第73話 同じ条件下でやらなきゃ
「ど、どうでしょうか? 師匠と比べると、効果が低くて恥ずかしいのですが……」
「きれいだねー」
謙遜することなかれ。俺の適当ストラップと比べんなと思わず言いたくなってしまうほどに、ジェリーさんが作ったトンボ玉のストラップは、俺が作った物より洗練されたデザインになっていた。
同じ材料を使いながら、本職の彫金師とド素人との違いがはっきり出ている。硬化液でコーティングしたスパイダーシルクを編み込んで、一手間加えているのは流石としか言いようがない。だから師匠呼びを止めて欲しいのだが。
では早速、この素敵なデザインになったストラップの鑑定をしてみよう。
これは草原エリアで沢山獲れたアキアカネとハグロトンボとアオハダトンボのトンボ玉で作られたストラップだね。
「ふむ?」
アキアカネ『末吉:小さな願い事が叶うかも』
アオハダトンボ『小吉:些細な悩みが解消するかも』
ハグロトンボ『小吉:細やかな幸運をもたらすかも』
「?」
見間違いかと思い、目を瞑り精神を統一する。
大きく深呼吸をして、カッと目をかっぴらき、いざ再鑑定!!
アキアカネ『末吉:小さな願い事が叶うかも』
アオハダトンボ『小吉:些細な悩みが解消するかも』
ハグロトンボ『小吉:細やかな幸運をもたらすかも』
「……」
何度見ても同じ結果だ。
まるでおみくじのような、開運のお守りになっちゃっている。確かにトンボ玉は、神社でお守りとして売られているしね。何となく理解はできるよ。
だからこれはこれで面白い結果だが―――いや、面白がってる場合じゃないか。
俺の方は全て『運気上昇効果』であるのに対し、ジェリーさんの方が手間がかかっているのに、タリスマンとしての効果がおかしなことになっている。
小さくても願い事が叶うのは良いとして、おみくじみたいな表記になっているのはどういうことだ?
トンボの種類によって多少の違いはあるけれど、どれも小さかったり細やかという、微妙なイイコトがある効果になっているんだが。
おみくじの順番として『大吉>吉>中吉>小吉>末吉>凶>大凶』であるならば、トンボの種類で効果が変わるってことだけど……。
凶や大凶は多分アレだな。四個繋げると、そういう効果になるんだろうな。
三が吉数なのは確実なので、四は凶数ってことかな?
鏡数字も効果があったけど、そっちはジェリーさんに教えてないんだよなぁ。説明が面倒だったから。
「ふむ」
取りあえずそれらを検証する前に、ジェリーさんの他のストラップを全て鑑定して見るか。特に手に入り難いヤンマ系もあるしね。長年収集してきただけはある。
クロスジギンヤンマ『中吉:良縁に恵まれるかも』
オオルリボシヤンマ『中吉:子宝に恵まれるかも』
ギンヤンマ『吉:商売繁盛のご利益があるかも』
オニヤンマ『大吉:災難が遠のくかも』
「…………」
いや、意味は判る。判るんだけどね!
っていうか、『○○かも』ってなんだよ!! 可能性があるっていいたいんだろうけど、『かも』はないだろ!? 確実にそうなるって何で言い切ってないんだ!?
小さな願い事って、人によっちゃ叶ったことにすら気づきそうもない気がするし。
例えるなら今日はカレーが食べたい気分だな~って思って、家に帰ったらカレーだったぐらいのレベルみたいな? 寧ろただの予感レベルだよ。
しかもどいつもこいつもおみくじみたいになってるのが意味不明なんだけど!
『大吉』の内容が一番良いかと言われると、悩んでしまうけれど。災難が遠のくのは良いっちゃ良いけどさぁ。災難だって色々あるだろ。
効果があると言えばあるけれど、語尾が全て『かも』なのである。
だがここで一つ問題が出た。よく出現するトンボのトンボ玉でしか俺は
お馴染みのトンボ玉ではジェリーさんのは『小吉』と『末吉』だったけど、俺のは全部『運気上昇効果』だったからね。
希少なヤンマ系で『中吉』から『大吉』なので、俺がもし手に入り難いヤンマ系やオニヤンマのトンボ玉で作ったら、効果そのものが変わるのかな?
昨日みんなが頑張って収集してくれたので、作ろうと思えば作れる。
ちょっとヤバイものがドロップしたから、作るのをストップしてただけなので。
オニヤンマもギンヤンマのトンボ玉もあるっちゃあるんだよなぁ~。
「なぁリオン。お前さんにゃ何が見えてるんだ?」
「眉間に皺が寄ってるな」
「あの、ドランゴンフライだけは、ボクの作ったストラップで一番効果が高かったんです。ただそれでも『V』なんです! 師匠のように最大値にならないんです!」
「あ~……」
そっか。オニヤンマで『V』かぁ。ベンティってことだねぇ。俺的にはオニヤンマはビクトリーの『V』でもいいんだけど。
そしてギンヤンマが『G』のグランデなんだろう。ジェリーさんの鑑定では。
ただジェリーさんの作品を俺が鑑定すると、オニヤンマは『大吉』だしギンヤンマは『吉』なんだよなぁ。全て縁起の良い内容ではあるけれど。
両方とも欲しい人にとっては、喉から手が出るほどの価値があると思われ。
ただ語尾が全部『○○かも』だけどね。
それ以外は中吉から末吉までだから、オニヤンマが最も高い効果があるみたいだ。
ダンジョン内での強さとか、出現率が関係しているのだろう。特にオニヤンマは最初のエンカウント以降の出現率が限りなく低くなる。数を揃えるなら何度も出入りしなくてはならないし、その割に確実にドロップするわけでもないんだよな。
だからこそ希少価値があると言えた。
俺の作った『運気上昇効果』のタリスマンを持ってても、三体~五体の割合でしかドロップしなかったんだから、初日は本当にビギナーズラックだったのだろう。
子供の頃からアントネストの街に住んでいるジェリーさんですら、三つ集めるのが精一杯だったそうだしね。(売らずに捨てられたモノも多いに違いない)
とはいえ他のトンボ玉に比べてアクセサリーにしても売れないそうだ。
オニヤンマのトンボ玉は黄色と黒の縞々模様だからね。虎目石に似てなくもないけど、ちょっと不気味な色合いになっているのも原因かな。
「あの、師匠? どうしました?」
「ちょっとまってー」
俺はリュックから、みんなにもらったトンボ玉を取り出す。同じく捨てずに拾ってもらったスパイダーシルクと、液玉こと硬化液もカウンターへ並べた。
「おなじよーにつくってみよー」
糸は繊細な編み込みをせず、俺のように適当に糸を通すだけのストラップにするように指示を出す。条件を同じにして変わらなければ、編み込みはただのお洒落なデザインなだけとなるわけで。
もしその糸の編み込みのせいでおみくじになったのであれば、俺と同じように適当に作るとおみくじ効果ではなくなる筈だ。
「みんなもやってー」
ついでとばかりに、ディエゴやギガンも巻き込む。
誰が作っても同じになるのか。作る人によって効果が違うのか。
俺はそれが知りたい。
「俺らもやんのか?」
「こういうのは不得手なんだが……」
「もしかして、師匠のように作らなければならなかったのでしょうか?」
「それのかくにんをするー」
でも条件を一緒にしなきゃ、検証にならないじゃん!
こういう研究や実験ってのは、全部同じ条件下でやらなければ意味はない。ちょっとした違いで結果が変わるのを理解してもらわなきゃ、研究や実験なんて何度やっても違う結果しか出ないし、それを時間の無駄というのだよ。
「よけいなことは、しない」
「は、はい!」
「なぁ、ただ真似ればいいのか?」
「うん」
「玉はどれでもいいのか?」
「おなじものでみっつ」
しょっぱなからディエゴがボケをかました。
同じトンボ玉三つだって判ってるよね? なんでアキアカネとハグロトンボとアオハダトンボのトンボ玉を一個ずつ選んだ!?
やりたくなさそうだけど、これは実験の検証なのだ。
不真面目な態度なら、ディエゴだけ晩酌のおつまみ無しにするからな!
「……ちゃんとやろう」
「うん」
ディエゴは複雑な魔法での化学実験は喜んでやるのに、こういった手作業は面倒臭がるんだよなぁ。絵を描くのも上手なのに、どういうことだろうか。
逆にギガンは大雑把そうなのに、細かい作業を嫌がらない。
たまにパン粉作りやナッツを砕く作業を手伝ってくれるしね。美味しいものが食べたいからだろうけど。
魔法でちゃっちゃとやるディエゴは便利で有能ではあるけれど、手作業は大雑把だったりする。さっき挽かせたコーヒー豆も、粗挽き過ぎて俺が挽きなおした。
こういうのってホント性格が出るよねぇ。
「じゃぁ、みててねー」
そうしてみんなに、俺と同じ作り方で
余計なことをしないよう、見張らなきゃならなかったけどね!
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