第137話 手土産を作ろう

 王族の住むお城は、いくつかのエリアに分かれている。

 メインである王様の住む王宮と、王妃様方の住む後宮、そして王女宮と王子宮で、俺たちが招かれているのはアマル様の住む王子宮だ。

 判りやすく俺がまとめただけで本当はもっと複雑なんだろうけど、覚えられないんだもん仕方がない。

 お城なのか宮殿なのか、名称も翻訳機ディエゴが適当に解釈してるからな。

 簡潔に王子宮と呼んでいるけど、各々違う名前があるみたいなんだよね。

 夫々きらびやかな名称なのだが、ディエゴもそこは興味がないので適当だ。お互い興味がないと覚えようとしないところは似ているんだよな。


 アマル様の住む王子宮の名称は太陽のなんちゃらとかそういう感じだった。

 宛がわれている宮の名称によって扱われ方も違うそうで、アマル様が可愛がられているのが誰にでも判るようになっていた。 

 ただその名称で優劣をつけるから、他の兄王子様が嫉妬するんだよ。


 複雑に枝分かれしている王城なので、行き来する手続きも複雑になっている。

 姉王女様であるシエラ様の王女宮に行くのも、そう言った手続きなどがあるので時間がかかるそうだ。

 お姉さんのお見舞いに行くだけなのにね。

 まぁ、暗殺やらなんやらもあるので、簡単に賊が侵入できないようにしているんだろうけれど。

 なので頻繁に通信用魔道具で連絡し合っているのだろう。同じ家に住んでいながら、スマホでやり取りするみたいな感じかな?

 滞在中は迷子にならないように、ここはノワルとシルバにお願いして匂いで判別してもらったり、上空から確認してもらおう。


 そしてお留守番をしている俺は、今現在ディエゴから教えを乞うている真っ最中であった。


「ドワーフの好きな物か?」

「うん」


 ファンタジーの定番としてお酒が最も有名だろう。


「鉱石類じゃないか?」

「たべもので」

「肉だったと思うが?」

「のみものは?」

「さぁ……なんだったか……」


 お酒が真っ先に出てこないってことは、違うのかな?

 でも鉱石類とお肉は確実に好きなモノであることは間違いないようだ。


「見たことのない珍しい鉱石を持って行くと、歓迎されるそうだぞ?」

「こうせき?」

「だがドワーフより鉱石類に詳しい者はいない。その場合は彼らの求める鉱石を採掘するか、またはダンジョンでドロップさせて持って行くと良いそうだ」

「う~む」


 俺の持っているパワーストーンはどうかなぁ?

 珍しいと言えば珍しいけど、この世界にないモノでもないような気はする。

 一山いくらの石だったり、拾ったモノだったりするし。

 魔道具の作成を頼む立場なので、快く引き受けてもらうためにも手土産は確り考えておかなきゃならない。

 お酒が好きなら、手持ちのワインやウイスキーで何とかなるんだけどね。おつまみにチョコをコーティングしたナッツなんて最高なのではなかろうか?(爺さんが好きだった)

 だがお酒はそこまで好物ではなさそうなので、他の食べ物を考えよう。

 ふむ。お疲れ様な職人さんには疲労回復に良い食べ物の方がいいかも。

 疲労回復には豚肉やウナギだけど、ウナギはない。

 お酢も効果があるからそれを使った肉料理とかを持って行くといいかな?

 アントネストで大量に仕入れたお酢を含む調味料があって良かった。

 豚肉に近いからボア肉で角煮を作ることにしよう。


「厨房でございますか?」

「うん」

「料理をしたいそうだ。案内してもらえるだろうか?」


 客室メイドさんにお願いして、厨房に案内してもらうことにした。


「アルケミスト様の料理、でございますか?」


 何か物凄い怪訝そうな表情で、厨房の料理長に見られた。


「薬を作るのではなく?」

「うん」


 料理もある意味薬と同じだけどね。

 栄養面を考えればの話だけど。

 そう言ったことをディエゴに説明してもらいながら、俺はお土産用の角煮などを作ることとなった。



 角煮には半熟の茹で卵が付き物だよね~。

 味のしみ込んだ煮卵がまた美味しいのだ。

 ディエゴと竜騎士君の見守る中、俺は材料を取り出した。


「これはまた、見たことのない調味料ですね」

「ショウユとミリンだな。こちらは酢とハチミツだ」

「は、ハチミツですか? なんとも貴重なモノを使われるのですね」

「ダンジョン産だから、まぁ、実質無料なのだが……」

「ダンジョンでハチミツが取れるのですか!?」


 豚の角煮は作るのに時間がかかるとはいえ、ボアの熟成肉は柔らかいから時短で作れるのだ。

 というわけで、とっとと作ろう。

 豚(ボア)バラを一口サイズに切ってさっとフライパンで焼き色が付くまで全面をこんがりさせ、スライスした生姜を入れてお水とお酒を入れて三十分ほど煮ておく。

 待っている間に何か他のモノを作ろう。

 疲れている時って甘い物が食べたくなるんだよね。

 甘い物甘い物……角煮と一緒に渡すのだから、和風と言うか渋い感じの甘い物がいいような気がする。

 そういやまだ枝豆が残ってるんだよな……。どれだけ刈り取ったのだろうか。そろそろ無くなっても良い頃なのにね?


『枝豆も疲労回復に良い食べ物ですよ』


 そうだった!

 もしやこの時の為にまだ残っていたのだろうか?

 え~っと、ずんだ餅を作りたいけど白玉粉がないからわらび餅でいいか。

 でもわらび粉がないから片栗粉でいいや。

 片栗粉ならあるし、ミルク餅にしてずんだ餡をまぶそう。

 ミルクと片栗粉、砂糖の代わりにハチミツを入れ、弱火にかけてヘラで混ぜるとミルク餅になるんだよね~。簡単だけど美味しいデザートになるよ。


「おいしくなぁ~れ、おいしくなぁ~れ、もぐもぐきゅん」


 ああでも貴重なミルクがどんどん減っていく……。

 しかしここでケチってはいかんのだ。貴重だからこそ、俺の真心もドワーフに届くだろう。多分。


「あの、何か呪文のようなモノを唱えているのですが?」

「……よくあることだから、気にするな」


 茹でた枝豆を潰して、砂糖の代わりにハチミツとちょっとだけ塩を加えるとずんだ餡になる。それを冷やして一口サイズに丸めたミルク餅にかければミルク餅ずんだの完成! 所要時間三十分弱ってところかな。

 おっと。ちょうどいい具合に豚バラも煮えたし、味付けをしよう。

 調味料を入れて落し蓋をして、沸騰したら後は弱火でじっくり煮るっと。時々引っ繰り返して全面に味をしみ込ませる。味醂は最後に照り付けに加えよう。最初に味醂を入れるとお肉が硬くなるからね~。

 ゆで卵は六分ほど茹でて、角煮と一緒に味付けすれば完成だね。

 ミルク餅にずんだ餡だけなのも寂しいので、ディエゴに頼んで大豆をきな粉にして貰おう。その間に俺は黒砂糖を使って黒蜜を作った。


「こんなもんかな?」

「うまそうだな」

「あじみする?」

「ああ」

「どーぞ………ん?」


 気が付けば周りに人がいっぱいいた。

 厨房の料理人さんかな? みなさん休憩中だったのに、集まってきていた。


「あじみ……する?」


 圧が凄すぎて、そう言わなきゃいけない気がした。




 厨房の料理人さん全員に味見をさせると無くなるので、代表して料理長さんのみに角煮を味見してもらったところ大好評だった。

 ミルク餅の方は作り方は簡単なので、レシピを教える。

 やっぱりミルクは貴重らしく、乳製品はとてもお高いようだ。

 なので豆乳で作ることをお勧めする。

 ちょっと手間はかかるけど、乾燥大豆と水で作れるからね~。

 美容と健康のために、アマンダ姉さんとチェリッシュに飲ませているのだ。

 腸内環境を整え美肌効果があり、ハチミツを入れた豆乳は二人も大好きである。


 俺は水に漬けておいた大豆がリュックにあったのでそれを取り出し、ミキサーで攪拌する。出来た生呉なまごを鍋に入れて弱火で十分ほど熱し、ボールにザル、サラシを敷いて熱した生呉なまごを流し入れて絞れば豆乳の出来上がりだ。

 おからが出来るから、これは後で卯の花にして食べよう。


「これが豆から作られたミルクですか?」

「からだにいいよ」

「確かに見た目がミルクのようですね」


 料理長さんが興味津々で豆乳を見た。

 カルシウムも豊富だし、タンパク質やビタミンもあるからね。ミルクの代わりに豆乳を使うといいよ。これも飲み過ぎには注意だけど。と言ったことを説明していると、料理長はミキサーが気になったようだ。


「このミキサーと言う魔道具は、大変便利ですね。これがあれば、もっと料理の幅が広がりそうな気がします」

「ジュースもつくれるよー」

「そうなのですか!? こちらはどこで購入されたのでしょうか?」

「……えっと」


 この世界にない調理道具を出してしまったことを後悔するが遅かった。

 ディエゴお兄ちゃん、適当に誤魔化して下さい!


「これは試作品でな。ドワーフの道具職人に作ってもらえるか頼もうと思っている。この料理も、彼らと交渉する時に手土産として持って行こうと考えて作ったんだ」

「なるほど、そうでしたか!」

「流石アルケミスト様ですね! このような便利な道具もお作りになられるとは!」


 いや、これを作ったのは俺じゃないんですが。まぁいいか。どうせ作ってもらう予定だったしね。

 ディエゴもミキサーの設計図的なものを用意しているので(チョコレート革命のために)、作成できたらこちらの厨房で購入してもらうことにした。

 色々とポカミスをやらかしたけれど、料理人さんたちが喜んでいるから結果オーライである。ということにしておく。


 この後はサヘールの伝統料理等を教えてもらったり、俺の料理と言うか栄養講座が開かれて楽しく過ごした。

 こんなに暢気でいいのだろうかって?

 シルバやノワルに周りを警戒してもらっていたところ、どうもこちらを窺っているくせ者の気配があるのはディエゴも俺も伝えられていた。

 特に何かを仕掛けられることはないけど、監視されてるような感じなんだよな。

 料理を作っているだけだから、警戒したところで何もないんだけどね!

 美味しそうな匂いにつられてお腹が鳴っても(シルバの耳が捉えた)、食べられないから可哀想だな~。

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