第41話 ジョブはアルケミスト
翌日、あちこち何処かでぶつけたのか、青痣の出来まくったギルマスが、ジョブの部分を打ち込み直したドッグタグを持ってきた。
「怒りをお鎮め下さい、コロポックル様!」って言いながら渡すな。一晩寝たら怒りも収まったけどさ。
日本人男性の平均身長より低いだけで、そんなに小さくはないと思うんだけどな。この世界の人間に比べると、確かにちみっこではあるんだろうけど。(女の子であるチェリッシュより低いのは如何ともしがたい)
そうして、改められた正式な俺のジョブは、アルケミスト(錬金術師)になった。
冗談で錬金術とか口走ってたけど。まさか正式に錬金術師にされるとは思ってもいなかったよ……。これが言霊ってやつか?
でもこの錬金術師というジョブを決めたのは、ディエゴ含む大人三人組である。
錬金術師であれば、妙な物を作っていても怪しまれないからだとか。
そんな理由で錬金術師にされたのなら、真っ当な錬金術師の方に失礼である。
とはいえ詳細を聞けばこの世界の錬金術師は、医師または薬師であり、調香師であり、調理師でもあるそうだ。万能というより多種多様な
錬金術師として有名なパラケルススもそうだけど、かの有名な大預言者(詩篇が後世に予兆詩として改竄され出版されたが、該当する文献は残っていない)も、『化粧品とジャム論』の著作者で、医師であり料理研究家であり占星術師であったが、一説によると錬金術師だった説がある。知らんけど。
それにアルケミストだからと言って、石ころを金に変える技術はないんだってさ。
そもそも金を作るには星を爆発させるぐらいのエネルギーがないと無理だし。たかが金ごときを作るだけで、世界そのものを木っ端みじんにするとか、等価交換どころの話じゃないわ。大人しく鉱脈を掘れ。
一応、研究している人はいるらしいけれど。(あたおか仲間かな?)俺にとってはばかばかしい話である。
だから今のところ卑金属から貴金属を生み出せた錬金術師はいない。
よって賢者の石なんて存在しない世界の錬金術師なのである。
魔法とかいう特殊な能力を持っている人も多いのに、死人を生き返らせたり、不老不死についての研究は進んでいないようだ。(怪しげな秘密結社はあるらしい)
ここの森で偶然取れる『ガノマダケ』を使った薬が、唯一の万能薬に近い効能があるだけで、怪我や病気を完治させるような治癒スキルはないみたい。そういうジョブはないのか聞いてみたら、物凄く可哀想な子を見る目で見られた。(ディエゴに)
ヒーラーやプリーストというジョブはなく、それらに該当するジョブは医師であり薬師なのである。異世界やゲームの定番として、怪我や病気は魔法で治せるのが普通だと思っていた俺の常識が、一気に崩れた瞬間でもあった。
だから薬草が必要とされるし、みんな怪我には気を付けてたんだな。その場で治せる都合のいい
確かに料理は人間の論理的・科学的思考の産物なので、理系ではある。当然、医師や薬剤師も理系だからな。
アルゴリズムによってそれらを発展させる方式なのは、魔法のある世界でも同じようだ。不思議な力でどうにかなるもんではない分野だってことね。
この世界でナノマシンに匹敵する能力を持っているのは、それこそ妖精のような存在しかいないのかもしれない。(目に見えないという意味で)
よって
エリクサーならダンジョンで手に入るかもしれないそうだが、大昔の文献にそれらしい記述があるだけで、実際にあるかどうかは判らないんだって。
そのエリクサーを研究するべく、魔塔では強制的にダンジョンへ潜らせるあたおか行事があるとか。(ドロップアイテム目当て)ディエゴはそれで冒険者登録をさせられたそうだ。
なので魔塔出身者は、自動的に冒険者の登録をさせられる者が多く、ディエゴみたいに冒険者になってしまう魔塔出身者が珍しくないのもきっとそのせいだろう。
魔法のあるファンタジー世界だけど、妙に現実的な能力しかない錬金術師である。真理の探究者と言えば聞こえはいいけれど、錬金術師は薬師と調理師の上位的存在なだけだった。
あれ?ディエゴが酔い覚ましの薬を持っていたのも、大量の瓶を持っているのも、薬草にやたら詳しいのも、元々錬金術師を目指していたからなんだろうか?うむむ……また謎が深まってしまった。
でも俺はコミュハラと呼ばれる、プライベートをしつこく探るコミュニケーションの取り方が嫌いなので、本人が語るまで詳しくは聞かないでおこう。
他のメンバーについても良く知らないけどね。おいおい知ることになるのかもだけど、知らなくても全然問題がないのでどうでもいい。
早いもので、この世界に来て三ヶ月が経とうとしていた。
俺とディエゴのやらかしのせいで、色々な手続きや商談が舞い込んだのが、主な足止めの原因である。
お陰様でこの三ヶ月間は働かなくても十分な収入はあった。
それでも何度かコロポックルの森へ向かい、テオやチェリッシュを鍛えていたアマンダ姉さんとギガンである。(俺とディエゴは大人しくお留守番)
今の若者二人の実力では、アントネストのダンジョンに潜らせるには心許ないのだそうだ。最低限、ルーンベアを怪我をせず倒せるぐらいにならないといけないらしい。昆虫とはいえ魔物で巨大だからか、ゴッキーですら軽自動車のような巨体で時速60キロで突っ込んでくるからね。
アントネスト自体、ランクが三ツ星以上でないと入れない巣穴ばかりだという話なので。ただでさえ人気がないのに、実力を求められるから余計に人気が無くなっているという弊害か。
詳しく聞けば聞くほど、俺に星を三つくれたギルマスに感謝をしなければならないんだけど、悔しいから腕毛が頭髪の増殖に切り替わる呪いをかけておく。(ギルマスって、太目で筋肉質になった狂人だけど実は良い人な芸人の江頭さんみたいで憎めない)
テオとチェリッシュも、この町に滞在している間に三ツ星までランクを上げるべく、日々頑張ってうんこ被害に遭いながらも、コロポックルの森へ挑むこと二ヶ月。
ギガンとアマンダ姉さん指導の元、どうにか三ツ星までランクを上げた。
キャリュフ狩りというより、ルーンベアの討伐での昇格である。
シルバはいないけど、ノワルが食事を運ぶ際、その場に居ると白い悪魔が寄ってこないことが発覚したお陰で、何とか食事中は安心して腰を落ち着けることができたのもある。(冒険者の多くがスプリガンのメンバーの傍にこそこそ集まる姿が見られたとかなんとか)
そうした苦労の末に、三ツ星を獲得した二人は号泣していた。
良かったねおめでとうと、俺は頑張った二人にご褒美として大量の紅茶(スティック顆粒)を瓶に入れてプレゼントしてあげた。(処分のつもりはちょっとしかない)
そうして季節的には夏へと切り替わる頃。雨季に入るまでにはアントネストへ向かった方が良いとのことで、そろそろこの町から旅立つ日がやってきた。
俺がこの町の森に神隠しで迷い込んだのは、やはり春先だったらしい。
この期間中に、定期お特便の確認もできた。もう二度と手に入らないと思っていた日本産調味料も、定期的に手に入ると安堵する結果となったのはいいんだけどね。
だがやはりというか、懸念していた赤白ワイン12本三箱セットは、うっかり三か月毎の定期購入設定にしていたことが発覚した。(ワインが増えててゾッとした)
どうやってあれらが受取確認もせず、受け取れるのかは謎だけど。(宅配ボックスに入る量ではない)
「なんつーか、ここ三か月の間に、すっかり贅沢が身に付いちまった気がするぜ……主に食事面で」
「このまま旅に出る不安が、半端ないわよね。主に食事面で」
「それは、だいじょうぶ」
相変わらず俺の発音は怪しい。舌が短いせいなのだろうか?ちくしょーめ。
でも保存食は沢山作ったし、俺の四次元リュックは優秀なので、生鮮食品の長期保存もばっちりだ。
「しかもディエゴさんの特許のお陰で、魔動車まで購入できるようになるなんて……ヤバいっす。俺、魔動車なんて見たことも乗ったこともないのに!」
「納車までまだ時間はかかるが、アントネストで受け取れる予定だ」
ディエゴが頑張って申請したフリーズドライ魔法術式も無事特許を取得し、アホみたいな金額での使用料設定をした。それにも拘らず、閲覧希望と使用料を払ったあたおかが現れた。
予想通りに魔塔からだったそうで、速攻で大金がディエゴの個人口座(商業ギルドでは、銀行のような部署がある)に振り込まれたそうだ。
そんなあぶく銭なので、せっかくだからと俺たちの移動用魔動車を購入することになったのである。(有意義な買い物とはこのことだった)
「普通は徒歩での移動でしょう?箱馬車での移動でも十分なのに、魔動車に乗れるなんて、アタシ、このパーティに入れて、ほんと、良かった……っ!」
チェリッシュがめっちゃ感動している。この子も明るく見えるだけで、何か問題を抱えているのだろうか?森での採取修行も、文句(主にうんこ被害)を言いながら必死に食らいついている様子から見て取れる。
心が折れそうになっても、コテージに戻れば俺が温かく迎えてくれて、癒されるから頑張れたんだって。無理言ってアントネストに行くことになったお詫びのつもりだったんだけど。もうちょっとサービスするべきか?
テオも気のいいヤツ(夢見がち)だし、おバカな若者二人だが、大人組の言いつけを守っているところは好感が持てるよね。勉強は嫌いだけどさ。ディエゴ作の立派な図鑑も、文字があるだけで頭が拒否すると読みたがらないのは、どうにかならないものだろうか?挿絵を見るだけでも面白いのに。
「魔動船が欲しかったが、流石に無理だった」
「んなのを個人で所有してんのは、王侯貴族か魔塔ぐれぇだろうが。やめとけ。悪目立ちする」
魔動船ですとな?それはもしや、空を飛ぶ船かな?某最後の幻想という名のゲームに出てくる飛空艇ではなかろうか?これを手に入れると、様々な場所への移動が可能で、とっても便利なアイテムなのだけど。(俺はミニゲームに引っ掛かって最後までプレイしていない)
想像以上にこの世界は文明が進んでいるのかな?田舎だからよく判らないんだが。
「しかし流石は魔塔だな。滅茶苦茶な金額設定をしたのに、あっさり使用料を払いやがったぜ」
「魔道具化に漕ぎ付けでもしたら、今度はライセンス料で、売り上げの10%が懐に入る予定だ。できるだけ搾り取ってやろう」
「特許の有効期限10年の間に、魔道具化できることを祈るわ」
ギガンとディエゴが悪い顔をしている。それを見たアマンダ姉さんは、ちょっと呆れていた。
この世界の特許は最長で10年の有効期限が設定できる。期限が切れた後は使用料を払わなくてもいいし、誰もが閲覧自由になるんだって。むろん、無料で利用できるよう設定することも可能。獣肉の熟成加工方法とかね。
高額な使用料を払っても、取り返せるだけの技術があれば、早い者勝ちで儲かるんだそうだ。なので魔塔は常に、特許庁みたいなところで新しく申請された資料を閲覧しているらしい。(概要の閲覧だけでも、高額な費用が発生する)
最早フリーズドライ食品が、この世に出回るのも時間の問題だね。願わくば、正しい使い道でのフリーズドライ製法でありますようにと俺も祈っておこう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます