番外編 呪いの効果
「お前たちがいなくなると思うと、寂しくなるな……」
護衛依頼で冒険者ギルドに集まった俺たち『スプリガン』のメンバーに、ギルマスがそう声を掛ける。
だが奥さんと違って、ギルマスに言われても何の感慨もない。
別に寂しくもないからね。
「なんだ?相変わらず、坊主は不機嫌そうだな?」
不機嫌じゃないよ。誰か判らなかったから、訝しがっているだけなんだけど。
いやほんと。最初誰か全然わかんなかった。
なので俺は、ギルマスの腕毛ではなく、頭部をじっと見詰めた。
「お。もしや坊主、俺様のこの頭を見てるな?」
「うん」
問われて素直に頷く。本来ならギルマスの個性である、太い腕に生えている毛を見るのが、
何せ俺は、人の顔を中々区別できないのである。初対面の人間なら特に、次に合えば忘れる。自己紹介をされても、次に会うと名前すら忘れている。
これは俺がアホでバカだからとかいうだけの問題ではなく、ぶっちゃけると相手に興味がないからだ。
でもそれでは社会生活に支障をきたすので、なるべく相手の特徴を捉え、そこを覚えておくようにしていた。
スプリガンのメンバーなら、最初に出会った時に特に印象的だった髪の毛の色とかだけど。(この世界の人間はみんな、割と変わった色の髪の毛なので、今後はその手が使えない)
なのに久しぶりに会ったギルマスは、その個性である腕毛が薄くなり、逆に頭髪が濃くなっていたので、本当に誰だか判らなかったのだ。
「はっはっはぁ!スゲェだろ?」
「うん?」
何が凄いのかは判らんけれど、とりあえず頷く。
ギルマスは、以前ならペチペチと鳴りそうだった頭部を叩く。そこには皮膚を叩く不毛地帯ではなく、もさもさとした芝生のような緑地帯が発生していた。
「俺様がここのギルマスになったのはな、効能の高い薬草が取れるからだったんだ」
「へぇ」
「もしかしたら、毛生えに効果のある薬草が取れるかもしれん―――その可能性に賭けて、こんな田舎の冒険者ギルドの、ギルマスになったんだ……」
唐突に語られる、ギルマスの過去。
別に興味はないけれど、素直に話を聞いてあげることにした。
何せ今日でお別れなので、愛想をよくしておこうと思って。最後の印象って、初めの印象より心に残るんだよね。
ところでギルマスの過去だけど、以前は☆6つの高ランク冒険者だったそうだ。ディエゴは7つ星の【セブンスター】だから、それより一つ下である。
でも5つ星である【ファイブスター】から先は、中々ランクが上がらないから凄いのだそうだ。6つ星だから【ロックスター】かな?……笑えない冗談でゴメンね。
そういや最初は江頭さん似かなって思ってたのに、今のギルマスはフレディ・マーキュリーに似てきたような気がするんだけど……?
髪が生えるだけで、ここまで人の印象って変わるんだな。凄いね!
「だが諦めないで良かったぜ!どの薬草に効果があったか判らんが、漸く俺の念願が叶って、こうして髪が生えて来たってわけだ!」
「よかったねぇ?」
「おう!坊主も喜んでくれるか?ありがとうな!」
「うん」
そうして。ギルマスの不毛地帯が緑地化現象を起こした話を聞かされて、俺たちはこの田舎の冒険者ギルドを去ることになった。
「でも不思議よねぇ?あのギルマスの頭髪だけど、ここ二ヶ月ぐらいで一気に生えて来てたのよ」
「ふうん?」
身形に気を遣うアマンダ姉さんだからか、人の身形もやはり気になるのだろう。
他のメンバーよりも、気付きが早かったようだ。
「アタシは一月前ぐらいかな?最初はカツラを被ってるのかと思ったんだけど。本当に生えて来たんだなって、じわじわ増える髪の毛が不思議たったんだよねぇ~」
やはり女性陣は気付きが早いようだ。
一方の男どもと言えば、特に興味はなさそうだった。
しかし、一人を除いて。
「……なぁ、ディエゴ。やっぱギルマスに、どの薬草が効果があったのか、聞いてみた方が良かったかな?」
ディエゴにポツリと零したギガンは、自分のオデコを掌で覆って呟いた。
別にギガンは剥げてないんだけどね?ちょっとだけ、オデコが広いなって思うけど、それぐらいなら俺だってオデコは広い。前髪が短いからだけど。(目に髪がかかると鬱陶しいので、割と短めに切りそろえている)
「いや、多分それは違うと思う。無駄だから止めておけ」
「そう、なのか?」
「多分な。あれは、呪いの効果だ」
「呪い?」
「お前にも掛かるといいな」
そう言って、ディエゴはギガンの悩みを締め括った。
知らなかったことだけど、ギガンは頭髪の悩みを抱えていたのか。
可哀そうに。
ならば俺は、これ以上ギガンのオデコが広がらないように祈っておこう。
なむなむ。
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