第143話面会を重ねて

俊哉と浩一郎は紫苑ちゃんと面会を重ねた。少しずつ紫苑ちゃんは俊哉と浩一郎に心を開いた。本を読むのが何より好きだと言っていたので浩一郎は面談の度に絵本をプレゼントした。施設の職員に聞くと浩一郎がプレゼントした絵本は大切にしていると言う。


「紫苑ちゃん、大分面談に慣れてきましたね」


「ああ、嬉しい事だよ」


俊哉と浩一郎は事ある毎に紫苑ちゃんの話をするようになった。ある面談の日には家で飼っているシロの話になった。


「白い猫ちゃん」


紫苑ちゃんは興味を持ったようだ。俊哉と浩一郎は猫との生活を話題にした。猫が好きだと紫苑ちゃんは言った。


「良かったら猫に会いに来てほしいな」


「行きます」


紫苑ちゃんの表情が明るくなった。俊哉と浩一郎はそれだけで嬉しい。2人は毎週通った。


「申請の申し立ての書類が整った。裁判所に提出するよ」


書類の準備は浩一郎が引き受けた。実親の戸籍謄本も手に入った。児童相談所の桑田さんの手助けもあって、順調に手続きは進んだ。俊哉と浩一郎は紫苑ちゃんの部屋の準備もした。ベッドや机、収納ケース、紫苑ちゃんを受け入れる体制は整って来た。そうしていると施設の職員から提案があった。俊哉と浩一郎の家に紫苑ちゃんを招待する事の許可を得たのだ。


「紫苑ちゃん、いよいよ家に来てくれるんですね」


「ああ、長かったな。ここまで来るのに」


2人には苦にならなかった。むしろ楽しみが増えたのだった。家でも紫苑ちゃんの話題が多くなった。


「紫苑ちゃん、ここが家だよ」


日曜日、紫苑ちゃんと施設の職員を家に迎えた。もちろん、送迎は浩一郎が車を出した。紫苑ちゃんは玄関で靴を脱ぐとシロが出迎えてくれた。


「シロちゃん!」


紫苑ちゃんはシロを撫でた。シロはニャアと鳴いて紫苑ちゃんに撫でられている。紫苑ちゃんをリビングに案内した。おやつも用意してある。紫苑ちゃんと施設の職員さんはソファに座った。紫苑ちゃんも最初は緊張していたがシロが紫苑ちゃんの膝の上に乗ってからは緊張も解けたようだ。


「シロちゃんは可愛いね」


紫苑ちゃんはシロを優しく撫でた。シロは喉を鳴らしている。俊哉が紫苑ちゃんと会話をしている間に浩一郎は施設の職員に紫苑ちゃんの部屋を案内した。


「良い部屋ですね」


「紫苑ちゃんの自由にさせたいと思っています」


浩一郎はそう言った。


リビングで紫苑ちゃんと俊哉はお喋りをしている。紫苑ちゃんが俊哉に質問をした。


「どうして名前が男の子の名前なの?」


「男から女の人になったんだよ」


「どうやってなったの?」


「手術してなったよ」


ふーん、と紫苑ちゃんは言った。あまり気にしていない様子だ。家を見て回りたいと言うので俊哉は案内した。


「広いお家」


「紫苑ちゃんの部屋も用意してあるよ」


「本当?」


「本当だよ」


俊哉は部屋へ案内した。シンプルな部屋にしてある。いつでも紫苑ちゃんの好きな部屋にできるようにしてある。


「紫苑ちゃん、どうかな」


「シロちゃんと寝れるかな」


「シロはきっと寝てくれるよ」


紫苑ちゃんは最初に会った時とは変わった。毎週通っている内に施設の職員に俊哉と浩一郎がいつ来るのか聞くようになったと言う。その話を聞いた2人は喜んだ。

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