第102話3人の来訪その2

夕食の時間になった。とりとめのないお喋りをした4人がテーブルに向かい合った。


「わあ、豪華なお造り」


ハマチ、鯛、甘えびのお造りである。ハマグリのお吸い物にぬた。和食メニューだ。


「食器も素敵ですね」


お造りは萩焼の大皿に盛りつけられてある。


「日本酒とビール、お好きな方をどうぞ」


浩一郎さんが勧めた。


「今日はお泊りだから飲むぞ!」


加奈子はそう言った。お風呂に入り、準備は万端だ。


「いただきます」


みんなで乾杯した。浩一郎さんは椅子が無いのでフィリップ・スタルクのスツールに座っている。


「上げ膳据え膳は気持ち良いよね」


「ハマチが美味しい」


お喋りをしながら時間が過ぎて行く。楽しい時間だった。俊哉は川端さんを見た。じっとソファに座っている。気のせいか川端さんも楽しそうに見えた。


「俊哉も浩一郎さんも素敵な同棲生活ね」


チクリと加奈子が尖った言い方をした。


「素直にうらやましいと言えば良いじゃない」


彩がそう言った。


「魚がさばける料理好きな男、生活にセンスがある。そんな男そう居ないわよ。本当に俊哉が羨ましい。私なんか仕事終わって帰ったらお風呂入ってコンビニの弁当食べて死ぬみたいに寝る生活よ」


「まあ営業部は仕方がないわね」


涼子はお猪口ちょこに口を付けた。


「秘書もそんなものよ。疲れ果てて何もやる気が無くなるわ」


「あら、涼子にはゴルフがあるじゃない。私も何か趣味を作ろうかしら」


それが良いわね、と涼子は言った。


「彩は最近どうよ」


「仕事は落ち着いて来たわね。定時に帰れるわ」


「高坂さん、総務部はどうですか」


涼子が聞くと浩一郎さんは答えた。


「毎日仕事に追われているよ。なあ、俊哉」


そうそう、と俊哉は言った。


「3人とも総務は楽じゃないとか思ってない?忙しいんだよ」


「三洋商事はどこも忙しい。どの部署にもまんべんなく仕事がある」


本当に忙しいわね、うちの会社は、と4人は揃って言って笑った。


「まあまあ、今日は仕事の事を忘れて思う存分飲んでください」


「浩一郎さん、そんな事言ったらとんでもない事になりますよ」


俊哉が忠告した。


「まあたまには良いじゃないか。俺も楽しいよ」


浩一郎さんはおもてなしをするのが好きなのだ。


「この、美味しいですね」


「酢味噌を作るのは自信があるんだ」


よし、何か作ってこようと浩一郎さんは立った。4人は甘えて酒を飲む。


「そろそろ昇格人事の季節ね」


「1年早いものね。もうそんな時期」


「この4人の中で誰か昇任するかな」


三洋商事は実力主義だ。仕事ができる人間はどんどん昇任する。努力する人間が報われなければならないと三ツ谷会長の方針である。


食事が終わり、4人ともすっかり。俊哉は浩一郎さんに


「浩一郎さん、すみません、後はお願いします」


「オウ、任せとけ」


4人は寝る事にした。布団は敷いてある。


「ちょっとした小旅行の気分ね」


「うん、料理も良かったしね」


「かなり飲んだわよね」


「店だったらどれだけの支払いになるか怖いわね」


まるで修学旅行の寝る前の中学生みたいだ。


「気を使わないのが最高ね」


4人もしばらくすると眠気が襲って来た。時計を見ると11時だ。


「じゃあもう寝ようか」


電気を消した。すぐに寝息が聞こえてきた。涼子が俊哉をつついて言った。


「俊哉、ここ、女性の霊が居るでしょ」


俊哉は驚いた。


「白いワンピースの女の人。俊哉そっくり。他の人には喋らないわ」


涼子は全てを知っていたのだ。俊哉は頷いて


「ありがとう、涼子。心配要らないよ」


そう俊哉が言うと涼子もそれ以上は追及しなかった。それは涼子らしい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る