが」


 そこだよね。俺も不思議なんだけど。気が付いたら五ツ星になってたんだよ。


「まぁ、色々と便利な物を作ったり、発見したからかしら?」

「貢献度でのランクアップだからな」

「まだそっち都会までは届いてねぇかもしんねぇが、ホットサンドメーカーってのがあってな―――」

「え? もしかして、あの便利な調理器具のことか!?」

「うおっ?!」


 食い気味に被せてきたハルクさんに、ギガンが仰け反った。


「ハルク隊長っ! もしかして、コレのことですか?!」

「今や冒険者の必須アイテムだよな!」

「スゲェ便利な調理器具を発明したって、オレらの間でも話題になってんだよ!」


 そう言いながら、何故か取り出される見慣れたホットサンドメーカー。

 なんかコレ、前にも似たようなことがあったよね。

 あの時は鈍器扱いされていることを知って驚いたけど。


「料理の下手な奴でもこれがありゃぁ、ある程度美味いもんが作れるってんで、マジで重宝してんだよ」

「引っ繰り返すタイミングさえ間違わなきゃいいしな!」

「パンケーキもこれのお陰で上手く焼けるようになったんだぜ!」

「付属の簡単キャンプ飯レシピも、坊主が考えたのか?」


 そこは俺の知識をフル回転して、誰でも簡単に作れるメニューを厳選してあるから、天才的なメシマズさんでさえなきゃ作れる。

 そのホットサンドメーカーも、かれこれ半年ほど前になるからすっかり忘れてたけど、漸く都会方面まで行き渡ったのかな?

 この世界は大量生産できるような機械工場がないから全部手作りだし、商人が売り歩くにしてもほぼ近場で消費されるのだ。よって広まるまでに時間がかかる。

 需要と供給のバランスって、どの時代でも難しいよね。

 

「だがそれだけで五ツ星になれるのか? まだ他にあるんじゃねぇのか?」


 うわなんか面倒臭いことになってきた。

 グロリアスのみなさんが、興味津々という感じで俺を見てくる。

 その中の一人が、俺を見て首を傾げた。


「そう言えばリーダー。このホットサンドメーカーもそうだけど、やっと手に入れたキャリュフソースの瓶のラベルのマークって、坊主に似てませんか?」


 またもやどこかで見たような瓶を取り出し、そのラベルと俺を見比べる。


「この、ウサミミ帽子のシルエットは――――」


 そうだね。モデルは俺らしいよ。迷惑な話だけど。丸投げした結果がコレだよ!


「え、そんじゃぁ、ラヴィアンの連中が、争うように手に入れてたコレって、坊主の作ったヤツなんじゃぁ……」

「マジかよ」

「なんて罪なモンを作り出したんだよお前さん……」


 俺の作り出したというか、考案しただけの商品の中でも、一番値段が高いであろうキャリュフバターやソースは、都会の方では争わないと手に入らない高級品になっているらしい。現地だとそこまで高くはないんだけど、輸送費や護衛費があるからどうしても割高になるんだよね。

 独占販売していた貴族から苦情が出ていないのも、結局は高級品の枠から抜け出せないところにある。

 生産地がド田舎なのもあって、どうしても遠方への出荷となるとお高くなっちゃうんだよな。

 周辺の田舎町ではお手頃な値段で手に入るんだけどね。


 アントネストの商品はまだまだ生産が追い付かないのか、周辺の町で消費される量しかないので、都会への浸透率は低いようだ。

 でも何れは都会へ売りに出せる量が確保できるようになるかもね。観光客も働く人も増えてるし。


「そのキャリュフを発見したのも、リオンよ」

「そのソースやバターも、リオンが考案したんだぜ」

「マジかーっ!!」

「噂だけは聞いてたんだよ。コロポックルの守護する森で、幻のキノコが発見されたってのは!」

「コロポックルが発見されたってのも、本当なのか?!」

「気に入らないヤツは八つ裂きにするって噂は本当なのか?」

「しかもキノコを掘ろうとするヤツに、クソを投げつけてくるってオレは聞いたんだけど?」


 ちょっと待て。コロポックルはうんこを投げたり八つ裂きにしたりしない。

 それをやってるのは白い悪魔のアイツらだぞ!

 舌を出して人間をバカにしたような表情を浮かべるサルを思い出し、俺は頭が痛くなった。

 噂の変化球が酷すぎる。深刻なコロポックルへの風評被害だ。


「でもキャリュフだけのために行くにゃ遠いし、多少高くても予約待ちしてやっと手に入れたんだよな!」


 愛しそうに瓶へ頬ずりするハルクさんたち。

 そんなにそのソースが美味しいのかね? 俺にはさっぱり判んないんだけど。


「もしかして、アントネストでも何か便利な物を作ってたとかじゃねぇよな?」


 人気のないダンジョンだからと侮って、みんな下船しなかったそうだ。

 そこから乗り込んできた俺たちなので、実力も大したことはないと思われたそうなのだけれど。


「冒険者って、常に最新の情報を手に入れなきゃ生き残れないものよ」


 フフフっと、蠱惑的な笑みを浮かべながら、アマンダ姉さんがウインクをした。

 でもその最新の情報を、シュテルさんから齎されているせいで、俺たちはこんなことになっているのだが?


 冒険者よりもあちこちに出向く商人さんの情報は、常に最新であり貴重である。

 耳寄りな情報は逃さず、商人仲間へと伝達していくのだ。

 現代社会程の情報量も速さもないけど、この世界での最新の情報は商人が握っていると言っても間違いないだろう。

 新聞社もあるそうなのだが、所詮は身の回りのゴシップぐらいしかネタがなく、貴族の醜聞やちょっとした事件程度の情報しか載ってないそうだ。

 だから冒険者同士のネットワークより、商人同士のネットワークの方が緻密で正確なんだよな。頭が良くないと商売ってできないもんだし。

 シュテルさんはその中でも頭一つ飛びぬけた存在だと思う訳で。

 だから一応、面倒で怪しいけど仲良くしている。

 お互い利用し利用される間柄でもあるので、割り切った付き合いだけどね。

 しかし今回ばかりはお仕置き案件なので、電気ビリビリの刑に処す!


「流行って、都会から始まるものじゃないよね~」

「そういう偏見があるから、都会ってやぁねぇ~」


 あはははは、うふふふと、チェリッシュとアマンダ姉さんが朗らかに笑う。

 都会に恨みでもあるのかな?


「うがぁー!ラヴィアンの連中につられて、降りなかったのが悔やまれるっ!」

「何を作ったんだ? なぁ、教えてくれよっ! 帰りに立ち寄るからっ!」


 この船のオーナーであり商船の隊長であるアマル様が下船した時に、アントネストで色々仕入れていたし、頼めば売ってくれるんじゃなかろうか?

 サヘールで売るために仕入れていたようなモノなので、きっと沢山買い込んでいると思うんだよね。

 主に食べ物が中心だったと思うけど、そこはシュテルさんが他の商品の買い付けに回ってたと思う。抜け目ないし。

 てなことを、ディエゴを通じて彼らに伝えた。


「そ、そうか。そうだよな。よく考えりゃぁ、この船は客船じゃなくて、商船だったぜ」

「でも現地で手に入れる方が、選べるし安いんだよなぁ~」

「何でアントネストに降りなかったんだよ、オレたち!」


 今更悔やんでも遅いって感じ?

 唸る彼らを眺めながら、俺は少し悩む。


「う~ん……」

「リオン?」

「どうしようね?」


 この人たち、都会の冒険者の割に良い人っぽいし、これから先仲良くしていた方が何かと良いような気がするんだけど。お兄ちゃんたちはどうかな?


「まぁ、無理のない程度ならいいが?」

「そうねぇ。人数的に、グロリアスの方が有利よね?」

「孤立するよりゃ、いいかとは思うぜ。ラヴィアンみてぇなのもいるしな」

「そうだよねー」


 大人組の許可も下りたので、俺はリュックから色々取り出すことにした。

 もちろんタダで渡す訳ではない。ここはあくまでも取引である。

 俺の身の安全の為でもあるし、スプリガンの為でもあるので。


「情報交換といこうかしら?」


 俺がカウンターに並べた商品を前に、アマンダ姉さんがにこりと微笑んだ。

 


 

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