第47話 ホットサンドメーカーの活用法
俺たちが罪深い実験をしている間にも、他の冒険者や商人さんたちも食事の準備に忙しそうだった。
護衛対象であるシュテルさんの近くに居るけど、護衛のランドルさんとギルベルトさんがいるので、そこまで密着していなくてもいいしね。ある程度安全が確保されているなら、神経質にならなくてもいいそうだ。
問題は、盗賊たちが襲って来た時に、側を離れていることが拙いってだけで。
そこはシルバやノワルが辺りを警戒してくれているので、彼らから送られてくる警戒信号をスルーしないように気を付ければいい。
「流石、初日と言うべきかしら。みんなまだ余裕があるわねぇ」
「まぁ、こんな街道沿いで、いきなり襲うバカはいねぇしな」
「襲ってくるとしても、夜半か明け方辺りの、最も気の緩んだ時間帯だろう」
あちこちで上がる飯炊き用の焚火が、薄暗くなった周辺を明るく照らしている。それを眺めつつ、俺たちは枝豆をプチプチ食べていた。
「このエダマメ、無限に食えるっす!」
「リオっちスゴイね!アタシ、こんな食べ方初めてだよっ!こんなに美味しいのに、何で今まで誰も気付かなかったのかな?」
「熟していないからだろう。だが、熟さずとも、これは完成された味だな」
食に関しては他の追随を許さない日本人だからね。俺もなんで大豆になるのを待たずに、若い枝豆を食べようとしたのかは判んないんだけど。昔からあるから、これが普通だって思ってたもん。
毒を持っている食べ物でも、何とかして食ってやろうとするご先祖様の根性は、尊敬に値する。
生きるために毒を含むモノを食べられるようになった生き物は数あれど。他に食べる物があるのに、毒を持った食べ物を食べるべく、毒を無効化する方法を思いつくのは人間に与えられた知恵と努力によるものだろう。
こんにゃくとかフグとか他にも色々あるけど、まともな神経じゃ毒のあるモノを食べようと思わないだろうし。(褒めてる)
毒とは関係ないけど、【
大陸に留学していた禅僧が、そこで食べた羊肉の羹(煮凝りのような物)がどうしても食べたくて、羊肉を小豆で代用して再現したのが始まりとされるのだけれど。
正にどうしてこうなった!? って食べ物だと思うよ。こうやって精進料理も進化していったんだろうねぇ。
ところですごく気になることがあるんだけど。
「すっかり、定着してんなぁ」
「そうねぇ」
「持ってない奴はいないんじゃないか?」
焚火に翳しているフライパンに、見覚えがありすぎるのだが。それを指して、大人組が頷き合っていた。
「ホットサンドメーカーでしょ?」
「リオリオの便利道具っすよね!」
それなんだよね。何でか知らないけど、冒険者や商人さんが、それぞれ手に持って、焚火に翳して何かを焼いていた。それはいいんだ。
しかもホットサンドメーカーを買うと、レシピの小冊子が付いているから、簡単なキャンプ飯なら誰でも作ることができる。
そのせいでかなり売れているとは聞いていたけど、(不労所得万歳)護衛の冒険者たちと護衛対象の行商人御一行様のほぼ全員が持っていることが不思議でならなかった。
目線でアマンダ姉さんたちに問い掛けると、気まずそうに口を開いた。
「あ~あれはねぇ、コロポックルの森で、必需品になってたのよね」
「中身が見えないっつーか、蓋があるから取られにくいっつーか」
「調理中に奪われないのもいいからかしらね?」
「蓋がイイ感じでガードしてくれるしなぁ」
「ああ、そういう訳か」
どういう訳?ディエゴだけ判り切った顔で頷いているんだけど? 俺とほぼ一緒に宿泊場所のコテージで暇を持て余していたくせに、直ぐに気付くなんてなんでだ。
だがその答えは、直ぐに若者二人によってもたらされた。
「あれ、武器にもなるんすよね!」
「振り回しても中身が零れないしね!」
「熱したフライパンだから、白い悪魔も中々奪い取れないのが良いんだって、みんな言ってたっす!」
「白い悪魔の襲撃に、ホットサンドメーカーが大活躍してたよねぇ~!」
ちょっと待て、テオとチェリッシュ。
誰がそんな使い方を思いついた!?
「それにただ焼いただけでも、割と何でも美味くなるって評判だったっすよ!野菜にチーズを乗せて焼くとスゲェ美味かったそうっす」
「アタシはやっぱ、妖精の粉があればもっといいと思うんだけどねぇ~」
後半部分はまぁいいとして。
料理が下手な人でも、ある程度の仕上がりとなるホットサンドメーカーである。
蓋を開けて焼き加減を確認して、再び引っ繰り返すだけで簡単に料理が作れるけれど―――誰が武器になるって考えた?!
確かにフライパンで人を殴るっていうのは、マンガなんかでよく見る描写だけどね? 実際に武器にしてる人なんていないよ!?(多分)
「飛ぶように売れていたのは、そのせいか……」
こらそこ! ディエゴもなんで納得したように頷いてんだよ!
「まぁ、使い方は人夫々だからなぁ」
「便利なのは違いないものねぇ」
「みんな撃退用に使ってたっすよね?」
「致命傷にはならないけど、熱くて白い悪魔も中々奪えなくていいんだって~」
こういう時、どういう表情をすればいいのだろうか?
便利だと思って使ってくれるのは嬉しいけれど、こっちはそんな発想はなかった状態だよ!
いや、魔物が平然と跋扈する異世界だからこそ、こういった発想に至るのだろうけれど。
「この噂が広まれば、どんどん売れるだろうな」
「既に広まってるんじゃねぇか?」
「そうねぇ……」
誰が最初にホットサンドメーカーが武器になると考え着いたかが問題なだけで、売れる分には別にいいんだけどさ。
天国の爺さんお元気ですか? 既に輪廻の輪に加わっている事とは思いますが。
俺の初の錬金術(?)による不労所得は、とんでもない理由で生み出されているようです。
異世界は、やっぱり物騒な世界のようだ。
俺は出来る限り保護者であるスプリガンから離れることなく、自分の身を守る手段を考え続けなければならない。なんせ元の世界に帰ることをまだ諦めていないので、命大事を優先させなければならないのだ。
だがメンバーの能力向上は当然のこととして、他に何が出来るだろうか?
「やっぱ、わなかな?」
成り行きで冒険者になってはいるけれど、身体能力の劣るただの人間である俺は、先人の知恵に頼る他はない。
襲われてしまえば終わる俺の脆弱さをカバーするには、まず襲われる前に講じる手段として、罠を仕掛けるのが良いだろう。
戦いとは、戦う前の準備でほぼ勝敗が決まると言ってもいいのだ。
そうして俺は、いくつかある手持ちの罠を、リュックから取り出すことにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます