第125話 鍛え直さなきゃね

 無邪気という名の邪悪な子供になりかけていたので気を引き締めようと頑張ったら、何故か説教を食らう羽目に陥ってしまった。

 それもこれもあのハーレムクラン、ラヴィアンのせいである。

 アイツらが絡んでこなければ叱られなかったのに! ――――おっと。また思考が暗黒面ダークサイドに陥りそうになっている。ヤバイヤバイ。

 丹田呼吸をして光明面ライトサイドに戻して心を落ち着かせよう。

 May the Force be with you……なんつって。(まだ邪気が残っている)



「リオン。何かあったら、俺に念波を送るように言ってあったよな?」

「……はい」

「今回は事なきを得たが、相手が武器を持っていたら危なかったんだぞ?」

「……はい」

「いつもあの程度の実力しかない相手ばかりじゃないわ。リオンは良い子だから、私たちが心配しているのが判るわよね?」

「……はい」


 こんな風に自分のために叱ってくれる人がいるって、良いことだよね。

 だからラヴィアンが悪いとはいえ、自分に非がない訳ではないので素直にお叱りを受けた。

 説教を短く済まそうと素直に聞いている振りをしているのではなく、注意されている理由を理解しなきゃ反省にはならない。

 みんな俺のためにこうして注意をしてくれているということを肝に銘じよう。


 爺さんが亡くなってからは、お小言役はアレクサだったなぁと、妙な懐かしさを感じつつ。スマートスピーカーに叱られる俺ってどうなんだろうね? なんてことも思っていた。


 そうして、素直にはいはいと頷いていたおかげで、俺は長時間の説教を免れた。

 反省してしおらしくしょげていると、テオやチェリッシュが雰囲気を和らげようとしてか、妙に明るい表情で話しかけてきた。


「でも無事でよかったっすね!」

「でもあんな奴らは、相手しないほうが良いよ~」

「それにしても。リオリオって、強かったんすね?」

「それよね。なんであんなに簡単に投げ飛ばせてたの?」


 俺を慰めようとしているのではなく、純粋なる好奇心の方が強かった!


「確かに、何となく動きから察することはできるが、アレはどういうものなんだ?」

「なんの冗談かと思うぐらい、引き倒してたけれど。もしかして、妖精ならではの魔法の一種かしら?」

「受け流すっつーか、吸い込まれるような感じに見えたが、こう、関節を捻るような感じだったから、魔法ってわけじゃぁねぇよな?」


 何となく理解しているディエゴと、パッと見ただけで流れを把握しているギガンは流石だね。武道の一種だよと説明したところで多分通じないんだろうけれど。

 関節技ならプロレスや柔道で説明した方が早いんだけど、合気道は呼吸法も変わっていてちょっとどころか全然違うから説明が難しいな。


「やってみる?」


 実際に体験した方が説明が早いような気がして、俺はみんなに合気道を教えてみることにした。

 これでも一応段持ちで四段だから、指導員の資格はあるのだ。五段以上になるには年齢的な決まり(27歳以上)があるので昇段資格はまだないけどね。


 合気道とは、物事を合理的な視点で見極め、根本を追求するものである。

 なんとなく錬金術の真理の追究に似てるよね。

 だから面白いんだけど。


「こうしてー、こう」

「あだだだだだっ!」


 ギガンに俺を掴みかからせて、かーらーのー、勢いを受け流しつつの関節捻り~。その痛みに耐えられず、身体が自然に倒れ込むようにギガンは床に転がった。

 大柄なギガンが小柄な俺に転がされるのを見て、みんなぽかんと口を開けていた。


「こんなかんじー」

「な、なるほどな!?」


 普通はこんなに上手くいかないんだけど、とりあえず判りやすくキメてみた。

 合気道は相手の攻撃に合わせて型を崩して決めるので、冷静かつ柔軟な発想がなければ中々に難しいものではある。

 道場だと多対一でも負けないとはいえ、実戦じゃこうも上手くはいかないし。

 護身術の一つとして考えられている合気道だけれど、常に冷静さを保っていないといざという時に対処できないものだ。普段から人に襲われることを想定して暮らしていないのだから、当たり前なのだけれど。

 何度も身体に覚え込ませなきゃ、武術というものは身に付かないのである。

 だから教えると言っても、さわりだけなんだけどね。


 ラヴィアンの連中は、何故か不思議なぐらいに嵌ってくれたから、一見すると俺が強く見えちゃったんだろうけど。

 やられ役のザコキャラにプロが居るとしたら、ああいう感じなのかな?

 あの人たちもプロとして立派にやられてくれたので、感謝しなくちゃね!(まだ邪気が残っている2)


 そうして何度かギガンと手合わせしながら、合気道の技を披露した結果。


「……テオやチェリッシュには無理そうだな」

「バカにされてるのは判るけど、確かに全然わかんなかった!」

「見ただけだと、ギガンさんがふざけて勝手に転がってるだけに見えたっす」

「事前に打ち合わせしているのかと思ったわ」


 そんな八百長はしていないんだけど、傍から見ればそう感じるのは判るよ。

 何せお互いの呼吸を合わせて、タイミングよく技を出してるように見えるからね。

 これこそが合気道の神髄ともいえる呼吸法なのだけれど。


「ふざけてるって、お前なぁ。見た目よりかなりイテェんだからな! 覚えりゃ相当使える技だが……。相手の力を利用して、流れるように技をかけるなんつーのは咄嗟には判断できねぇよ。俺なら掴まれた瞬間に、空いてる方の拳で殴っちまうぜ」

「わかってるねー」

「リオンって、普段から掴みどころがないような気がしてたけど、こういうことだったのね」

「逃げ方が尋常じゃないからな」

「どういういみ?」


 危機察知能力は確かに高いかもしれないけど、尋常じゃないとまで言われる程ではないと思うのだが。

 もしかしてアレのことかな? 人ごみをスイスイ潜り抜ける忍者のような、日本人の回避能力のことを言っているのだろうか? アレはアレでまた違うんだけど、お互いぶつからないように呼吸を合わせていると言えるのかもね?

 たまに避けた方向が同じだったりもするけれども。


「とにかく、リオンの特殊能力が判って安心したぜ。こりゃ、簡単に習得できそうもねぇ技だってことを含めてだが」


 特殊能力ってなんだ。これは武道であり体術だぞ。

 でもギガンの判断は正しい。

 合気道を護身術として簡単に習得できると考えている人も多いけど、技だけでなく呼吸法を学び、そして集中力や忍耐力などの精神面も鍛えないといけないからね。


「対人戦では使えそうではあるが……付け焼刃じゃ無理だろうなぁ」

「だからって、あまり危ないことはしないようにね?」

「ちゃんと念波を送るんだぞ?」

「はーい」

「でも今度アイツらが絡んで来たら、ボッコボコに打ちのめしてやるわ! 精神的にも肉体的にも! 何が数の暴力よ! そっちの方が先に手を出してきたクセに!!」

「頼むから死なない程度にしとけよ……」

「誰にも気付かれないように、ヤツラに毒でも仕込んでおくか?」

「ディエゴ……お前さんも物騒なことを考えるなよ……」


 そうしてこの一件は終わったかのように見えた。

 アジトであり溜まり場の温室で、グロリアス軍団に囲まれるまでは。



「先生、オレらにも、あの魔法の技を伝授してくれ!」

「面白そうだしなっ!」

「ラヴィアンの連中が無様に転がる姿が最高だったぜ!」

「オレらもやってみてぇんだよ!」

「頼むよ、先生!」


 先生ってどういうことだろうか?

 アルケミストとして先生と呼ばれることは不本意ながらあったけど、まさかの合気道での先生(師範ではなく)呼びをされるとは。


『彼らにも一度、痛い目に遭わせてみては如何でしょうか?』


 それってお仕置きみたいなもの?


『好奇心は猫をも殺すと言います』


 遊び半分でやるもんじゃないって言いたいの?


『そうとも言いますが、少々マスターを舐めているところがおありのようですので』


 確かになぁ~。エサを貰いにだけ来る野良犬っぽいメンツもいるっちゃいるし。

 俺がアルケミストだって話が気付けば広まっていたのも、この中の誰かが口を滑らせた所為なのは判っている。

 秘密ではないとはいえ、知られていいことなど何もないジョブだ。見た目が子供なだけに、戦闘職じゃないから狙われやすいしね。

 だからハルクさんたち三人組とは違って、全員が全員、真面目ではないとは思っていた。

 これだけ人数が居ると、多少羽目を外す人もいるしなぁ。


『これを機に、わからせて・・・・・みるのもいいでしょう』


 今時流行りの『わからせ』とかゆーやつかな? よく判んないけど。

 いやしかし、最弱と思っていた相手に痛い目に合わせられたら、気を引き締めるかもしれない。

 この人たちって、明るいけどノリが軽いんだよね。

 ナベリウスの話を聞いても、まぁいっか程度の認識だったし。

 これじゃいつか大怪我どころか命を落としかねないからって、ハルクさんたちも厳しくしていたみたいだけど、リーダー(隊長&副隊長)の三人以外には概ねこんな感じだった。


「ふむ?」

「おい坊主、あのアホ共の言うことは聞かなくても良いからな?」

「最近調子に乗ってるっつーか、気が緩んでやがるんだよ」

「ここはオレたちが教育的指導しなきゃならんようだな……」


 調子に乗っていたのは俺も同じなのだが、ここは一発ガツンと殴って覚醒させてあげなきゃいけないような気がする。

 俺がSiryiに目を覚まさせてもらったようにね。


「うん、いいよー」


 だから思い切り痛い目に遭わせてあげよう。


「おにごっこしよう」


 ほ~ら、捕まえてごらんなさぁ~いとばかりに、俺は甲板を走り出した。

 因みに危なくなったらシルバに乗ったり、ノワルに掴んで貰って空へ逃げたりしながら、一人一人に技をかけて行く。

 ラヴィアンとはまた違った意味で、面白いように罠にはまって転がされるグロリアス軍団である。(シルバ&ノワルの協力によって)

 俺はそれを面白がるのではなく、冷静に対処していかなければならなかった。


『これが精神を研ぎ澄ませていくということなのですね』


 俺の心が愉悦ではなく、冷静さを保っていることを察したSiryiが呟いた。

 確かに鍛錬として精神修行にもなっている。

 こうして暫くの間。

 捕まえられる立場が俺なのか、それともグロリアス軍団なのか判らない状態は続いたのであった。



 翌日からは精神修行の一環として、俺の指導の下、彼らは合気道の精神を学ぶこととなる。

 何事も舐めてかかるといけないというのは、俺も同じく学び直さなければいけないことだからね。

 お互いにとっても良い機会だったんじゃないかな?

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