第114話 都会の冒険者

 夕食の準備が出来ましたと、従業員さん(?)に案内されて、ホテルの食堂というか所謂メインダイニングに来た。

 扉が開かれて「どうぞこちらへ」と従業員さんに促されるが、中を見た俺はそっと扉を閉める。まるでドラマ等で見るパーティ会場のような雰囲気のメインダイニングでは、俺たちのような冒険者が沢山いたので。


「おいリオン。何故ドアを閉める?」


 最後尾に居た俺はその場から逃げようとしたのだが、再び扉が開かれてディエゴに首根っこを掴まれた。


「ひとがおおい」

「まぁ、そうだな。予想通りだな」

「めんどうくさい」

「確かに」


 チラッと背後を見遣り、ディエゴも俺と同じく面倒そうな気配を感じたのか、一緒にメインダイニングから出ようとした。

 がしかし。背後に控えていた従業員さんに「お入りください。皆様お待ちです」とにこりと微笑まれて、仕方なく中に入ることにした。


「シルバ、ノワル。リオンから離れるなよ」

「おねがいねー?」


 いやだなぁ~いやだなぁ~、こわいなぁ~こわいなぁ~と稲淳しながら中へ入る。

 だって雰囲気が気持ち悪いんだよ。俺たちを迎える人の多くが、余裕のある笑みを浮かべながら、目つきは品定めしているような感じだし。

 護衛役のシルバ&ノワルを従えているので、妙な奴に絡まれることはないと思いたいのだけれど。


「―――おい、子連れもいるぜ」

「やだわ。何で子供がいるのかしら?」


 その思いは叶わなかった。

 悪かったな。子供みたいな見た目で!

 ざわつくメインダイニングには、ド田舎やアントネストでは見かけなかった、意地の悪そうな冒険者が俺を見てニヤついていた。

 ランクは高そうなんだけど、その分人を見下しているような感じだ。

 これが都会育ちと田舎育ちの違いか―――と言った偏見が生まれるのは、こういう時なのかもしれない。


「気にするな。お前のジョブの方が希少価値が高い」

「それはそれでやだ」


 実力行使されたら生産職の方が圧倒的不利じゃん!

 俺は身体能力よりも頭脳戦の方でお願いしたい。それなら勝てる気がする。

 とはいえ流石に見た目が子供な俺に、力比べで勝っても弱い者いじめしているようにしかならないだろうけど。


 よし。引き籠ろう。

 空の上で引き籠るってのもおかしな話だけど、下手にうろついて妙な輩に絡まれるのだけは勘弁してほしい。

 なんだっけ。こういうお約束のようなイベントってのは、最初に訪れた冒険者ギルドで洗礼を受けると思ってたんだけどな。

 ド田舎ギルドやアントネストではなかっただけに油断していた。

 きっと都会の冒険者ギルドには、若い受付嬢がいるのだろうという偏見が俺の中で生まれる。企業の顔だから綺麗どころが揃えられているに違いない。

 田舎には田舎の良さがあるんだけどね。

 

「なるべく私たちから離れないようにね?」

「リオリオは俺が守るっす!」

「なぁにアイツら。いやな感じ~」

「ありゃぁ、大手クランの連中だろうな。金持ってそうな装備だぜ」


 ギガンの言うように、何がどう金を持ってそうな装備なのかは皆目判らんのだが。

 チャラチャラした格好なのは確かである。これがこの世界の都会のセンスか。

 スチームパンク風のレザー素材の服装なのは同じなんだけど、アクセサリー類が多いなぁといった印象だ。タリスマンぐらいしか身に着けていないアントネストの冒険者とは全然違って、指輪とかネックレスとかバングルとか、まぁそう言った装飾品が多いってことなんだけどね。

 そんなの付けて戦闘するとか大丈夫なの? 邪魔じゃないのかな?


『彼らが身に着けている装飾品は、全てダンジョン産のアイテムですね。能力を向上させるバフ効果のあるモノばかりです』


 あ、そうなんだ。

 シュテルさんのゴミアイテムとは違うのか。

 かと言ってジェリーさんが手がける繊細なアクセサリーとも違うので、趣味が悪いとしか思わなかった。


『……ダンジョン産のアイテムは、センスが古い物が多いですからね』


 Siryiにすらそう思われている、他のダンジョン産のアイテムって……。

 アントネストの様に、自らデザインして作り上げろという、センスの問われる物ではないようだ。


『古くからあるダンジョンでは、あのようなデザインが主流だった時代の名残でしょう。ですが見分けやすくて良いと思います』


 そう言う表現の仕方もあるのかね。

 古臭いギラギラした中世時代のアクセサリーは、バフ効果のあるアイテムなのか。よし、俺覚えた。

 スプリガンのメンバーって、装飾品を身に着けてないから判んなかったよ。

 アマンダ姉さんですら指輪一つ着けてないし。チェリッシュも可愛いモノが好きな割には、普段着以外でアクセサリーを付けてなかった。

 バフ効果のあるアイテムに頼らなくても強いってことだけどね!


 冒険者御用達のお店には、こういったアイテムも売られている。

 ただSiryiの目から見てもさほどの効果はなく、俺にもアンティークとは名ばかりのガラクタにしか見えなかった。

 レベルの低いアイテムだから市場に出回っているって感じなんだろう。

 値段的にも高い割には効果は低くて、アントネストにはジェリーさんのお店があるせいで、アイテム類は殆ど売れないから仕入れてなかったみたい。


『ご安心ください。マスターの作られたタリスマンの方が強力です』


 そこ安心する部分じゃないよ?

 火力上昇や運気上昇効果のあるタリスマンはまだあるけど、みんなは使用するのを控えている。

 アイテムに頼っても本当の実力にはならないからね。

 いざという時にしか使用しないようにしようねって、以前みんなと話し合ったのだ。

 常識的な考えを持ったメンバーばかりでほんと助かる。


 俺の作ったアイテムで一番強い『一撃必殺』も、実はまだ何個かあるんだよなぁ。

 草原エリアが賑わう前に手に入れたトンボ玉でいくつか作っておいたし、実験と称してディエゴに作らせたデバフ効果のタリスマンまで大事に取っているのだ。

 何時か何かの役に立つのでは? という勿体ない精神のせいで、実にヤバイアイテムを所持していることになる。

 その「こんなこともあろうかと」と持っていたお陰でレヴィアタンを斃せたから、無用の長物ではなかったんだけどね。


『マスターの作成したアイテム一つで、この場に居る冒険者のアイテムを全て搔き集めても敵わない効果があるかと思われます』


 でも使用すると壊れるからね。効果はあっても価格的にはそこまで高くはないと思うんだよな。売る気もないし。何に利用されるか判ったもんじゃない危険物だよ。

 俺がこの場に居る冒険者たちの装飾品バフアイテムを眺めていると、ギガンたちも同じく見ていたのだろう。どこか呆れたような表情を浮かべていた。


「昔は高価なアイテムを付けてると、強いっつーイメージだったんだがなぁ」

「こう言ってはなんだけど、今更アイテムに頼るほど落ちぶれてないって言いたくなるわね」


 真の実力で六ツ星までランクを上げた二人なだけに、その言葉には重みがあった。


「俺、沢山稼いだら、良いアイテムを手に入れたいって思ってたんすけど、実際に見るとなんか違うっすね」


 あのギラギラアイテムを見て、テオもそんな夢を見る気が失せたのだろう。

 おいしくてつよくなっているメンバーだけに、アイテムに頼る意味を見出せなくなったのだ。良い傾向だと思うよ。


「強い武器は欲しいっすけどね。今持ってるヤツって、壊れそうで怖いんすよ」

「アタシも。壊れ難い武器は欲しいけど、あの程度のアイテムに頼る気もないし~」


 チェリッシュもその意見に同意した。

 ただ強くなりすぎているので、みんな武器を新調せざるを得なくなっている。

 だからドワーフが作る武器を求めて、サヘールに行くことを承諾したのだ。


『流石のマスターも、武器は作れませんからね。今のところは』


 今のところはどころじゃないよ!

 自称アルケミストではあるけど、鍛冶師じゃないから無理だって。

 どこの世界のアルケミストが、武器まで作れると言うのか。(知らんけど)

 一般的なアルケミストと違う俺のなんちゃって錬金術で、どこまで誤魔化せるか怪しいというのに。


 やっぱ大人しく引き籠ろう。都会の冒険者が怖いし。

 妙な連中に目を付けられるのも嫌だけど、本当はアルケミストと名乗る事すら怪しい人間であると疑われるのも嫌だからね。

 まだ妖精だと勘違いされている方がマシだよ。

 だってこの世界では、子供はみんな妖精だもんな!

 悪戯したってある程度までは赦されるので、俺はこのまま妖精こどものふりをしておこう。


 なんてことを思っていても、避けては通れぬこともあるというのを、嫌というほど実感させられることになるのだが。

 いくら大きな魔動船だからと言っても、空の上だから逃げられないんだもん。

 仕方がないよね。あーあ。

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