第78話 情報収集に出かけよう

 本日も休養日ということで。

 俺はSiryiから外に出て情報を集めたいというお願いを聞き入れ、ディエゴとイツメンシルバ&ノワルと買い物に出かけることにした。

 というか、ジェリーさんからテスターをお願いされたこともあって、『小さな願い事が叶うかも』タリスマンの数が揃うのを待っている状態である。

 効果を上げるために、バージョンアップさせるらしい。デザインがより洗練されて『かも』が取れるといいね。


 GGGさんやオネーサンたちは、今日もダンジョンアタックをしている。

 あちらは大量の食材の確保をしなければならないので、そんなに休んでる訳にはいかないのだそうだ。

 お店を経営するのも、狂戦士をメンバーに抱えるのも、大変だよね。


 聞くところによると、ドロップ品を売ってお金を稼いで、大量に食料を買い込むGGGのみなさんの持っているマジックバッグの容量は大きい。

 大量のドロップ品を持ち運ぶのに便利とはいえ、現在はシャバーニさんの消費する食料を大量保存するための、時間停止魔法の掛かっているマジックバッグが欲しくてお金を溜めているそうだ。

 なんて仲間思いのマッチョさんたちなのだろうか。

 アントネストに来てからは、ダンジョンアタックで高級革素材をドロップしているので滅茶苦茶稼いでそうなのに、食ベ物以外での贅沢をしてなさそうだな~と思っていたんだけど、そういう理由で堅実に貯金してたなんてね。

 とはいえ、そんな希少性の高いアイテムは、オークションにも中々出品されないので、自力でゲットするしかないらしい。かなり前に、どこかのダンジョンの宝箱から出てきたきり、見付かったという話を聞かないんだって。


 長期間大量の食べ物を持ち運ぶには、商人さんのように魔道冷蔵庫をマジックバッグに入れて持ち運ぶ必要がある。

 しかしこの魔道冷蔵庫も完璧ではないし、メンテナンスだって必要で、何かと手のかかる代物なんだって。あちこち持ち歩くし、マジックバッグから頻繁に出し入れするから経年劣化し易いのだろう。

 シュテルさんや他の商人さんは、アントネスト周辺の街へ仕入れた品物を売りに行くために、今はこの街にはいないけれど。

 この街でも確りと仕入れたエアレーの肉やキャリュフを売ってから、ブリステン領の各街へと散らばって行ったけどね。

 でもなんかまた戻って来そうな気配がするんだけど、気のせいかな?


 アントネストのダンジョンを抱えるブリステン領ではあるけれど、何故かダンジョンのある街に住む人間は徐々に減っている。

 俺たちの宿泊している店舗だって空き家になっているし、商店街を歩くと閑散としているからね。でもダンジョンの入り口周辺は活気があるので、田舎町とはまた違った雰囲気だった。

 需要のある爬虫類の皮素材以外、これといった売りがないからなんだろうけど。

 それ以外の目的もないので、その他の商売や産業が発展しないってことなのかな?

 オネーサンは爬虫類のお肉料理で頑張っているし、ジェリーさんはだれも見向きもしない魔昆虫のドロップ品でアクセサリーを作って頑張っているのに。

 稼げるドロップ品が爬虫類系の魔物の皮素材だけなので、冒険者たちもそれ以外のドロップ品はゴミとして捨てる傾向にあった。

 だから今までバッタの液玉(硬化液)の価値に気付かず、持ち帰りもしなかったんだろうね。ほんと冒険者って、脳筋ばかりなんだから。



 今日はSiryiのデータ確保のために、ダンジョンの入り口付近にある屋台村(?)にやってきた。

 冒険者が屯するだけあって、食べ物を売る屋台が多い。初日に俺もここへ来たんだけど、屋台の食べ物に興味がないのでスルーしていたんだよね。

 改めて見渡してみれば、どこもかしこもスタミナが付くという売り文句で、これからダンジョンアタックする人や、疲労困憊の人へアピールしている。

 俺はSiryiに実際のところはどうなのか質問がてら、食べ物を虫メガネで鑑定していくことにした。


『スタミナをつけるには、ビタミンB1、アリシン、ミネラルを含む食材が適しております』


 それは知ってるよ。お前、それは俺の知識から検索しただろ?


『周辺の出店には、豚肉・ウナギ・豆腐を調理した食べ物はございません』


 お肉が一杯あるじゃん。お肉料理ばっかりとも言うけど。

 さながら町興しで開催される、ご当地B級グルメのイベント会場のようである。

 お祭りとは違ってイベントはないけど、ダンジョンアタックする冒険者にとっては必要な屋台であることには違いない。しかも見渡す限り野郎ばかりで、女性冒険者の姿がないのだ。本当に女性人気がないんだねぇ。


 そういや女性の購買意欲を高める施策方法で『プリンセス・マーケティング』というのがあったっけ。男性の場合は『ヒーロー・マーケティング』だったかな?

 男性はレベルアップのための消費であり、客観的な社会的地位を高める商品、つまりは強力な武器を手に入れることがステータスだったり、ストイックな訓練プログラムで目標を達成しようとするので、そこを刺激すればいいとかなんとか。筋トレも、見た目の強さを強調するしね。

 一方の女性は、自分らしさをより高めるための商品を求める傾向にあるので、主観的な視点となる。自分自身が満足するためのモチベーションを追求するので、美容やファッション関連の商品が良く売れるのだそうだ。

 これは自分のためになると思って衝動買いをするのは女性が多く、男性は慎重に情報を集めて吟味した後に購買するといった違いがあるのだが――――俺は酔うと衝動買いだけど、普段は慎重だからな! 面白いと思うと何も考えずに買っちゃうけど。


 まぁ、何が言いたいかというと、アントネストは女性心をくすぐる商品が全くないのである。確かに爬虫類の皮革素材の商品は高級志向であり、ステータスになるとはいえ、加工されていない状態では商人さんにしか需要がない。

 冒険者の多くが男性であることから判るように、武器や防具になる素材以外はただの売りモノなので、これらの購買層ではないということだ。

 武器屋や冒険者向けの衣料販売店もあるけど、それらは男性向けばかりで、華やかさがない。客層が男性に偏っているのが原因だろう。

 そして女性が少ないから、人口も増えず減っていく要因にもなっている。

 商人も多く立ち寄るそうだけど、皮革素材を購入して他所にもっていって加工した方が、女性が寄り付かないアントネストで商売するよりは売れ行きだって違うだろうしなぁ。


 魔物の爬虫類の肉を売りにしようにも、美容と健康を売りにしているというより、スタミナ食材扱いだから仕方がないね。何より見た目がワイルドすぎる。

 でも爬虫類系のお肉って、高たんぱく低脂肪だから、ダイエットをしたい女性向きなんだけどな~。もちろん上質な筋肉を育てたいマッチョにとっても理想的なお肉なんだけどね。

 そこから何とか女性向けの商売に繋がるヒントがあるように思うんだ。

 ジェリーさんのタリスマンやお土産品の細工箱だって、見た目が奇麗で女性向けなんだけど、肝心の女性が少ないせいで売れていないんだよ。

 たまにアントネストに仕入れで立ち寄った商人さんが、お土産品として買って行くぐらいだって。「本当に効果があるなら、大量に注文するんですけどねぇ」と言われて、悔しかったそうだ。

 それもこれも情報の伝達が上手く行ってないからだろう。流行に敏感な女性のアンテナに引っ掛かるような、上手いアピール方法って何だろうね?


『その質問にはお答えできません。もっと情報を集めて下さい』

「…………」


 Siryiにマーケティング方法を聞いたつもりはないんだけど。逆に情報集めを要求されてしまった。

 取りあえず、気を取り直して。あちこち見ながら歩くから、タンパク質を多く含む食材で料理しているお店を教えてよ。


『かしこまりました』


 そうして俺は、ぶらぶらと気の向くままにB級グルメ会場をうろつくことにした。

 背後でディエゴがハラハラしながら見守っているけど、人にぶつかることはないから安心していいよ~。

 Siryiが事前に危険を察知して教えてくれるけど、スマホと違って虫メガネだから、視界は確り開けている。それに俺は、人で溢れ返っている渋谷のスクランブル交差点でも、人にぶつからずに歩ける日本人なのだ。

 世界一有名な交差点であり、外国人観光客にも人気の観光スポットなんだけど、日本人であれば忍者のように人と人との間をぶつからずに通り抜ける術を身に着けているものなので。わざとぶつかってくる相手もいるけどね。それでも避けれるのが、真の日本人であると言えるだろう。

 当たり屋がいても大丈夫なのだよ。ふはははは!


 取りあえず迷子にならないように見守るだけで良いからね。

 シルバにはぶつかる以前に相手が避けてるから、ディエゴはその後ろをついて来るだけでいいんじゃないかな?

 よって俺は俺の道を征くのだ。


 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る