第76話 質問に答えてくれるよ
「そんじゃ、コレは全部効果が違うのか?」
「そうだよー」
ギガンたちが、ジェリーさんの作ったアクセサリーというか、ストラップというか、ご利益のあるタリスマンを手に取り、感心したように眺めていた。
恥ずかしそうにしているジェリーさんだけど、初めて効果のあるアクセサリーを作れたからか、嬉しそうに頬を染めている。
最初は俺の作ったストラップに比べて効果がないと思い込んでいたようだけど、実際は様々なご利益があると知って満更でもなくなっているようだ。
因みに俺からおみくじの内容を聞いたことによって、ジェリーさんの鑑定眼鏡は情報を更新した。
俺から仕入れた情報を取り入れる形で、タリスマンの効果内容が上書きされて、より詳しく見れるようになったみたい。
以前シュテルさんに聞いた時に、確かそういう機能があるって言ってたような気がするんだよね。この世界では『おみくじ』という概念がないので、詳細がハッキリしなかっただけなんだろう。
ドロップ品の正体を鑑定できる者が現れない限り、ダンジョン産のアイテムは偽装し続けるとは聞いたけど、アントネストのドロップ品もその類なのかもね。
アンデルでこの鑑定虫メガネがドロップしたとしても、売りに出されず捨てられていたら、この偽装は永遠に解けなかったに違いない。
何の因果か俺が手にして、アントネストに来たことで漸く解けたこれらドロップ品の利用方法である。
『大吉』や『小吉』ではなくレベル表示は『V』や『S』のままだけど、ちゃんと『S:小さな願い事が叶うかも』という風に、ジェリーさんにも見えるようになったそうだ。
それを見た瞬間、ジェリーさんは感動で泣き崩れた。
寂れていくアントネストの街で、誰も見向きもしないドロップ品を買い取って作り続けて来たからね。報われて良かったと思うよ。
この商品がヒットして、お店も賑わうといいね~。
「へぇ~、おみくじ効果っていうの? 面白いよね!」
「しかもこれが一番効果が高いのよね?」
アマンダ姉さんがオニヤンマのタリスマンを手に取り「でも色が不気味なのよね」と呟いていた。
控えおろう! オニヤンマは他の害虫が寄ってこない効果があるんだぞ!
災難が遠のく効果としてピッタリではないか。
「確かに、旅のお供にゃ必要なタリスマンだな」
「災難にも色々あるだろうがな」
うむ。ディエゴの言う通り、災難と一言で言っても様々である。
事故や人災も含めると、悩みの多い人にとても需要がありそうだ。女難にも効果がありそうだよね。
「あ~んでもぉ、商売繁盛に、良縁の効果がある物も含めると、どれも欲しくなっちゃうわねぇ~」
「それは、むり」
幾つものタリスマンを手に取っているオネーサンを見ていたら、俺の虫メガネから『複数装身不可』っていう表示が出た。
それをディエゴに伝えてもらうと、みんなは「あ~」っていう顔になった。
お守りというのは、沢山身に着けているから良いというものではないのだ。
日本では違う神社のお守りを複数持っていても神様同士が喧嘩をすることはないとはいえ、この世界ではそうではないということだろう。
俺の世界(日本)の
その概念や文化は特殊であって、他所(他国)では通用しない。
元は同じ神様を崇拝していたのに、教義の違いから分裂して、挙句どれが一番正しいかで争っている国だってあるんだから、こちらの概念の方が多数派なのである。
神様同士で争っているというより、人間が勝手に争っているだけなんだけどね。
まるで推しの解釈違いで、面倒臭いことになっているファン心理のようだ。
「本当に叶えたいものだけ、所持しなければ効果はないということでしょうか?」
「そーだよ」
ジェリーさんの質問に頷く。
アントネストのダンジョン産のアイテムだけで作ったタリスマンだから、そういう捻くれた嫌がらせをやらかすのだろう。
人の喜ぶものを創りだしながら、タダではその恩恵を与えようとはしないのは、正に妖精の悪戯ということなんだろう。
何となくだけど、この世界の妖精という存在は、随分と悪戯好きのようだ。
俺もその妖精の仲間と思われているが、そんな厄介な愉快犯じゃないからね?
「購入自体は幾つしてもいいのだろうか?」
「たぶんねー」
「身に着けなければいいってことかしら?」
「そうだねー」
なんかさっきから、俺の鑑定虫メガネが一々みんなの質問に答えてるんだが?
見えてるのは俺だけなんだけどさ。
『複数購入可』とか『効果発動後、消失すれば新たに装身可能』とか出てくるんだよ。
どうしちゃったんだお前……。おみくじ効果のあるタリスマンを鑑定したせいで、おかしくなっちゃったのかな?
やたらと答えてくれる鑑定虫メガネを不思議に思って眺めていると、『話しかけて下さい』って表示された。いや、話しかける必要ないんだけど?
『質問にお答えします』じゃないよ! それになんかまるで、あの、アイツっぽいっていうか……。流石にアイツ―――アレクサだって、俺が心の中で話している内容にまで答えたりしないよ!? 勝手に話しかけてくるけど!
そんなことを考えていたら、『直接あなたに語り掛けています。質問をどうぞ』と、鑑定虫メガネに表示された。こわっ!
「どうしたリオン?」
「顔色が悪いっすよ?」
「疲れちゃったのかしらぁ~? お昼ご飯も沢山作らせちゃったし、ごめんなさいねぇ」
「……ちがう。だいじょうぶー」
音声機能がある訳ではないので、鑑定虫メガネから声が聞こえるって感じではないんだけど、返答自体はレンズに表示されるだけなので、見えているのは俺だけなのである。でも逆にそれが不気味で怖い。
鑑定虫メガネって、こういう機能があるの? そんな説明受けてないんだけど!
シュテルさん! シュテルさんはいないの!? 詳細を求む!! だってコイツ怖いんだよ、勝手に話しかけてくるんだよー!
話しかけたら答えてくれるんじゃなくて、勝手に話しかけてくるというか、質問しろって言い出したんだよー!!
「それじゃぁ、今度このタリスマンを身に着けて、ダンジョンアタックしましょうか?」
「いいわねぇ~、面白そうだし、アタシたちも参加していいかしら?」
「いいな、それは! 我々もぜひ参加させて頂きたい!」
俺が内心あわあわしている間にも、オネーサンやスプリガンのメンバー、そしてシャバーニさんたちが、ジェリーさんのタリスマンを身に着けて、ダンジョンに行く約束をし始めていた。
「できればみなさんで、効果を確認して頂ければ助かります!」
そうしてジェリーさんは、自分の作ったタリスマンの効果をテストしたいのか、みんなに『小さな願い事が叶うかも』タリスマンを提供することを約束していた。
新薬の治験か、商品のテスターなのか。危険度はないから、テスターかな?
数が足りないから、これからお店に戻って作成するとのこと。みんながタリスマンの効果を実感できたら、宣伝もかねてお披露目をするんだって。物凄くやる気に満ち溢れているので、不気味な鑑定虫メガネの話題でそれに水を差すことができない。
でも今のところ、これらの商品を作り出せるのはジェリーさんだけなのかな?
『アントネスト以外の場所では、効果の出るアイテムを作ることは出来ません』
そうなの?
『魔昆虫に造詣の深い者にだけ、効果を齎すアイテムの作成が可能です』
へぇ~。やっぱそうなんだ。
じゃぁ、現状は彫金師としてもジェリーさんだけが作り出せるタリスマンってことになるね。
『そうなります』
「………」
本当に色々質問したら答えてくれるんだけど。
でも俺は心の中で考えているだけなので、寧ろディエゴやシルバたちに念波を送っているような伝え方ではない。
コイツが勝手に俺の思考を読み取って、勝手に応えているだけなのだ。
「確かにこの『小さな願い事が叶う』タリスマンは、何となくダンジョン向きのような気がするな」
「小さな願い事ってところが、ちょっとロマンチックよね~」
「願いは一つだがな!」
「是非とも肉をドロップさせて欲しいな!」
「それが小さい願い事かどうかは、判らんぞ?」
「やっぱドロップ率が上がるとかじゃないっすかね?」
「願えばいいってことでしょ~?」
そして他のみんなが疑問に思っていることに対して、『ダンジョン内であれば、
ということは、ジェリーさんのタリスマンは、ダンジョン内であればその効果を発揮するってこと?
『確率の問題です』
可能性ではなくて?
『蓋然性とはそういうモノです』
そう言われればそうだけど。お願い事って、人によって様々じゃん。
確かに『可能性』と『蓋然性』は似ているようで違う。あるかないかが可能性であり、高いか低いかなのが蓋然性である。効果によるその違いってなんだろう?
『一定の確率で起こりうる事柄だからです』
「……」
まぁ、確かにダンジョンで魔物を斃せば、一定の確率でアイテムがドロップするから、おみくじタリスマン効果で、欲しいアイテムの出る確率が高くなるってことなんだろう。
そもそもガチャシステムって、欲しいモノや、レアなアイテムが中々出ない仕組みになっているしね。課金じゃぶじゃぶさせるために。
何度回してもレアが出ない人もいれば、数回でレアが出る人もいるし。運という作用が、どう関係しているかは神のみぞ知るだけれど。
ゲームセンターにあるガチャの場合は、お金をつぎ込めばつぎ込んだだけ、中身が減っていずれ全部出てくるけど、ソシャゲ等のガチャシステムは中身が減っていく感覚が判らない。なので同じランダム制とはいえ、天井が判らないだけにやり続けると破産するし心が折れる。
ダンジョンのドロップシステムもゲームのガチャと同じで、魔物が常に
特にGGGのみなさんは、物欲センサーがダンジョンに察知されているのか、皮革素材がドロップして、肉のドロップ率の方が低くなっている。他の冒険者であれば、肉ばかりで高価な皮革素材がドロップしないのにね。
いや、それでも可能性じゃなくて、蓋然性なのはなんでだよ。
『はっきりとした数値として表せませんが、多分そうなるであろう物事だからです』だって。ほぉ~ん。
「…………」
うん。考えるのはもう止めよう。
鑑定虫メガネのアレクサ二号は、勝手に質問されたと思って答えてくれるのだが、便利というよりなんか怖いんだよね。
お前のそれは既に鑑定ではないだろう!? って感じだから。
そうして俺は、そっと鑑定虫メガネをリュックに仕舞った。
こいつの謎は、アレクサの謎と同じぐらい、不気味に満ちている。
異世界にきてまで、厄介なモノに絡まれたくないよ~!!
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