第93話 アイデアとサービス精神

 本日最後の訪問先は、鍛冶工房である。

 冒険者ギルドにはみんなで行ったけど、そこから二手に分かれることにした。

 何となくだけど、薬師ギルドの方にはアマンダ姉さんとチェリッシュの方が良いかなぁ~という気がしたので。お願いしてみた。


「判ったわ。使い心地を説明してくればいいのよね?」

「オッケー! ベストコンディションのお肌について、バッチリ説明してくるね!」

「うん。おねがいねー」


 石鹸や化粧水みたいな美容品は、商業ギルドより薬師ギルドかな? って思ったんだよね。そして美容関係となると、女性の意見が重要となる。

 なんだかんだで二人が苦手な魔昆虫を相手に液玉を回収してくれたのも、俺が作っている石鹸や化粧水が気になったからだし。全部自然由来ダンジョン産の成分で危険性はないから安心して使えるので、その使い心地も試してくれてお肌の調子を実感して頂いた。

 アマンダ姉さんは相変わらずの美魔女だけど、その美しさをより持続させる効果があると実感したそうだ。

 アマンダ姉さんには是非ともアントネストダンジョン産、美容商品のアンバサダーになって頂きたい。

 まだ若いチェリッシュはどうかな? と思ったんだけど、実は乾燥肌だったらしく、必死で隠していたニキビ(オデコ)が消えたって喜んでいた。

 やたらと前髪を気にしていたのには気付いてたんだけど、長くて鬱陶しいなら切ればいいのにと思っていたのは秘密だよ。(俺なんかオデコ全開だからね)


 化粧水から保湿クリームまでを使用した二人によると、しっとりタイプと、さっぱりタイプの二種類は絶対必要だというので、苦労して配合も色々試していたらサンプル品が増えたのだ。

 結果的に美容関連は商業ギルドより薬師ギルドだよね~ってことで、二人に説明してもらうためにお願いしたのである。もう俺じゃ訳判んないし。

 そうして俺たちはサンプル品と書類を持って、各自その他のギルドに散らばった。


 商業ギルドには特許の申請書類をメインに。気になるものがあれば冒険者ギルドに問い合わせてねと、液玉関連は全部冒険者ギルドに丸投げた。

 鑑定結果の内容は冒険者ギルドに一任しているので、詳細な情報は冒険者ギルドでしか判らないようにしてある。ディエゴからどの魔昆虫から何がドロップされるかといった、詳細な鑑定内容も知的財産になるから、事細かに教えてあげない方が良いと言われたのだ。

 確かにコイツからこんなモノがドロップされるのかと知ったら、ちょっと嫌な気持ちになるモノが多いからね。

 よって大まかなこと(商品化できる素材)しか他のギルドは知ることができないようになっていた。




 てなわけで、俺たちは本命の鍛冶工房に来ていた。

 前々から色々作って欲しかったんだよね。


「んじゃぁ、これに似せて作りゃいいんだな?」

「おねがいします」

「おっし、その他のも任せてくんな!」

「ありがとー」


 俺が鍛冶工房にお願いしたのは、アブローラー等の、筋トレ用品である。

 実は液玉を割って中身を取り出した後、この割れた容器をどうするかなと、俺はその容器を見て考えた。

 カプセルトイの容器っぽいのだけど、素材はどう見てもゴムなのである。かなり弾性が高く、使い道がありそうで捨てるのも勿体ないなと思ったのだ。

 ガチャの中身を取り出した後、その容器ってその場で回収する箱に入れるか、家に持ち帰れば捨てるしかない。(俺は捨てられずに何故か溜まり続ける)

 でもこの世界では安易に捨てるには惜しい素材だし、再利用して何か役に立つ物でも作れないかな? って考えたのだ。


 そこでGGGさんにプレゼントしようと思っていた、アブローラー等の筋トレ器具を見て、持ち手のグリップやタイヤ、ハンドグリップの持ち手部分とかに使ったらいいんじゃないかとなったのだ。

 用済みカプセルはある程度の熱を加えると簡単に溶ける。

 それに燃えないし変な臭いが立ち込めることがなかったので、加工もし易かったんだよね。ドロドロにならないし、スライムっぽい粘土みたいになって、型取りも簡単だったし。(冷めると自然にゴムの様に固まる)

 それ以外の利用方法も色々考えていたのだが、俺はまず最初にGGGさんへのプレゼント用筋トレ器具に使うことを思い付いた。


「しっかしこいつぁ、いい具合に腹筋が鍛えられるな!」

「背中も鍛えられるみたいだぜ!」


 アブローラーで鍛えられる部位は、お腹の正面にある腹直筋、横腹の腹斜筋群、そしてインナーマッスルの腹横筋である。しかも背中の広背筋や脊柱起立筋、腕の上腕三頭筋にも効果があるのだ。

 考えながら筋肉を鍛えると、頭も鍛えられるからね。闇雲に筋肉を鍛えるよりは、効果的な鍛え方があると知って欲しかったのである。


「基礎代謝の向上っつーのか。そういうのが上がるとどうなんだ?」

「太り難く、痩せやすくなるそうだ」

「へぇ~。中年になると腹が出てくるから、そういうのに良いんだな?」

「そーだよー」

「アルケミストっつーのは、面白いもんを考えるんだな~」

「久しぶりに面白い注文が入ったぜ」


 別に俺が考えた訳ではないんだけど、そういうことにしとくか。

 この世界のまともなアルケミストのみなさんごめんね。俺のせいで妙な物ばっかり作ってると思われちゃった。


「俺らの分も作って良いのかい?」

「いいよー」


 この筋トレ器具を見た鍛冶師さんが、何に使うんだ? と聞くので、ギガンやテオに実践してもらい、筋肉を鍛える器具であると知ってもらったのである。

 途中から鍛冶師のみなさんが面白がって、全員でアブローラーやハンドグリップを使い始めたからちょっと時間がかかっちゃったよ。

 なんかアントネストに居る男性陣はやたらと筋トレをしたがるんだけど、ここには歓楽街がないから筋トレで発散したいのだろうか?

 まぁその方が健全だし、健康的で良いと思うよ。

 ノリノリな鍛冶師さんをおだてまくり、他にも作って欲しいものを数点お願いして、俺たちは鍛冶工房を後にした。


「これで回るとこは全部回ったか?」

「うん」


 多分ね。用事のあるギルドはこれでほぼ網羅したかと思われ。

 因みにこのカプセルトイの空容器を溶かして硬化液を混ぜると、樹脂食器みたいなのが作れるんだよ。落としても割れないし、軽くて丈夫なのに子供にも安心して使えるので、食器類の作成も出来るか聞いてみたのである。(本来ならこちらが本命)

 鍛冶工房で作れるモノかどうか判んなかったけど、アブローラー等の筋トレ器具のお陰か、その素材に興味を思ったことで、それらもついでの様にお願いしておいた。

 そして俺一押しの商品は、可愛いカクテルピックである。ピンチョスピックともいう、フルーツや食べ物に挿す用の爪楊枝だ。

 木で作るより簡単だし、何より見た目が違う。シーハーしないとは言い切れないけど、手掴みされるよりはマシなので、お肉を食べる時に使いやすいカクテルピックを作ればいいのでは? と思い付いたのである。


 流石にサンプル品として食器類を作ることは、技術的に無理だったのだ。

 鍛冶工房で頼んで無理だったら諦めようと思ってたんだけど、アブローラーのお陰でみなさん面白がってくれたようで何よりです。ディエゴから難しい注文をする時、最初に相手が興味を引くモノからすると、その後も上手く行くとアドバイスを受けたんだけど、事実その通りになった訳だ。

 製品例の特許出願用書類だけ作成していたのが無駄にならずに済んで良かったよ。

 それにアブローラーだけ作って終わらせるにはその後大量に排出されるであろう、捨てるしかない空容器が勿体なかったのである。

 資源の再利用としてエコな食器が安価で作れるなんて、画期的じゃないかな?

 溶かして冷やし固めるとゴムに戻るし、硬化液を混ぜれば食器に加工できる。

 エコとしての観点で言えばバナーナの葉っぱの器も良いんだけどね。ただ器だけではマナーは改められない。俺は何としても手掴み食いは止めさせたいのだ。

 そんな訳で、実験的にエコなこれら食器類を、爬虫類お肉屋台のおじさんたちに使ってもらおうと考えている。


「捨てるには惜しいと思っていたが、再利用できて良かったな」

「そうだねー」


 こういうことは、ディエゴだけが判ってくれるよね。他のみんなはカプセル自体に何の価値も見出してくれなかったんだよ。

 捨てたくないなって考えてたら、ディエゴが溶かしてみようって言い出して、なんだかんだで使い道を考えてくれたのである。

 ただお互い食器などのスプーンやフォークを作る段階になって、自分たちには無理だと気付いたけどね。

 型取り自体は出来るんだけど、その型を作るのが難しかったんだよ。

 工作は割と得意な方だけど、職人さんと比べると劣るからね。

 なので本職にお願いすることにしたって訳。

 他にも色々と使い道がありそうだけど、それに付いては追々考えて行こう。




「アマンダたちおせぇな」

「何やってんすかね?」

「話し込んでいるんだろう」

「かもねー」


 俺たちも随分と鍛冶工房で話し込んでいたのだが、アマンダ姉さんたちの方が時間がかかっているようだ。

 合流場所で待っていてもなかなか来ないので、先に帰るかなと話しながら、昼時も過ぎちゃったから食事をどうしようかと考えていた。

 オネーサンのお店とは別に、他にもまだ潰れていない工房や店舗を何気なく見る。

 すると家具工房では、テーブルやイスを忙しそうに作ってたんだけど、そこには見慣れた屋台のおじさんの息子さんや他の屋台のおじさんたちが作成を依頼しているところだった。

 今日の屋台の販売分はもう売り切れたのかな? そんなことを考えていると、声を掛けられた。


「あ。先生、こんちわっす!」

「こんにちわー」

「こないだ先生が貸してくれた、テーブルとイスなんすがね、あれから俺らも、お客さんへのサービスとして、自分らの店の前に置こうかと考えたんすよ」

「そうなんだ」


 あの時は一時的な女性客へのサービスだったし、その後は俺のリュックにないないされているガーデンテーブルセット ベンチ タイプのことかな?

 あくまでもサービス例として教えたけど、強制する気もないのでそのままにしていたのだが、おじさんたちは色々思うところがあったらしい。

 そして最近はお店の売り上げが好調なので、思い切って自分たちで作って設置することにしたんだって。

 とてもいい傾向だと思うよ。サービスは求められる前に、自らお客さんに提供すべきだからね。こういう些細なサービスで、人気や評価も上がるのだ。

 お店が繁盛していることに胡坐をかくことなく、サービスの向上に努めるなんて、素晴らしいなって思う。

 そして俺はついでに、現在屋台で使える安価な食器を作成しているので、テストとして使って欲しいというお願いをしておいた。 

 おじさんたちは喜んで引き受けてくれて、出来上がりを楽しみにしてくれたよ。


「じゃぁねー」

「がんばれよー!」

「今度買いに行くっすー!」


 手を振っておじさんたちに別れを告げ、待ちくたびれた俺たちは先に帰るかと寂れた商店街を歩きながら、貸店舗の宿泊先へ戻る途中、ちょっとした出会いと色々な思い付きがあったりした。

 それに付いては後日改めてになるけど、忙しくも有意義な一日だったのは言うまでもない。


「師匠!」

「あ、ジェリーさんっすよ」

「ほんとだー」


 ぶらぶらしながら漸く宿泊先の貸店舗に戻ると、ドアの前でジェリーさんがとてもいい表情で待ち構えていた。


「遂に出来ました!!」


 ぶんぶんと腕を振りながら、こちらへ走って来た。

 どうやらリニューアルされたタリスマンを見せに来てくれたようだ。

 時間はかかったけど、満足の出来る仕上がりと効果に、ジェリーさんが褒めて欲しいとばかりに俺に駆け寄って来たんだけど、そこはシルバ&ノワルガードによって遮られて終わったことは報告しておく。

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