第173話囲碁部創立
「ねえ、この私の名前を前面に出すのやめにしない?」
「何言ってんだ高坂。最大のアピールポイントだぞ」
神田翔太と紫苑は小学校の掲示板に部員募集のポスターを張り出した。囲碁のイラスト共にプロの指導が受けられると書いてある。
「でも翔太、最初の部員ってほとんどあんたの囲碁教室の生徒でしょ」
「それでも良いんだよ、部員は多い方が良い」
頭が良くなって成績も上がるとは流石に書き過ぎじゃないかと紫苑は思った。
「でも校長先生と教頭先生が道具の費用を出してくれたのは助かったな」
碁石、碁盤、対局時計、検討用の大型マグネット碁盤を2人が自費で出してくれたのは囲碁部としては大歓迎だった。
「囲碁は頭の体操になるからね」
紫苑と翔太は部活動申請を1年生でやり遂げた。ちなみに翔太はアマの5段である。紫苑はなかなかの実力だと思っている。翔太も院生になりたいと紫苑に相談したが
紫苑はまだまだ勉強が足りないと指摘した。翔太はぐうの音も出ない。
「紫苑が部長で、俺が副部長だ」
ポスターを張り出してから数日、家庭科の教室を部室にした囲碁部は大盛況だった。それは紫苑の指導、マスコミの報道で紫苑の評判が良かったからだ。それでも紫苑は部員はそれほど多くはならないだろうと予想した。数週間経って残ったのは12人だった。その入部希望者も経験者が6割だ。
「ここに石を打たれたらアタリになるよね。じゃあ黒石はどうしたら良い?」
紫苑は初心者に丁寧に指導をしている。それと同時に多面打ちをしている。多面打ちと言うのは複数の対局者に1人が相手をすると言う良く有る打ち方だ。静かな教室にパチパチと碁石を打つ音が聞こえる。
「高坂さんは凄いわね。流石プロだわ」
顧問の先生が言った。先生も囲碁のルールは知っている程度だ。
「負けました」
投了の声があちらこちらから聞こえてくる。紫苑は初心者の指導をしながら経験者への対局の感想戦もする。
「ここはぐっと我慢してサガッたほうが良かったね」
「でもここで後手を打ったら不利になるんじゃ」
「プロでも後手は普通に多いよ。先手ばかり取れる訳じゃない」
最後まで打ちきったのは翔太だった。最後まで紫苑に食い下がった。
「翔太は力はあるけど筋はまだまだだね」
紫苑に指摘されると翔太は黙って碁盤を見ている。
「序盤は俺が優勢だった。中盤から難しくなったんだ」
「そうね、でも難しくなる局面は沢山出て来るよ」
頑張って、と紫苑は言った。初心者に簡単な詰碁の問題のプリントを配って部活動は終わった。
「へえ、なかなかの少年じゃないか」
高坂家の晩御飯の時、浩一郎が紫苑に言った。今日は刺身が安かったので刺身とお味噌汁のシンプルな献立だ。
「でもみんな頑張れば大会にだって出られる実力はあるよ」
「部活動も大切だが公式対局も大切にしろよ」
うんと紫苑は言った。囲碁の勉強は孤独なものだ。みんな夜遅くまで1人で勉強をする。研究会もあるがあくまで検討するだけだ。
「今度の市民囲碁将棋大会に出るのが目標なの」
「それは良い事だね。紫苑は部長として監督しないといけないね」
紫苑は忙しくても部活動は必ず顔を出すようにしている。それは孤独な紫苑にとってはみんなと楽しめる貴重な囲碁の時間だからだ。
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