第64話 トンボ玉の効果

 コロコロとカウンターに並べた【トンボ玉】を突く。カラフルな色合いではあるが、これ一つでは意味をなさないモノだ。

 一見するとただのガラス玉に、糸を通す穴が開いていることから、アクセサリーにするのが一番良いと思われた。


「やっぱ二ツ星エリアだと、そんなもんだよな」

「これと言って、大したものはドロップしなかったわね」

「頑張って斃したのにねぇ~」

「ダンジョンって、本当に運に作用されるんっすね。思ったよりドロップしてないんじゃないっすか?」

「ランクが低いと、却って危険だって判っただろ?」


 ギガンに言われて、素直に頷くテオとチェリッシュ。どうやら身に染みて実感しているようだ。

 実力が不足している冒険者だと実入りが少ないし、数を熟さなければならないので、体力的な問題が発生する。だからギガンたちのような実力のある冒険者は、若く経験のない冒険者と一緒にダンジョンへ挑むのを避けているそうだ。

 自分たちもそうやって鍛えられたからだろう。

 テオやチェリッシュも、実際に入ってみてそれが理解できたようだ。


「しかも噂通りに、このダンジョンってドロップ品がしょぼくない?」

「噂以上じゃないっすか……?」

「だよねぇ~」


 トンボ玉の他に、クモの魔物からドロップするスパイダーシルクが今回のめぼしいドロップ品だった。

 他にもバッタの魔物からドロップした【液玉】もある。しかしこれはちょっと置いておく。虫メガネで見ても【液玉】としか表示されないので、包んである透明な袋を破らないと、中身については判らないのかもしれない。っていうか、これ水風船みたいなんだけど。もし水風船ゴム製品だったら、使い道がありそうなんだけどね?

 だが中身が判らなくて危険なので、保留にしておく。もしかしたらただの消化液バッタのゲロの可能性があるし。毒ではないとも言い切れない。

 俺の記憶が正しければ、バッタは死んだふりをする。所謂『擬死』というヤツで、その際口からゲロを吐くのだ。

 ショウリョウバッタのゲロは消化液や草の成分で黒く、別名『醤油バッタ』とも呼ばれる。訛っただけだけどね。

 がしかし、この【液玉】は黒くはなく金色に近い飴色だ。ショウリョウバッタみたいな魔昆虫じゃなかったからかな?

 バッタの種類によってドロップする【液玉】の種類が違うのかどうかは、今のところは判らない。トンボ玉は、種類によって色が違うので、分りやすいんだけどさ。バッタの魔昆虫はあんまり斃して貰えなかった。

 なんせみんな「汚いっ!」って言って、ドロップ品である【液玉】を俺が拾うのを止めるぐらいだったし。こんなドロップ品なら、わざわざ追いかけまわして斃す価値はないとまで言われる始末だった。(バッタの魔物は襲い掛かってこない)

 ゲロと思えば汚いけど、水風船みたいだから別にそこまで嫌がらなくてもいいと思うんだよなぁ。中身が出て来ない限りは。

 お陰で【液玉】は二個しか手に入らなかった。


「しっかしこいつも、よく判らんドロップ品だよな?」

「ガラス玉としては奇麗なんでしょうけどねぇ。一応アクセサリーの部品として、買取りしてくれるところはあるみたいだけど、ガラス玉の価値しかないのよねぇ」


 それでも加工品扱いなので、ガラス玉としては少々お高目らしい。とはいえ、魔物のドロップ品としては安価なのだそうだ。

 巨大なトンボの魔物を斃して手に入れたにしては、小さすぎるドロップ品なので。

 命がけで倒してまで手に入れる価値もないと、二ツ星エリアは既に誰も入ろうとしなくなっているとか。


「これって、トンボの目玉っすかね?」

「そう言われると、気持ち悪いんだけど~!」

「でも奇麗っすよ?」

「見た感じはそうだけどねぇ?」


 以前、シュテルさんがアンデルという領地にあるダンジョンのドロップ品である、ゴミのようなおまじないアイテムを沢山仕入れていた。それと比較してみよう。

 あちらは既に完成されたおまじないアイテムである。

 しかしこちらは完成品ではなく、集めてどうにかしなければ効果はないようだ。


「ふむ」


 七つ集めると願いが叶う龍珠と同じように、トンボ玉も七つ繋げるべきか? 

 確か七つだったよな……? 九つだったかな? 自信がなくなって来た。

 龍って聞くと何故か九の字が浮かぶんだよな……何故だろうか。(九龍のせい)

 ……マンガのネタはこの際忘れよう。


 とりあえずは、縁起の良い数字とかで繋げてみるべきか。となると、割り切れない数字である一、三、五、そして末広がりの八がいいだろう。

 ラッキーセブンの七は、確か野球関連の偶然の勝利が由来だったから除外かな?

 四、六、九は、『ろくでなし』で縁起が悪い数字だったと思う。なのでこれらの数を組み合わせるのは避けよう。のアイテムになりそうだしね。

 他にも『1001』や『2112』の鏡数字も、縁起が良かったような気がする。

 俺の知る数字による縁起担ぎの概念が、この世界で通用するかどうかが問題ではあるけれど。


「リオリオ、何やってるっすか?」

「じっけん」

「何ができるの~?」

「わかんない」


 今回は純粋なる実験だからね。

 ただ俺にはこの鑑定虫メガネがあるのだ。コイツで確認しながら、トンボ玉を繋げれば何とかなりそうなんだよな。

 魔物(昆虫類)関連の鑑定が出来るということは、そのドロップ品も鑑定が出来るってことでもある。それらを組み合わせて作られたモノも、この虫メガネで鑑定できるかどうかも確かめたい。

 鑑定虫メガネで見たところ、どうやら俺の知識も関係しているようで、【トンボ玉】という説明が出て来たのも、俺の世界にそういう物があるからと考えられる。

 それに【トンボ玉】はアクセサリーだけでなく、お守りに使われる工芸品の一種だ。神社とかで見たことがある人も多いだろう。が、この世界にはその概念がない。

 だから今まではただの綺麗なガラス玉でしかなかったこのドロップ品にも、何か役割があるのではないだろうかと推察される。

 妙なドロップ品の多いダンジョンだけど、ゴミ扱いされるモノばかりな筈はない。ダンジョンのドロップ品は、人間を誘い込むような物でなければならないし、そういう意味では妖精ボガートの悪戯の中でも、かなり捻くれたドロップ品なんじゃないだろうか?


「アクセサリーにでもするのか?」

「おまもり?」

「タリスマン?」


 ディエゴに聞かれたので、そう答えてみた。それとなんか勝手に【タリスマン】に訳された。

 そう言えばタリスマンは、『幸運をもたらすもの』って意味だったかな?

 お守りとか護符の意味もあるけれど、招福の意味の方が強いんだったか。

 しかしそれがヒントになったのか、鑑定虫メガネで見れば、組み合わせで効果が変わると表示された。

 もしかしたら、トンボの種類の違いで効果が変わるのかな?

 繋ぐ糸は、ドロップした蜘蛛の糸でいいのかどうか。これも一応、鑑定虫メガネで確認しておく。


『スパイダーシルク:アラクネーの糸

          金色の糸で強度もありながら弾性もある

          水に弱いので、濡らすと効果は半減する

          火にも弱く簡単に燃える

          液玉でコーティングすると強化される 』


「ん?」


 【液玉】ということは、バッタの魔昆虫からのドロップ品のことかな?

 先程まで使い道の判らなかったバッタのドロップ品である【液玉】を鑑定虫メガネで見て見ると、『硬化液:コーティングすることで、強度が増す』という説明が増えていた。(バッタのゲロじゃなかった)

 なるほどね。こうして少しずつ鑑定虫メガネのデータが蓄積されていくのか。

 ただ見ただけではそのものでしかなく、関連する事柄が増えれば紐づけされて、より詳しくなっていくということかな?

 魔昆虫に比べるとドロップ品の鑑定内容は曖昧なものが多いけれど、謎解きをしているような感じがするね。

 なんか面白くなってきたぞ。


 

 ある程度謎解き(?)が済んだので、早速これらを使って【タリスマン】を作成してみよう。

 材料はカラフルなトンボ玉各種と、スパイダーシルク、そしてコーティング用の液玉(硬化液)である。

 トンボの種類によって玉の色や柄も違う。ドラゴンフライことオニヤンマや、シオカラトンボにアキアカネにイトトンボ等々。俺も知っているトンボがやたらと出て来て、それをみんなが倒してくれた。

 全てのトンボからトンボ玉がドロップするわけではなく、これもやはり運に関係するのか、出たり出なかったりなので、討伐数に比べて数自体はそこまでない。

 大体平均して五体に一個のドロップ率だ。初っ端からドロップしたのは、所謂ビギナーズラックということかな?

 しかしそのドロップ品一個では意味をなさない。数がなければならず、その数も何個必要とすらなく、集めると良いことがあるとしか表示されないのである。

 ということはトンボ玉を集めて、穴が開いているから繋げろってことなんだろうけれど。願いを叶えるために幾つ集めろという指示ではないので、試していくしか方法はなかった。

 これはもう縁起の良い数字でやってみるしかないね。

 取りあえず、繋ぎ用の糸を硬化液でコーティングすることから始めよう。

 

 こうして俺は、手に入れたトンボ玉各種と、その他のドロップ品を組み合わせながら、【タリスマン】を作ることに没頭したのであった。

 


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