第59話 ゴール直前の大捕り物
これが所謂『ヒャッハー』状態なのだろうか。
初日に賊に遭遇してからというもの、何故かこれまで出遭わなかった連中に、【アントネスト】直前に遭遇してしまった。
それも昼日中の暴挙である。
「噂はここまで伝わらなかったのかしらねぇ?」
「そのせいで、エライ目に遭ってるがな……」
俺と同じように傍観しているアマンダ姉さんと、ギガンたち。
たまに襲い来る賊を小突きまわしているけれど、その殆どは【GGG】のみなさんによって蹂躙と呼ぶに相応しい接待を受けていた。
現在俺たちスプリガンは、商人さんを守るべく盾と化している。
しかし遊撃隊としてシャバーニさん率いる【GGG】や、ソロであるロベルタさんと【蒼天の稲妻】(惜しくも三位となったボルトさんの所属するパーティ)のみなさんで、襲撃してきた賊をボコボコにしていた。
「こんなにも安心して護衛を任せられる冒険者パーティは、そうはいませんよ」
「ですなぁ。指名依頼をした甲斐があるというものです」
「多少の指名料を上乗せするだけで命が助かるのなら、安いものですからなぁ」
「全くです。命あっての物種ですからな!」
あっはっはっはと、暢気に笑い合う。
商人さんたちもすっかり落ち着いていて、プカプカ水煙草を吹かしていたり、お茶を飲みながら、賊が蹂躙されるのを眺めていた。
「これだけ開けていますと、【血の池奈落】はないと勘違いしたのでは?」
「森ではないので、コロポックルも出張してこないと思ったんでしょうなぁ」
「エアレーの群れを難なく討伐できる者ばかりですのに、何を勘違いしたのやら」
「あの腕試しは実に爽快でしたな!」
「お陰様で肉も大量に手に入りましたが、ワタシのマジックバックの容量が足りないのが残念でなりませんよ」
「いやいや全くです」
そして俺たちスプリガンは、他の冒険者パーティから、ここまで見せ場がなかったので、自分たちに任せて欲しいと懇願されて盾役に徹している。
お陰で暇なんだけど。でも見ているだけでも割と面白い。
なんだかルール無用の異種格闘技戦みたいだ。
「ところでリオン君。あのプロテインという粉は、売っていないのですか?」
「ないねー」
「売る予定は?」
「どうかな~」
「と、いいますと?」
プロテインの効果により、テオの目覚ましい筋肉の成長と、トレーニーな【GGG】のみなさんの賞賛の声を聞きつけたシュテルさんが、あのクソ不味いプロテインに興味を持ってしまった。
しかしまだ売れるレベルにまで達していない。どうしようかな?
「そこまでにしてもらおうか」
「あ、ディエゴさん」
「アレはまだ開発途中で、商品として売れるようなものではない」
「そう、なんですか?」
「その為の研究に、彼らが自ら実験台として手を挙げてくれている」
「なるほど、そう言った訳なのですな。では、リオン君が満足できる出来となるまで、待つといたしましょう」
「そうしてくれると助かる」
絶好のタイミングでシュテルさんの興味を、俺から引きはがしてくれたお兄ちゃんカッコイイ! さっきまで、欠伸をしながら賊を魔法で吹き飛ばしていたのは、見なかったことにしておくね!
◆
ゴール(ブリステン領)直前に発生した大捕り物は、やる気満々で迎え撃った冒険者パーティの接待により、完全なる勝利を収めた。
ボコボコにされたとはいえ賊にも死者はなく、このまま引きずるようにしてブリステン領まで連れて行くことにした。
「生け捕りにできて良かったわね。みんな手加減してたし?」
「大した実力もねぇのに、賊に落ちぶれるからだ」
「実力がないから落ちぶれたんだろう」
大人組の会話に、俺は心の中で同意する。
数の暴力でどうにかなるとでも思ったのだろうが、一騎当千という言葉もあるように、この護衛依頼を引き受けた冒険者パーティの面々は、全て過剰戦力の塊だった。
殺さないよう手加減して貰えていたと思えば、有難くて涙が出るんじゃないかな?
この商人さんと護衛一行の最後尾の箱馬車がシュテルさんだから、必然的に見張りは俺たちスプリガンになる。まぁ、護衛の二人も強いし、スプリガンもいるので、過剰戦力だから仕方ないね。
女性二人は箱馬車の中だけど、俺を含む男性四人は夫々歩きだ。とはいえ、基本的に俺はシルバに乗って楽をしている。なんせ最弱なもんで。
それでも自分の出来る仕事をと考え、シルバに乗って、ノワルを従えて駆け回っていた。
「リオン、近付き過ぎちゃダメよ~」
「はぁ~い!」
アマンダ姉さんが箱馬車から声をかけてくるのに、素直に返事をする。俺はシルバに乗って牧羊犬よろしく、賊が列を乱さないよう追い立てているのだ。
昼にはブリステン領に到着できたのに、賊が襲ってきたせいで時間が押して、夕方になりそうなのである。せめて賊が歩みを止めないように、見張りつつ嗾けながら追い立てていた。
「おやおや、リオン君。はりきっておりますなぁ」
「このままですと、夕暮れまでに間に合うかどうかといった感じですしね」
「【アントネスト】は人気のないダンジョンですので、急ぐことはありませんよ」
暢気なシュテルさんに、護衛であるギルベルトさんとランドルさんが応える。
そうかもしれないんだけどね。気持ちが先走っちゃうのか、何かしてないと落ち着かないんだよ。今までなら昼寝しちゃってたかもだけど。
「はっはっは!ここ数日リオン君のお陰で、パンプアップの持続時間が伸びているのだが、やはりこれもプロテインのおかげだろうか?」
「うむ。適切な鍛え方というものを学んだ気がするな!」
「ただ鍛えればよいというものではなく、栄養素とやらも重要とは。このことは我々の目を開眼させたな!」
「実に爽快な気分だ!」
「まだまだ賊のおかわりが欲しいぐらいにな!」
ハハハハハと、爽やかな笑顔で走り込みをしている(重そうな岩を背負いながら)【GGG】のみなさんである。元気すぎて付いて行けないけど、悪い人たちじゃないんだよなぁ。筋肉の鍛え方がとち狂ってるけど。
トレーニングマシンとかこの世界にもあるのかな?せめてベンチプレスでもあればいいのにね。でもこの人たち、平気で野生馬も持ちあげちゃうから、500Kは最低重りがないと満足しなさそうだ。
こういう人たちが護衛だと、ある意味安心だけど、常に身体を鍛えているから、いざとなったら動けるか心配なところはあるのだろう。これだけ強いにもかかわらず、【GGG】は意外なことに、護衛依頼での指名を受けたことがなかったそうだ。
今回の【アントネスト】行きの商人さんからも、やっぱりちょっとねと指名はもらえなかったけれど、予定通りの目的地なので、護衛依頼は続行となっている。
根は真面目で、印象も爽やかなんだけど、常に筋トレしちゃうからなんだろうね。
でもこれを見る限り、体力があり余り過ぎて、筋肉を鍛えてないと落ち着かないみたいだ。マグロのように、動いてないと死ぬのかな?
今回の活躍で【GGG】の評価が変わるといいなと思いながら、俺は日の暮れかけた空を見上げた。
そうしてやっと見えて来たブリステン領に、俺の期待値が爆上がりする。
遠目には入り口のアーチがあるだけで、よくある城壁のような物はなかった。
「かべ、ないんだね~?」
そういえば、コロポックルの森のある田舎町にも、領地を取り囲む壁はなかった。
せいぜい俺の身長程の柵で囲っているぐらいで、ボアやルーンベアがエサ不足で民家に入り込まないよう、ブラナの木を伐採せずにいるぐらいの対策しかしていないと思っていたけれど。
もしかしてこの世界は、意外と開放的なのだろうか?
いやでも、中継地点の宿場町には壁があった。この違いは何だろうか?
「ああ、ダンジョンのある街は、大体あんな造りだぜ。領地への出入りは自由なんだが、ダンジョンの入り口には監視がいるぞ」
「ダンジョン周辺には、何故か魔物が発生しないらしいっすからね。領地争いの激しい土地じゃない限り、こんなもんっすよ」
「周辺に発生する魔物は、ダンジョンに吸収されているという説もあるしな」
「へぇ……」
「それに、あのアーチから街周辺にかけて、強力な結界が張ってある。何もないと思って踏み込めば、身分証を身に付けていない者は弾き飛ばされるから気を付けろ」
「え?」
「ダンジョンのある街は、出入り自由に見せかけているにすぎない」
「えぇ」
だからくれぐれも冒険者証を外して出入りしてはいけないと言い聞かされた。
そう考えると、あのアーチを壊してしまえばいいのでは? ――――等と、不穏な発想をしてしまったのは秘密だ。
多分だけど、きっとあのアーチの結界も、魔塔の開発した魔道具だろうしね。下手なことはしない方が良いだろう。
そんなことはともかくとして。
やっと辿り着いた
異世界に迷い込んで数ヶ月。季節は既に夏真っ盛りである。
こうして俺の、長い、長い
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