番外編2 共犯者たちの集い
俺は今、実験をしている。
実験とはいえ、高尚な物ではない。
ぶっちゃけると、やることがなく暇だからである。
「……テオは寝たか?」
「……ああ」
「アマンダたちも寝ているだろうな?」
「おそらく。起きている気配はない」
警戒しながらリビングに集まり、ギガンとディエゴは、女性の寝室へ視線を向けてお互い確認し合う。
人の気配に敏感な俺よりも、ギガンの方がそういったことに敏い。察知能力に長けてるっていうのかな。一番年長だからかもしれないけれど、さり気なく周りに気を配るのも自然だし。こういうのもスキルなんだろうか?
魔術師であるアマンダ姉さんはともかく、テオやチェリッシュは、もう少し気配に敏感になるように訓練しないといけないそうだけど。
「おいリオン。お前さんは、起きてて大丈夫なのか?」
「だいじょうぶ」
「昼寝をしていたそうだ」
「そうか……」
暢気でゴメンね?でも、料理以外にやることがないんだもん。
大人しくしてろと言われたので、まぁまぁ大人しくしている。
でも人間暇になるとよくないからね。ついつい、ろくでもないことをやらかしてしまうものだ。なので、すっかり忘れていたことを思い出してしまった。
旬の物は旬に食べるのが一番美味しく、そして健康にも良い。
旬の食材が何故、その季節に食べ頃になるのか。
季節ごとに起こりやすい体調不良をカバーする効能が、その旬の食材の成分に多く含まれているからだ。
なので俺はすっかり忘れていた、山菜の栄養を摂取するべく、ディエゴとギガンを誘うことにした。
これは実験である。
一人で楽しむのではなく、実験という体で、旬の食材の栄養の効能を確かめるべく、この二人を俺の実験に付き合わせることにしたのだ。
だから間違いなく、これは実験なのである。
しかも深夜の実験なので、成長期の若者二人と、美容と健康のためにアマンダ姉さんは除外した。
ということにしておけば、罪の意識も軽くなるかな?
「これは、どういった料理なんだ?」
「てんぷら」
「てんぷら?」
「揚げ物だな」
「うん」
油の中でぱちぱちと音を立てながら揚げられていく、旬の食材。それは山菜。
この世界に迷い込む切っ掛けともなる、山菜採りの時に収穫した高級食材たちを、俺は今、恨みを籠めて熱した油にぶちこんで天ぷらにしていた。
いや別に、実際は恨んではないんだけどね。
「フリッターみたいだな?」
「にてるねー」
天ぷらとフリッターは似ているが、食感が全く違うと俺は思っている。
何せ仕上がりが全然違うのだ。
後なんか、フリッターの方が面倒くさい。白ワインの処分には良いけど、メレンゲを作るのがねぇ。ふわっとした食感に必要なんだろうけど。
だがその点、天ぷらは良い。小麦粉と水と卵を混ぜて、食材の衣として揚げればサクッとした食感が楽しめる。俺はサクサクした食感の方が好きだしね。
天ぷらとフリッターの違いは、正にその食感にあるのだ。
「できたよー」
「お、おお」
「どうやって食べるんだ?」
「さいしょは、しお」
野郎しかいないので、見てくれに拘る必要がないのもいいね。
お上品に盛り付けなんてしない。フライネットの上に直接置いて、そのまま食べる方式だ。
そして昼寝をする前に準備をしておいた、俺の錬金術(料理も錬金術である!)によって作られた、薬味や天つゆなどを野外炊事場にある丸太テーブルに並べる。
だがまず最初は、軽く塩を付けて食べるのが、俺流の天ぷらの楽しみ方だった。
「これは、ウド。ちょっと、にがい、かも?」
山ウドは風味が強く、アクも強い。だから昼寝前にちゃんとアク抜きはしておいたから、大丈夫だろう。
山菜のことを思い出したときには、食事に出してもいいかな?って考えたのだけれど。ただ子供にはクセが強く、苦みのある山菜なので、食事に出すのを躊躇った。この苦みの美味さが判る大人にはいいけどね。
美味しいものは、美味しいと言ってくれる相手に食べて貰いたいものだ。
「そして、ビール」
「ビール?」
「エールに似てるな?」
「にてるけど、ちがう」
そろそろ賞味期限がヤバイ、お歳暮やお中元のご贈答として貰っていたビールを取り出す。昼間にシルバに頼んで冷やして貰っていた物だ。
爺さんが亡くなってからも、こうして何故か届けられるビールや酒類の数々を、俺は消費できずに困っていた。
なんせビールの賞味期限は意外と早く、9か月ほどしか持たない。面倒臭がりのくせに、そういうところは拘る俺としては、何とか処分をしなければと頭を悩ます要因ともなっていたので。(おすそ分けできる知り合いも友人もほぼいないからね)
実際は、俺の優秀なリュックに入れておけば、半永久的に賞味期限は来ないのだろうが、この時の俺はそこまで考え着いていなかった。
このビールのせいで、忘れられない黒歴史が生まれたのもあって、どうにかして消費してやろうと思っていたところ、丁度いい処分―――いや、喜んで飲んでくれそうな野郎に提供することにしたのである。
それをタンブラーに入れて、ギガンに渡す。ディエゴには、例のゴブレットに入れて。どちらも冷却機能の高い容器なので、温くなりにくいのがいいね。
温くなる前に飲み切っちゃうんだろうけど。
「どうぞー」
まずは一献。塩のみの味付けで、天ぷらを楽しんでもらおう。
だがしかし、これは深夜の罪深いハイカロリーな間食ではなく、実験なのである。
旬の食材が齎す、栄養効果を確かめるべく。
俺は二人に、尊い実験台になって貰っているのだ。
本音としては、共犯の巻き添えなんだけどね!
「っっ、かーっ!うめぇっ!」
ビールを飲んで一言。まるでおっさんである。いや、おっさんなんだろうけど。
揚げたての山菜の天ぷらに舌鼓を打ち、ビールを飲んでは旨いと褒めてくれるので、俺としては料理のし甲斐があるというものだ。
ディエゴは黙々と食べて飲んでいるけれど、その表情はほわほわしているので、これもまた一つの喜びの表現として見れるので俺は満足だ。こういうところが爺さんに似てるんだけどね。
「ウドも美味いが、このタラや、フキノトウってやつも、酒の肴にイイな!」
「苦みがクセになる……」
「そうそれ!」
「ちがいがわかるおとこ」
「うむ」
「だな」
口には出さないが、女子供にはわかるめぇとか思ってそうだ。
正直言って、この実験にこの二人を誘ったのはそれもあった。
何となくだけど、アマンダ姉さんやチェリッシュは、苦みのある食材が苦手そうだなと思ってたし、テオは子供舌っぽいからね。もうちょっと大人になってから、こういった実験(男の集い)に誘うのが良かろうと思ったのだ。
それに、この場に居ない三名には、こういう集いとは別の方向で、俺は実験をしている。体質に合った食材がもたらす効能についての、効果的な食事をして貰っているのだ。(本人たちはよく判ってない)一応、俺は
よってこの二人には、それとは別に俺の気の向くままに実験に付き合って貰うことにした。
「冷えたビールってのが、こんなに旨いなんてなぁ?」
「エールも冷やせば旨くなるんだろうか?」
「それもまた、じっけんだね」
「そうだな」
「実験しなきゃな」
「うん」
理由を付けて、実験と言っておけば、この罪深い食の集いの免罪符になる。
俺たちはそう結論付けて、揚げたてのアツアツで、サクサクの山菜の天ぷらを食しつつ、冷えたビールを消費するのであった。
もちろん、翌日のことを考えて、あのクッソまずい酔い覚ましを飲まなきゃいけないんだけどね。(要改良)
だが俺はビールを飲まずに麦茶を飲んでいるから、酔うこともなく単純に山菜の天ぷらを楽しむのであった。
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