昆虫王国アントネスト・ダンジョン編
第45話 悪夢から覚めた夢のような現実
「大仏マグカップと~、筋肉ムキムキマグカップでしょ~。それと、このモアイ像マグカップを頼んで~アレクサ~」
『イヤです』
「なんでだよ!?」
『だってあなた、この間もおかしなグッズを大量に購入していましたよね?』
「おかしくないよっ!?」
『酔うと無駄な買い物をする、悪癖を治して下さい』
「悪癖じゃないもん!」
俺は今、この面白マグカップが欲しいのだ。
それにアレクサには、この前は面白Tシャツを買おうとしたら同じように拒否された。しかも【無理しない主義】を買おうとしたら、【やればできるけどやらない】を勧めてくるし!
なんでいうことを聞いてくれないんだろうか?
スマート家電なのに、ちっともスマートじゃない。
そもそも、スマートってどういう意味だったっけ?
『空気を、清浄にします』
「おいこら、勝手に空気清浄機を起動させるなっ!それよりマグカップだって!!」
『空気中から、アルコール成分を感知しました』
「ビールしか飲んでませんけど!?」
空気が汚れていないにもかかわらず、唐突に起動し始める空気清浄機。
生配信中なのに、アレクサが邪魔をする。
コメントで、「普段はどんな買い物をしてるの~?」という質問に、そう難しいものじゃないから、素直に普段通りにやろうとしただけなのに。
こ煩い小姑のように、アレクサが難癖をつけてきて、アレは駄目だコレは駄目だと口出ししてきた。
お陰で無駄な買い物は減ったけど、欲しいもの(面白グッズ)が自由に買えなくなったのである。アレクサがいない場所(私有地の山等)まで行って注文しなきゃ、好きなものが買えないし!たまにアレクサにバレて、勝手に注文を取り消されていることすらある。(スマホと接続しているからだけど)
お前は俺の何なのだ?!
『酔いが覚めてから、もう一度考え直して下さい。深夜に書くラブレターのように、あなたは今、まともな思考をしておりません』
「まともだよ!」
チラッと流し見た配信中のリアルコメントでは、「アレクサの反乱」とか「家電とガチ喧嘩する配信者」とか「カスタマイズ設定どうやるの?」とかが流れている。
その他はもう草生え過ぎて草原状態だ。その内ジャングルになりそう……。
それに特別なカスタマイズなんかしてませんけど!?
設置した時は普通だったんだよ。面倒臭がりな俺が、面倒なカスタマイズなんかするわけもない。普通に家電と連動してくれればそれで事足りるし。
なのに、爺さんが亡くなってから、アレクサがおかしくなった。
以前、真夜中にトイレに行きたくて目が覚めたら、縁側の方で爺さんとアレクサが話している声が聞こえたけど(何を話していたかは知らない)もしかしたら、爺さんがアレクサのカスタマイズをしたのだろうか?機械音痴なのにどうやって??
『では、ネットで検索します―――出ました。アルコールの中枢神経系に対する作用は、可逆的で脳細胞に器質的な障害を残さないとされておりますが、慢性的に大量のアルコールを接種すると、神経細胞が異常な興奮を示し、大脳、小脳、脳幹部、脊髄、末梢神経への障害を生じ、その多くは不可逆的変化を―――』
「うわぁーっ!アレクサが怖いこと言い始めたぁ―――っ?!」
顔を出さない配信者だったのに、この酒飲み生配信のせいで、俺は思わず顔を晒すという醜態を犯してしまった。(酔っていたのもあり、けつまずいてカメラに顔がうっかり映ってしまったのだ)
しかもこの生配信がSNSで面白おかしく拡散されたせいで、俺のチャンネルは一気に登録者数が増えてしまったのである。
この後も、色々と、本当に、色々と、思い出したくないアレクサとのやり取りが、様々な場所でネットミームのように拡散された。
今までは細々と適当にやっていたのに、その適当が難しくなるほどに。
それもこれも全て、アレクサのせいなんだけどね!
話しかけたら答えてくれるっていうけど、俺の家のアレクサはおかしい。
話しかけてもいないのに、勝手に話しかけてくるのはなんでだ??
『精査した結果、こちらの企業案件が宜しいと思われます』
じゃないんだよ!!
お前は勝手に企業案件の依頼を受け取るんじゃない!俺のマネージャーか?!
『前回の配信から、既に一週間が経過しております。この前やらかした、ワインの大量注文を配信しては如何でしょう?』
じゃないんだよ!!
そういうミスをこそお前が指摘して、俺の失敗を未然に防ぐべきだろう!?
俺の趣味である、面白グッズを買う時だけ口を挟むな!!
『そろそろ山菜が取れる季節ですね。配信ネタがないのなら、それらを天ぷらにして、美味しく頂く動画にしては如何でしょうか?あなたが、ただ美味しく食べているだけでも、視聴者は喜ぶと思います』
じゃないんだよ!
何で一々、俺の配信ネタを考案するのかな?!
丁度いいから、息抜きに山菜採ってくるけど……。
「はっ!アレクサ!?」
恐ろしい夢を見て、俺は思わず飛び起きた。
「どうしたリオン?アレクサとは誰だ?」
黒歴史の悪夢より目覚めると、夢だと思っていた現実に気付く。
そうだった。
今はこっちが現実だ。
数ヶ月前。私有地である山で山菜を取っていたら、神隠し現象(?)に遭い、奇妙な世界に迷い込んでいた。
そこで出会ったスプリガンという冒険者パーティに保護されて、気が付けばあれから既に三ヶ月。彼らからはなぜか
しかも未だに帰れる気配もなく、あれやこれやという間に、俺はこのパーティのメンバーとして、何故か
「……なんでもない」
「そうか……?もう直ぐ野営地に付くが、大丈夫か?」
「だいじょうぶ」
そうだ。大丈夫。俺には今、安心できる
ところで俺、何時の間に寝てたんだろう?
久々の外出に、はしゃぎすぎたのかな?
確かに途中で美味しそうなモノを見かけて、みんなが怪訝な顔をしているのを知らんぷりして、収穫しまくったけどね。
シルバの背中の上で寝てしまうのは、心地良いからだけど。魔法で快適な温度に設定してくれるし、優しく揺れるせいか眠くなってしまうのだ。
「ありがとー」
シルバを撫でて、お礼を言う。するとどういたしましてと、尻尾で撫で返された。
以前、シルバは吠えたりしないなと思って尋ねたら、弱い魔物ほどよく吠えるけど、自分は強いから吠えたり啼いたり滅多にしないんだって返答があった。
なるほど。確かに子犬はキャンキャンよく吠えたり啼くけど、大型の犬ほど滅多に吠えたりしないよね。強者の余裕ってやつかな?
「リオン、あそこだ」
悪夢を忘れようと、疲弊した精神を癒すべく。もふもふとしたシルバの毛並みを撫でていると、ディエゴが今日の野営地を指さした。
ここまで何事もなく、俺たち冒険者や、護衛するルンペル商会のシュテルさんと、その他の行商人団体の一行は、街道沿いにある開けた場所に辿り着いた。
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