第113話 ミステリー(厄介事)の匂い
夕食まで自由にお過ごし下さいと言われたのだが、やることもないのでみんなリビングエリアに集まって来た。
さてこれからどうしようか。といったことを話し合うのだが、俺はアイランドキッチン風のバーカウンターの方を探索することにした。
レジデンシャルホテルみたいなんだよね、この魔動船の客室って。
全室こうなのかは判んないけど。
家具類はオリエンタルでエキゾチックな南国風リゾートスタイルである。
サヘールは砂漠の国という話だが、モロッコみたいな感じかな?
ふむふむ。キッチンは狭いけどシンクもある。しかも小型の魔道コンロらしきものもあり、火は一応使えるようだ。
Siryiの鑑定によれば、火災防止の設備が施されているらしい。火がキッチン以外に燃え移ると、スプリンクラー(魔晶石)が反応して消化するそうだ。
流石豪華客船。いや違った大型輸送船。
自由にお飲みくださいとばかりに、中型の魔道冷蔵庫なるものもある。俺の身長とそう変わらない大きさだね。旅館だともっと小さい冷蔵庫なんだけど。一等客室だからかな?
中にはよく冷えたジュースや水が入っていて、ホテル並みのラインナップだった。
でもこれ飲むと、別料金が発生するんでしょう? 俺知ってる。
なので空いている場所に、これでもかと私物の飲み物や食べ物を突っ込んでおいた。
「リオンは何をしているのかしら?」
「キッチン好きっすよね~」
お。小型のワインセラーみたいなのがあるぞ。でも中にはそんなに入ってない。
一応この世界で売られているワインを見てはいるが、このホテル(違う)は高級志向なのか瓶も上等で俺の物とそう大差はなかった。
よし。隙間が寂しいので俺の持っているワインでも突っ込んでおこう。
安物でも、こうして入れておけば高級感があるね。
「もしかして、巣作り?」
「おいチェリッシュ、リオンを動物みたいに言うな」
「間違っちゃいないがな……」
他にもキャンプで使う調理器具や、調味料類を使いやすく並べていく。
アントネストで培った俺の昼間(朝のみ)は喫茶店、夜はバーとして開店できるキッチンへと整える。
貸店舗ほど広くはないけど、メンバー全員座れる程度の幅はあるね。
そうして最後に、お気に入りのマグカップやグラスを並べ終えて、俺は満足した。
「またあのマグカップ並べてる……」
「あのビアジョッキも、綺麗だけど妙なのよねぇ」
「グラスに書いてある文字も、なぁんか意味がありそうなんだよなぁ」
「読めないから、ただの模様に見えるっすけどね」
「…………」
おもしろ食器シリーズの『美味しいお酒(元ネタは牛乳)』や『カロリーゼロだといいね(ローマ字表記)』に『とりあえずビール(定番)』等と書かれたビアジョッキは大人組専用である。どれを誰が使うかはお察しで。
日本語が読めたら面白いんだけどなぁ。
ただし、ディエゴだけには何と書かれているのか教えてある。(聞かれたから)
意味を知って複雑そうな表情をしていたけどね。
「巣作り―――じゃねぇ、整理は終わったか?」
「おわったー」
なんか妙な言い方をされたようだが、気にしない。
「コーヒーいれる?」
「ああ、頼めるか?」
「かしこまりー」
オネーサン風に注文を受け答え、俺は全員分のコーヒーを入れてリビングに持って行くことにした。
「取りあえず、サヘールへはドワーフの武器と、魔晶石の購入をメインにしようと思うのだけど。みんなの意見はどう?」
「異議なーし!」
「そうっすね」
「この魔動船は流石に無理だと思うしなぁ」
「…………そうだな。クランレベルなら考えなくもないが、少人数のパーティで使用するには大きすぎる」
購入した後のことを考えると流石にディエゴも拙いと思ったのか、考えを改めるに至ったらしい。
「なぁ、ちょっと考えたんだが」
「なんだ?」
「俺たちだけが購入希望者ってのは、おかしかねぇか?」
ふと考え込んだギガンが、ぽつりと呟いた。
その呟きにアマンダ姉さんも頷く。
「……そうよねぇ。さっきディエゴが言ってた、クランレベルなら、購入できるかもしれないわよね?」
俺はこそっとSiryiに訊ねて、みんなの言う『クラン』を調べた。
『複数の冒険者パーティを組織している、所謂「パーティ集団」のようなものですね。スプリガンが個人のお店なら、クランは商業施設と言ったところでしょうか』
なるほど。本来の意味として『クラン』は一族だけど、冒険者パーティを集めて組織された集団ってことか。
ゲームなんかでよく聞くけど、あんま意味が判んなかったんだよね。
俺たちはアーケードにある個人商店で、クランは大型のショッピングモールに様々な店舗があるみたいな感じと思えばいいのかな?
『大体そのようなものですね』
そして目的に合ったパーティを選んで活動するとかかな?
レイドが必要な討伐依頼があれば、他所から様々なパーティを搔き集めずに、クランに依頼することも出来るそうだ。
でもその手のクランは大きな都市にしかなく、薬草採取用の森しかない町や、人気のないダンジョン(今は人気だけど)のある街にはいなかった。
「詳しい話は夕食の時にって言われたけど、もしかしたら私たちだけじゃないかもしれないわね」
「この客室に案内される時も、他の部屋の確認はなかったしな」
「ここまで真っすぐ連れて来られたよね?」
「選択の余地はなかったとすりゃ、他の客室には既に誰かが居ると考えられるぜ?」
「他の部屋も説明だけで、室内は見せてもらってないっすもんね」
「ふむ?」
そう言えば、シュテルさんが「購入を考えているお客様」と言っていたのが引っかかっていたのだが、もしかしたら他にもお客様がいるのかもしれないな。
こんな大きな魔動船の購入を考えているだけの俺たちを乗せて運航しているのもおかしな話ではあるし。
他にも輸送しなければならない荷物はあるんだろうけど、商船とはいえ豪華客船のような船だ。到着がギリギリだったのも、きっと別の場所で他の人たちを乗せていたからだと推測できる。
「まぁ、なんにしても。夕食で明らかになるだろうぜ」
「わざと人のいない場所を選んで案内していたのか、人払いをしているような感じだったしな」
この部屋を宛がわれるまで、客室周辺は案内されなかったし、他の乗組員さんですら見かけなかった。
俺たちの邪魔をしないよう配慮されていたとしても、購入を考えている一パーティのためだけにしては妙な感じだった気がする。
最初は魔動船の規模に圧倒されて、そこまで考えが及ばなかったからだけど。
俺たち以外の客がいないと思い込んでいた―――いや、思い込まされていた。
「もしこの予想が当たっていれば、他の冒険者パーティや、クランが乗り込んでいる可能性は高いぜ」
「中古とはいえ、これだけの設備の魔動船だ。手に入れられれば、かなり稼げるってわけだな」
「商船に近いことも出来そうだものね」
「ある意味、武装集団っすもんね」
「乗組員全員、冒険者だもんね~」
俺としてはそっちよりも、何故冒険者パーティばかり集めて乗り込ませたかの方が気になるんだけどね?
いや、もしその予想が当たっていればの話なんだけど。
他にも魔動船の購入を希望している、シュテルさんのような商人さんだっているかもしれないし、いないのかもしれない。
俺たちだけだったら、あの手この手を使って無理矢理にでも買わせようとしている可能性はなくもないんだが。
あのシュテルさんの態度や口調から察するに、どうしても購入させたいって感じではなかったんだよなぁ。
『マスター。あの方の目的は別にあると考えた方が良いかと思われます』
だよね。やっぱ俺たちみたいな、突然大金を手に入れた冒険者や、魔動船を購入できるほど稼いでいるクランに話をもっていってそうだ。
更に疑うとしたら、これをエサにある程度実績のある強い冒険者を集めたかった―――ではなかろうか?
う~ん。何だか
こういうドラマや小説の場合、いきなり殺人事件が起こったりするんだけど、まさかそれはないだろう。ミステリー列車じゃあるまいし。
ただここが空の上だけに、どこにも逃げ場がないから心配になってきた俺だった。
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