第40話 新しい冒険者証は☆三つです
キャリュフ採取で一攫千金を狙う冒険者が増えることによって、牧歌的だった田舎町の治安が懸念され始めた頃。
粗暴な冒険者による迷惑行為に、町の住民は頭を悩ませていた。
流れ者である冒険者は、魔物の増殖を防いでくれる盾でもあるが、暴力的な無法者も少なくはない。何せ身体能力が一般人より高いので、力が有り余っている者が多いからだ。
女性や子供に威張り散らし暴力を振るったり、こんな田舎に来てやったんだ感謝しろと、横暴な態度で店を荒らしたり、自分より弱そうな者に喧嘩を売ってお金を奪い取ったりしている―――という物騒な話を聞いて、俺は益々宿から出なかったんだけどね。
そんな連中が、あちこちで騒ぎを起こし、終にはコロポックルの森でとんでもないことを仕出かしたと、騒がれるようになった。
そのとんでもないこととは、白い悪魔の子供を悪戯に殺し、その親の怒りを買ったというものだった。
薬草採取目的で訪れる、堅実で比較的温厚な冒険者が多かったこの田舎町では、白い悪魔の被害に遭っても、精々追い払う程度で殺すことはしなかった。
フライングエイプは、白い毛皮に覆われているため、昔から神聖な存在として扱われていたそうなので。(この世界でも白い獣は神の使い――精霊の使い――扱いなのだそう)
そんな暗黙のルールを知らない、稼げるというだけの噂でやって来た、目先の利益のみを目的とした冒険者の中に、キャリュフ採取の邪魔になるからと、白い悪魔を根絶やしにしようとする者が現れた。
手始めに比較的動きの遅い子供を攫い、親をおびき寄せて目の前で子供を殺す。それを見た親が、怒って襲い掛かってくるのを狙い撃つ。それを繰り返し、根絶やしにするつもりで。
だが躊躇いもなく行われるその蛮行に、とうとう白い悪魔たちは牙を剥いた。
「お前さんの言う通り、アレに手を出した結果、問題行動ばっか起こしてた連中が、森の中で無残に殺されてたよ……。全身の皮膚を剥がされて、木に吊るされていたそうだ」
まるで見せしめのようだった―――と、ギルマスは俺たちに語った。
うん?何でここで俺の料理を食べながら、猟奇殺人的な話を語っているのかな?
重要な話があると言って、深刻な顔をしていたから食事の席に誘ったんだけど。
残虐非道な行為をしていた冒険者の末路なんて、興味ないんですけど?
「白い悪魔っつっても、被害といやぁクソを投げつけて、飯を奪うくらいだったのにな。魔物化しちまったのが出たんじゃねぇかって噂されてるぜ?」
それは違うと思うな。
奴らはただ、やられたからやり返しただけだと思う。
それとボアの解体を目撃して、それを真似たのかもしれない。
お前らだって、害獣と同じだぞ―――という風に。
「せいとうぼうえい、だよ」
「正当防衛?難しいことを知ってんなぁ。でもま、そうかもな。他の真っ当な冒険者には、相変わらずクソを投げつけて、飯を奪うだけだってんだからな」
白い悪魔ことフライングエイプは、自分たちに害を及ぼした冒険者のみを狙って、集団で襲い掛かったそうだ。
彼らは賢い。全ての侵入者を排除すれば、楽にエサを確保できなくなる。だから、害ある者だけを排除すべく行動に出た。ただそれだけの話だ。
それにフライングエイプを根絶やしにしようとした連中は、思うほどキャリュフの採取が出来ない苛立ちの憂さ晴らしも兼ていたそうだ。元々ランク自体低くて、実力不足な連中だったそうだし。性格の悪さが行動に現れるタイプだね。
素行が悪く迷惑行為をしていただけに、彼らが白い悪魔に襲われて殺されたと聞いても、誰も同情なんかしていない。逆にこれが教訓となって、真っ当じゃない冒険者は採取運を失うどころか、白い悪魔の標的とされ排除されるとまで噂されるようになったらしい。
最終的には、森に住むコロポックルが、真面目な冒険者以外にはキャリュフが見つけられないよう、邪魔をしたり悪戯をするという噂も囁かれるようになったんだとか。(やたらと転ぶとか、蜂等の虫に襲われるとか)
まともじゃない冒険者や旅行客は、この平和な田舎町には来なくていいと思う。迷惑なだけだから。
そんな話はともかくとして。
「もう、かえっていいよ」
食事中にうんこの話をするな。それと、白い悪魔による猟奇殺人の話もすんな。
「飯が不味くなるだろうが」
「そうよ。あ、でもリオンのご飯はいつも美味しいわよ?」
「ギルマスのクセに、飯を集りにくんな」
「お偉いさんと食う飯は、緊張して味が判らなくなるっす」
「食事中にする話じゃないよね~?デリカシーがないんじゃないの?」
まるで俺の気持ちを代弁するように、スプリガンのメンバーは口々にギルマスを非難した。いいぞもっとやれ。
「お前ら、なんでそんなに俺に辛辣なんだよ!?」
「ちったぁ、己の胸に手を当てて考えろ」
「町の発展だの、町の復興だのと、理由を付けて子供の物を奪う輩に慈悲はない」
「それは、悪かったと思っている!」
でもサンプル品として、これ以上ない毛皮だったから仕方がないと言い訳をする。
「それに俺ぁ、ここにただ飯を食いに来ただけじゃねぇんだよ!」
「どうでもいい噂話や、汚い話をするだけなら、ここで終わらせてくれないかしら?」
「重要な話があるっていうから、仕方なく仲間に入れてやったんすよ?」
「ちっとも重要な話じゃなぁい!」
「だぁー!判った!判ったって!本当はこれを持って来てやったんだよ!」
散々皆に責められて、ギルマスは降参とばかりに手を上げ、懐から何かを取り出した。
チャラリと音を立てて取り出されたのは、見覚えのあるドッグタグだ。
勿体ぶるようにそれを俺に見せつけ、ニヤリと口の端を上げた。
「見習いの仮登録から昇格だ。この町の発展に寄与したって実績でな。お前さんはこれでいっぱしの冒険者だ。もう直ぐ13歳になんだろ?丁度いいから、そこも打ち込み直してやったぜ?」
「ふうん?」
特に感動も何もないけど、正式な冒険者として、俺は認められたらしい。そんな特に喜ぶ様子も見せない俺に、ギルマスはある事実を突きつけた。
「聞くところによると、お前らアントネストに行くんだって?しかも。虫好きな坊主の為だって話じゃねぇか。なのに見習いの仮登録のままじゃぁ、可哀想だろう?」
「?」
何が可哀想なのか分からなくて首を傾げる。
そこでギルマスが語ったのは、正に俺にとっては衝撃の事実だった。
アントネストのダンジョンに行くなら、見習いの仮登録だけでは入れない場所がある。そもそもダンジョンには制約があり、冒険者のランクによって入れる場所と、入れない場所があるんだそうだ。
冒険者稼業自体、自己責任のようなものだけれど、それでも彼らの命を守るために必要な決まりでもあった。
そしてアントネストは蟻の巣のように中が入り組んでいる分、危険な魔物の生息する巣(異空間)もあって、正式な冒険者でなければ立ち入りが禁止された区域がある。要するに全ての巣穴に、冒険者が入れるランクが決まっているのだ。
それを知った俺は、皆を睨みつけるように振り返った。
「いや―――騙していたわけじゃねぇよ?昆虫類の生息区域は、見習いでもギリイケルからな!」
「一部の爬虫類や、両生類の生息区域がダメなだけよ?」
「目的が昆虫なら、それ以外はどうでもいいと思った」
三者三様に、俺に対して言い訳をする。現地に辿り着いた時に、俺が落ち込む姿が何故想像できない!昆虫だけじゃなくて、爬虫類や両生類も好きだって言ったじゃん!え?言ってない?
「まぁまぁ、いいじゃねぇか。今回の実績で、坊主も晴れて正式な冒険者だ。本来なら15歳から冒険者登録できるんだが、見習いから始めりゃぁ、13歳でも実績を積んで登録できるからな。これで大手を振って、アントネストの巣穴に入り込めるぜ!」
「――――ゆるす」
貢献した実績が何なのか、いまいちよく判らんが。これで正式な冒険者証を手に入れられたので、大人組三人への怒りは収めることにした。
ところで正式な冒険者証ということだが、何が変わったのだろうか?
今持っている仮登録証と、見比べてみる。
Explore
NAME:RION
AGE:12
GENDER:M
JOB:TBD
RANK:TBD
PARTY:SPRIGGANS
これが――――
Explore
NAME:RION
AGE:13
GENDER:M
JOB:KOROPOKKURU
RANK:☆☆☆
PARTY:SPRIGGANS
――――こうなる。
ん?ランクって、普通はAとかSのアルファベットじゃないの?Fから始まるとかじゃなくて☆なの?たまに流し見るアニメ作品じゃそうなってるんだけど?(多分)
お約束にして定番の主人公がチート能力を発揮して「新人なのにいきなりSランクですって!?」とかの騒がれる展開はないんだ。知らんけど。
俺のは☆が三つあるから、三ツ星か。某タイヤ会社のレストランを紹介する、ガイドブックみたいな表記だな。
レストランなら三ツ星が最大評価数だけど、冒険者のランクの星っていくつまでなんだろう?ガチャなら☆五つが天井だったかな?まぁ、どうでもいいけど。
「本来なら一つ星なんだろうが、お前さんはこの町の復興に貢献しまくってくれたからな。ギルマス権限で、特別に三ツ星にしてやったぜ」
何をそんなにドヤっているのか。
俺は当然あるべきキノコを掘って、食べられるボア肉の処理と熟成の仕方を伝授しただけだぞ?それを貢献とか実績と言われてもピンとこない。冒険者としてやるべき依頼も討伐なんぞも何一つやっていないんだから。(やる気もない)
そんな事よりも気になることがあるんだが?
「うわぁ~リオっちったら、いきなり三ツ星なの?ズルイ!羨ましい!アタシはまだ二つ星なのに!」
「俺だってそうっすよ!でも、リオリオが三ツ星なのも頷けるっす!」
「そうなんだよね。だからちょっと羨ましいのよ!」
うんうん。君らは二つ星かね。それより上ならば、まぁよかろう。だけどそんな事よりも気になることがあるんだって。
「ジョブが、コロポックル?」
「それ」
ディエゴがすぐに気づいてくれた。他の連中は、俺の三ツ星の方にしか意識が向いていないのに。流石は賢いお兄ちゃんですな。ちょっとサイコパスだけど。
「それな!まるでコロポックルみたいだから、洒落で付けてみた」
「だがそんなジョブなどはないが?」
「それな!まぁ、良いんじゃねぇか?森の妖精コロポックルとして、この町を有名にして―――」
「よくないっ!」
ふっざけんなっ!俺は怒ってドッグタグをギルマスに投げつけた。
誰が森の妖精コロポックルだ!背丈の低い小人のことだって知ってんだからな!(この世界のコロポックルも大体同じ意味で、狩猟や採取で採れた獲物を、気に入った人間に分け与えてくれる妖精なのだそうだ)
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