第11話 現実を直視しないと確実に死ぬ

 このわんこ、初見ではシベリアン・ハスキーかと思ってたけど、アラスカン・マラミュートのようでもありました。

 だってすっごいもっふもっふしとるんだよ。だからサモエドっぽくもあるけど。

 結論。なんか色々な犬種が混ざっているようですな。


「ファンタジーの定番、フェンリルってのもありか?」


 しかしあれは北欧神話の魔獣だか聖獣だった気がする。神殺しだとかなんとか。ヤダ凄い物騒。

 でもこのわんこは思いっきりもふらせてくれて、とても大人しくて良い子だ。おやつ程度にもならない肉も一口で食べてくれたし。見張り番としてどうかとは思うけど。


「しかしミッションを成功させたはいいけど、コレからどうしようね?」


 夢から覚める気配は、残念ながら今のところはないんだよな。

 いやぁ~多分、夢だと思うんだけど。マジで神隠しだったらヤダなぁ……。

 しかも頼れるのはこのリュックだけっていう。非常に心許ない状況。


「どうしたもんかね……」


 人の良さそうな冒険者たちにくっ付いて行くと言う手はある。がしかし、こんな得体の知れない人間を、同行させてくれるものだろうか?おまけに言葉も通じないし。この森から出たところで行く当てもない大人しくこの森に居た方が、まだ帰れる可能性があるかも?

 爺さんには迷子になったら、その場から動かないように教えられたけど。探しに来てくれる知り合いなどいない場合は、どうしたらいいのだろうか?


「マジで詰んでるのでは……?」


 俺は能天気に異世界だからって、現代知識を駆使して無双しようなんてポジティブ思考はしていない。文化レベルも判らんのに、はっちゃける気もしない。コミュ障すぎてまともに働いたこともないし、誇れるものが何もない。動画配信者として、細々と食いつないでる凡人なんだぞ。

 持ち山で山菜採りをしてたら、いつの間にか森の中に居たとかってのも怪奇現象でしかないし。神様に遭った記憶もないし、神隠しに遭ったとか何の冗談だ。

 構造不明の四次元リュック一つでどうしろと?物は使えばいつかはなくなる。食べ物だって無限に湧いて出る訳で無し。

 なんつーか、アレだな。海外旅行に行って、身分証とかパスポートとか失くした旅行者の気分を味合わされているようだ。海外に行ったことないけど。

 右も左もわからずに、言葉も通じない状況に陥って、そこで親切な人に出会って保護されるみたいな、なんかそういう感じ。まだ保護されてないけどね!

 下手したら身ぐるみはがされて、変態に売られる可能性だってある。日本人は大人しくて従順だから、結構な割合で海外旅行中に行方不明になるっていうし。

 俺の偏った浅い知識では、異世界での庶民の命は羽より軽いイメージだ。

 よく盗賊や魔物に襲われたり、貴族に難癖付けられて殺されかけてる気がする。


 くっそ。こうなったら、恥を忍んであの冒険者たちに媚びを売るしか方法がないのでは!?

 迷子だと勘違いされてる気がするし。ブラウニーがどうのとか言われてたけど、よく判らんからそこは気にしないでいいだろう。

 もしあの冒険者以外の人に運よく巡り合ったとして、その人たちが良い人とは限らないのだ。

 あの人たちが悪人なら、昨夜の内にリュックを奪われて殺されててもおかしくはないが、そうならなかった。だからこのチャンスを逃すと、俺はマジでこの世界で死ぬかもしれん。


「俺のシックスセンスが囁いている……。あの人たちは善人だと……」


 爺さんが言っていた。昔から俺のこの手の勘はよく当たると。今はそれを信じるしかない。

 こうなったら、あの冒険者たちに、俺を保護すると何かしら得をすると思わせなければ。

 外に出て仕事をするとか、現代社会でも出来なかったことが、よく判らん異世界でなんて出来る訳がないわけで。現代社会でも馴染めないのに、異世界行ったら何とかなるなんて、俺は絶対に思わない。

 誤解されがちなんだけど、ソロキャンとかに出かけるからアウトドア派に見られるが、実際は引きこもりに近いからな。

 買い物は主にネット通販や、定期お特便頼りなのだ。ん?そうなると、俺が毎月定期便で頼んでる品物ってどうなるんだ?毎度指定の宅配ボックスに入れて貰ってるんだが。支払いも自動引き落としだしな……。いや、今はそんなことを気にしてる場合じゃなかった。


 う~ん。昨夜のあの人たちの食事内容を鑑みて。料理なら、ワンチャンあるんじゃないかと思う。とはいえ作れるのは簡単なキャンプ飯ぐらいで、実際はお洒落で凝った料理は得意じゃない。誰でも簡単に作れる料理の方が動画的には受けるんだもん仕方ないね。所詮は雑で簡単豪快な男の料理なのだよ。(見栄えは気にする)

 しかも俺自身偏食気味だから、料理はあんま冒険しないタイプなんだよなぁ~。そのくせ味にうるさいっていうね。自分でも面倒臭いとは思ってるよ。

 外食とか苦手だし。たまに行く飯屋でも、新メニューより安心の定番メニューしか頼まないもんな。

 自分は冒険しないのに、冒険者に頼るしかないっていう情けなさよ……。


 偉そうにイキったりしないし、大人しくするから保護してくれないかな……。

 部屋の隅っこでじっとしてるし。寧ろ広い場所より、狭い方が安心できる。簡単な家事ぐらいなら、子供の頃から爺さんと二人暮らしをしていたし、ある程度は出来ると思うんだよ。

 でも冒険者って、定住してなかったような?気が、するんだが……。

 あれ?やっぱ俺って詰んでる!?


 そうして俺が、後ろ向きに前向きな思考に陥っていると、雰囲気アサシンのディエゴがそっと近づいてきた。

 ここは勇気を出して、保護したくなるように、思い切り哀れっぽい表情をするべきか?

 唸れっ、普段は活躍しない俺の表情筋!!


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