第55話 戦闘職はハイブリッド車


「お~っと、ここで【蒼天の稲妻】のボルト氏、無念のリタイヤだー!」

「これで残りのチャレンジャーは、二名となりました!」

「なんと、このお二人は既に5Kものエアレー・ステーキを消化しております。しかしまだまだ余裕そうです! すごいですねぇ~!」

「特に【ホワイトキャッツ】のロベルタ嬢は、笑みを浮かべながら美味しそうに食ベている姿は、見ているこちらも思わず笑みが浮かびますね!」

「いえいえ、【GGG】のシャバーニ氏も、豪快な食べっぷりで、実に気持ちがいいですよ!」

「お二人とも、ステーキを味わいながらも、綺麗に平らげておりますね!」


 各自持ち込んだ自分のエアレーの肉を順調に消費しつつ、シェフの皆さんも必死でその速度に合わせてステーキを焼いている。

 見ているだけの観客のお腹も相当減っているのだろう。時折「俺にも食わせろ」といった懇願にも似た叫びも混じっていた。

 湧き上がる観客に応援されている、残る二人の勝敗の行方を見守っていた。


 大食い大会は既に開始から一時間を越え、予定の時間に達することなく脱落者が続出していた。

 そりゃまぁ、開始からいきなり飛ばしていれば、そうなるというものだ。

 大食いチャレンジは、時間配分を考えながら一定の速度で食べ続けるのがセオリーだしね。制限時間があるとはいえ、早食いではないので、自分のペースを崩したらそこで終わる。だから大食いにしては長めの二時間を設定していたんだけど。

 参加者の多くは、2~3K辺りでほぼ撃沈しているし。先程リタイヤしたボルトさんは、それでも頑張って4Kまで食べきったので、フードファイターとしてかなり優秀であり、三位という栄光が与えられるけれど。


 エアレーの肉10Kというのは、実はロベルタさんの平均的な食事の量から考えた、一度に摂取できる予測限界値である。

 俺の好奇心から、一週間ほどエリュマントスの肉を調理して食べて貰っていたんだけど、毎回5Kほどで彼女は食べるのを止めていた。

 多分、これ以上のペースで食べてしまうと、肉がなくなるから遠慮していたんじゃないかなって思うんだよね。さすがに俺も鬼ではないので、毎食全部肉一食ではなく、副菜や主食のパンなども提供していた。

 ディエゴと一緒にせっせと作ったフリーズドライのスープやリゾットもあるし、作り置きのパンもあったしね。それらを交えながら、彼女の食べれる限界を図っていたのだ。

 それでも彼女は自制していて、狂戦士として身体強化をしなければ、そこまで食べなくてもいいということだけは判った。


 だが今回はエアレー狩りもあり、彼女はとてもお腹が空いている筈だ。

 身体強化系のジョブである狂戦士は、特にカロリーの消費が激しく、魔力の代わりに食べ物からエネルギーを取らないといけないそうだ。

 他の戦闘系であるジョブは、無属性の魔力を体内に循環させて強化するタイプが多く、テオやギガン等がそうらしい。そしてカロリーは魔力が足りない分のエネルギーとして消費される。

 しかし魔力と同じで、カロリーにも許容量があるのだ。

 

 【魔力】は【電力】であり、【カロリー】を【ガソリン】とすると、身体強化系戦闘職は、ハイブリッド車のようなものであると考えられる。それらのエネルギーをバランスよく消費することで、長時間戦えるようになるというわけだ。

 要するに、戦闘系のジョブである彼女は、大量にカロリーを消費しなければならないので、物凄くということになる。

 だが逆に考えれば、大食いであるロベルタさんは、沢山食べれば食べるだけ強くなるし、長く戦えるってことだけどね。彼女自身がエネルギータンクみたいなものと考えれば、蓄積できるエネルギー量が判ればかなり有利になると考えられる。

 一見欠点であるかのような『大食い』だけど、それをうまくコントロールできればかなりのアドバンテージになると思うのだ。

 他の戦闘職の皆さんは、胃袋の大きさや消費カロリーの限界が、この大食い大会で大体判明したので。残りのイケゴリ――じゃない、シャバーニさんがどれだけ食べれるか。それが判明したら俺の好奇心が満たされるだろう。


「ではここで、惜しくも三位となってしまったボルトさんにインタビューをしてみましょう。ボルトさんはランサーですが、エアレー狩りでは見事な技を披露していたとお聞きしましたよ?」

「……はい、ですが、脱落してしまうとは、仲間に申し訳ないっ! もっと時間配分を考えれば、食べれたと思うと悔しいですっ!」


 本当に悔しそうに答えるボルトさん。仲間からは「よく頑張った」とか、「お前は俺たちの誇りだ」という声援が贈られていた。

 なんとも美しい仲間愛だね。健闘を称える声援が、観客からもかけられているし。

 予定と違う大食い大会になっちゃったけど、皆さん楽しんでくれているようだ。

 しかも各領地への分岐点であるこの宿場町は、特産品がないためにイベント的な祭りをよく開催しているらしい。それでこなれた感があるのかと、思わず納得してしまった。


「お前の考えていることが、何となくだが判った」

「そう?」


 何かを察したディエゴが、神妙な顔をして俺に声をかけて来た。

 やっぱりわかっちゃいますか。

 流石はサイコパスっているけど賢いお兄ちゃんですな。


「だがあのシャバーニとやらも、狂戦士だぞ?」

「そだねー」


 筋肉に魅せられた狂戦士なので、身体を鍛えることに命を賭けているっぽいけど。

 スレンダーでどう見ても狂戦士に見えないロベルタさんと比べると、確かにシャバーニさんの方が大食いに見えるしフィジカルお化けである。

 だが大食いとは、見かけでそうと決まるのではないのだ。

 俺の知っているフードファイターさんは、みなさん細身で一見して大食いには見えない。太っていたり、強靭そうに見える方が大食いっぽいけどね。人間見た目ではないのだよ。


「俺、シャバーニさんに賭けてたんすけど、これってどうなるんすかね……?」

「アタシも~」

「アンタたち、一体いつの間に……?」


 どうやらこの大食い大会では、賭けも同時に行われていたようだ。俺の知らない間に、なんでそういうことになっているんだよ。まぁ、興味がないことは耳に入らないので、知らなかったんだろうけどさ。


「この数日間で、ロベルタ嬢の食べっぷりを見てただろうが?」

「でも、シャバーニさんの方が食べそうに見えたんだもん」

「同じくっす~」


 やはりこの二人は見た目に騙されるタイプだな。相変わらず騙されやすいようで、詐欺に遭わないか心配になるね。


「そういうアンタはどうなのよ、ギガン?」

「…………」

「アンタもシャバーニに賭けたのね?」


 呆れるわと、アマンダさんがシャバーニさんに賭けた三人を蔑むように流し見る。


「そういうお前はどうなんだ。お利口にも賭け事をしなかったってのか?」

「まさか」


 ギガンに問われたアマンダ姉さんは、ニヤリと笑みを浮かべる。


「リオンが興味を持った対象よ?」

「まさか、お前……」

「ロベルタ嬢一択に決まっているでしょ」


 誇らしげに言い放つアマンダ姉さん。

 魅力的なウインクを俺に投げ、同意を促した。

 なので俺も自信満々に頷いた。


 

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