第17話 空気の読める日本人
万能調味料万歳!おはようございます。異世界生活三日目の朝です。相変わらずやっぱ夢じゃないのかと落ち込んだりもするけれど、俺は元気です。
昨夜のBBQはおおむね成功だったと思うんだよね。
食事中に酒が欲しいと大人組がやたらと悔しがってたけど。
俺はお酒はそんなに飲めないし、好きでもないしなくても全然かまわないタイプだ。
だって日本人の44%はアルコールを分解する酵素が欠損してるんだもん。俺はその44%に含まれていると思われ。たまに飲みたくなることもあるが、体質的に受け付けないんだよ。
というのも、酒を飲むと俺は気が大きくなるらしく、色々とやらかす。特に酔っている時にネット通販サイトを見てはいけない。普段の冷静な俺なら、絶対に買わない物とか、必要数を考えられるのに、何故かバカみたいに頼んでいることがあるのだ。返品するのも面倒で、戒めの為に受け取るけど。
そう言う失敗談を動画にすると、同情されることなく、何故か受ける。悔しい。
酒飲み動画をライブで配信してくれとリクエストされて、まぁまぁなヤバイ配信になったのは記憶から消し去りたい俺の黒歴史だ。めっちゃバズったけど。
余談だが、コメントで子供の飲酒は法律で禁止されてますが?って書き込まれた。悔しい。
とはいえ調理用の安いテーブルワインや、毎年作る梅酒とかは常備している。他にも爺さん秘蔵の日本酒に洋酒その他も大量にあるにはあるんだが―――たまにこれどうしようかなと悩むが、毎回そっと保存してしまう―――でも飲んだら終わりなんだよね。
多分俺のリュックから取り出せる物って、自分の持ち物限定だからさ。都合よく無尽蔵に湧いて出てくるもんじゃない。どうせ使うならここぞという時に出したいのだ。
希望的観測として、ネット通販による定期お特便で毎度購入している品物が宅配ボックスに入ってたら手に入るかもしれない。彼らの言う『妖精の粉』もそれで手に入れているわけで。引き落とし可能な俺の貯金残高が無くなるまで、出来ればずっと送り届けて欲しい。
だって俺、日本で簡単に手に入る、安心と安全の保障された品物がないと困るんだよ。
どうにかして愛しのわが家へと帰れないものか。快適なわが家が懐かしい。既にホームシックだよ。
でもこの世界には魔法という、摩訶不思議な力が存在している。なので、帰還魔法みたいなのが存在している可能性も捨てきれない。
アマンダ姉さんが魔術師なので、魔術系から何かヒントでも得られればと企んでいるのだ。召喚魔法は多分俺がこの世界に迷い込んだのと原理が違う気がするんだよね。なんか警察の任意同行のような感じだし。
とりま俺に必要なのは、その魔法関連の知識である。
文化水準が低いと思っていたこの世界だけど、文明人である俺の堪えられるギリギリの基準に達していた。
それが発覚したのは、コテージに風呂があったので、ディエゴから入り方を教えて貰っていた時だった。
見てくれはちょっとしたアンティークな浴室だったんだが、魔道具で水やお湯が出る仕組みになっていて驚いた。魔動力回路(?)が仕込まれていて、俺の世界でいうところの電子回路みたいなもんかな。エネルギーは魔晶石で、多分電池みたいなもんがあるようだ。
とはいえ冷静に考えたら、現代日本の方が風呂にしろトイレにしろ、他国に比べてハイテクだしね。異世界の魔道具と比べるべくもない。そもそも小型化されておらず、基本的にデカイので持ち運べない不便さがあるようだ。
発達した科学技術は、魔法と見分けがつかないというが、確かに似たようなものだと思う。
しかし一般家庭への普及率は低いみたいだし、まだまだ発展途上のこの世界では、便利な魔道具を手に入れるのは難しいようだ。
そんな中でも俺の四次元リュックと同じように、空間魔法とやらが施された収納用マジックバックが異彩を放っていた。
稼ぎの良い冒険者や商人には必須のアイテムで、様々な道具や品物をこれに収納して持ち歩く。これだけは俺の世界でも見たことがないオーバーテクノロジーの一品だ。
ゲームやファンタジーの世界では割と定番のアイテムだけど、現実に存在してたらちょっとヤバイシロモノなんじゃないだろうか?犯罪とか犯罪とか犯罪とかに悪用されそうで……。
なんで俺のリュックがそんなことになっているのかは不明だけど、この世界に迷い込んだ際に変な化学変化でも起こったのかもしれん。判らんけど。
でもこのマジックバックは、人間には作れないんだそうだ。
ただし、ダンジョンという異空間というか、異次元?で手に入れることができる。数は多くないけど、少ない訳でもない。収納量によって価格は変わるそうで、お金さえあれば手に入るんだから素直に凄いと思える。
さぞかし高価なアイテムかと思いきや。家一軒入る収納量なら、その家と同じお値段になるみたい。高いのか安いのか正直わからん。雑な値段設定だとは思うけど。
でもそれは単なる収納バックの場合で、時間停止魔法まで施されている物は、オークションにかけられて、とんでもない価格で落札されるそうだ。しかしそこまでの性能のマジックバックは、基本的に大店の商人や領主等のお金持ちの貴族しか買えない。庶民にはどう頑張っても手の届かない高級品となる。
冒険者はそんなマジックバックを一度でもドロップしたら、一生遊んで暮らせるお金が手に入るのだ。でもなかなかドロップしないからこそ希少価値があるので、ここ数年ほどオークションには出されていない―――と、いうのを昨夜ディエゴに説明を受けた。
俺のリュックは絶対に他人に触らせちゃダメだぞと念を押されながら。
まぁ、俺のリュックも似たようなもんだろうからね。夢だと思い込んでたのもあって、気にせず中身を出し入れしまくってたもんな。このパーティメンバーが良い人たちで本当に助かった。
そして時間停止機能があるかどうかは判んないなと思って、ギガンが斃して処分に困っていたボアがあることを思い出した。死んで直ぐリュックに収納したから、腐ってないといいんだけどと、頭に思い浮かべて触ってみた。うん。生温かい。多分俺のリュック、時間停止機能付きだ。やべぇ。
ディエゴはきっとこのことに気付いてて、念押しするように説明をしてくれたのかもしれない。俺は全く気付いてなかったのに。マジでディエゴ良い奴すぎる。
「……んなことより、朝飯どうすっかなぁ」
目覚めて顔と歯を洗いに、炊事場にきてぼやく。
お共にはシルバ。ディエゴはまだ寝ていた。大人組は食事の後もなんか色々話し合っていたので、寝たのも大分遅かったようだ。なので起こさずそっとしておいた。
なんかすでに食事の準備をするのが下っ端のテオではなく、俺になっているような気がしてならない。役割分担として、面と向かって飯係を任命されたわけじゃないんだが、期待されているようなので。俺は空気の読める日本人なのだ。言われる前に行動するのは当然である。
それに世話になっている手前、食事の支度ぐらいはしないといかん。慣れない異国の料理を食べるより、自分で作った方が安心だしな。
「俺のアイデンティティが、ハーブソルトなのは納得がいかんのだが」
彼らに妖精だと思われていた方が都合が良いとはいえ、これらの万能調味料も無尽蔵ではない。作ろうと思えば、自分でブレンドすることもやぶさかではないが。ここにきて企業案件が脳裏をよぎる。でも面倒なんだよなー。買った方が手っ取り早いじゃないか。
種類やストックに余裕はあるとはいえ、そう毎回ハーブソルトの味付けばかりだと俺も飽きてくる。
「ホットサンドは昨日食べたし」
個人的にはカップラーメンでもいいのだが。流石にそんなオーパーツを出してもねー。とはいえ米も食べ慣れてないと、外国人には虫の卵みたいで嫌悪感があるらしいし。そんな発想をするとは、日本人の俺からしたら驚くべき事実だ。
虫の卵と言えば、タピオカの方がカエルの卵みたいで俺には無理なんだけど。何故女の子たちはアレが平気なんだろうか?パクチーもカメムシの臭いがして苦手だしなー。変なもんが流行る世の中である。
それはともかくとして。
日本料理に欠かせない味噌や醤油も、慣れないと違和感があるだろうしね。
異世界で味噌や醤油などを作れる訳でもなし。そもそも『コウジカビ』という麹菌を使うのは日本だけであり、日本の気候でしか作れない『国菌』なのである。他の東南アジアでは『クモノスカビ』を使う。だから日本国産の味噌や醤油などの発酵食品はとても貴重であり、現状おいそれとは使えないのだ。
そうして。色々考えた上で、手っ取り早く無難な物にした。
「パンでも焼くかなー」
生地は暇な時にあらかじめコネて発酵させたものを大量に冷凍保存している。現地でチャレンジしても発酵に失敗するので。俺は生地は作り置きしておくのだ。
それを取り出し、アンティークなコンロに火を起こして、ダッチオーブンに丸めた生地を並べていく。シンプルにちぎりパンがお勧め。食べやすいしね。
因みに中にはチーズやウインナーを仕込んでおく。何が当たるかはお楽しみ。
ソロキャン専門のくせに、大きさを考慮せず勢いで買ったデカイダッチオーブンがようやく日の目を見た瞬間である。他にも企業案件で貰った、ソロに不向き(どうして俺にくれた)なキャンプ用品もあるので、それらもその内活躍するだろう。
そうしてパンが焼けるのを待っている間に、昨夜の残りの野菜を細かくサイコロ状に切る。自作の猪ベーコンも取り出し同じくサイコロ状に刻む。鍋に水を入れて、刻んだ具を投入。煮えたらコンソメと塩コショウで適当に味付けして、残り野菜の簡単スープが完成。
そうこうしていると、パンが焼ける良い匂いがしてきた。
傍らにはずっと俺に付き添ってくれるシルバがいて、安心すると同時に癒される。
暇なのでシルバに脳内で話しかけてみる。聞けば割と何でも食べれるらしいので、大量に作ってあるジャーキーもイケルかと思ってあげてみるとかなりお気に召したようで。塩分控えめで作ってあるし。味わい深いと褒められた。やったね。
そんな遣り取りをしつつ、暫し待つ。
「―――よし、完成。んじゃ、持っていくか」
パンもこんがり綺麗に焼けているのを確認。
出来立てを食べて貰おうと、鍋を持とうとした時。ふわりとダッチオーブンと鍋が宙に浮かんだ。
「うおっ?」
ちょっとビビる。
どうやらシルバが持ち(?)運んでくれるようで、俺に思念を送って来た。
風魔法の一種なのか。それは、便利だね。
「手伝ってくれてありがとうな~」
他のコテージに宿泊している客がいないせいか、安心してゆっくりと調理ができた。
こんないい宿泊場所があるのに、他の人は何故利用しないんだろうね?
なんてことを思いつつ。宿泊先のコテージに向かうべく、シルバと俺はその場を後にした。
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