第73話俊哉、浩一郎と同棲したい

3人と会う約束以外は週末はほぼ俊哉は浩一郎さんの家に居る。居心地が良いのだ。俊哉は簿記の3級を合格したので2級に挑戦するため勉強中だ。


「勉強熱心なのは良い事だ」


浩一郎さんは手作りのクッキーとカフェオレを持って来た。


「俊哉、ちょっと休憩しないといけないぞ。根を詰めるのは良くない」


「浩一郎さん、ありがとうございます」


クッキーを食べてカフェオレを飲んだ。充実した1日だ。


「俊哉。ポモドーロテクニックって知っているか」


「いえ、知りません」


「細かく休憩をして集中力を維持する方法だ。良い方法だと思うが」


「なるほど、勉強になります」


勉強も終えて、俊哉は本を読んでいる浩一郎さんのソファの横に座った。


「何を読んでいるのですか」


韓非子かんぴしだよ」


俊哉にはちっともわからない。


「難しい本が好きですね、先輩は」


「そんなに難しくないぞ」


土曜日の昼下がり、特にやるべき用事も無い。俊哉は浩一郎さんに言った。


「浩一郎さん、私、もっと浩一郎さんと同じ時間をもっと共有したいです」


「どうした俊哉。いきなりそんな話を持ち出して」


浩一郎さんにとってはいきなりの話かもしれないが、俊哉には今思いついた話ではない。


「浩一郎さん、私、浩一郎さんと同棲したいです」


「ストレートな言葉だな」


浩一郎さんもそんなに驚いていない。まあ、ほとんど浩一郎さんの家に押しかけている俊哉である。


「それは良いんだが、俺は厳しいぞ」


「何が厳しいんですか」


「部屋を観察してみろ」


俊哉は部屋を見渡した。いつもの浩一郎さんの部屋である。


「もっと見てみろ。埃が落ちているか」


「いえ、落ちていません」


「俊哉が居ない日は毎日掃除をしている。それが俺のハウスルールだ」


浩一郎さんは静かに話をしている。


「俺は散らかったり、汚れている部屋は嫌いなんだ。それでも俺と暮らしたいか」


「はい、暮らしたいです」


本を閉じてしばらく考えた浩一郎さんは言った。


「よしわかった。同棲しよう。しかし俊哉が来るとこの部屋は少々、手狭てぜまになる。叔父さんに物件を紹介してもらおう」


俊哉の心でティンパニーが高らかに鳴った。俊哉は浩一郎の胸に飛び込んだ。


「大喜びじゃないか」


「もちろんです」


「じゃあ叔父さんに早速聞いてみよう」


浩一郎さんはスマホを取り出し、電話を掛けている。


「叔父さん、今良いかい?実は相談があるんだ。この前紹介した田宮さんが居たよね、それでさ、同棲しようとなったんだけど良い物件あるかな。できたら戸建てが良いんだ。そんな物件はあるかな?え、有る?紹介してほしんだけど」


浩一郎さんの叔父さん、高坂源一郎さんは不動産の仲介もしているが実際の職業は不明だ。電話を切り、浩一郎さんは俊哉に言った。


「良いニュースだ。同棲にぴったりの物件があるそうだ。しかもこのマンションから近い戸建てだ。どうだ?」


「はい、ぴったりだと思います。もちろん、私も家賃払います」


「まあ物件は叔父さんだから格安で貸してくれるよ」


俊哉は同棲を提案して良かったと思った。そこに打算は無かった。もし浩一郎さんに断られたら別れるつもりだったのだ。


「そう言えば俊哉と付き合って大分経つなあ。同棲も良いタイミングかもしれない」


浩一郎さんはそっと俊哉を抱き寄せて言った。


「同棲するなら楽しくしたいな」


俊哉は泣きながらはい、と答えた。

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