第101話3人の来訪その1

「お邪魔しまーす」


加奈子、涼子、彩が俊哉と浩一郎の家にやって来た。


「わあ、これが昭和建築」


加奈子は物珍しそうに言った。俊哉は


「いらっしゃい。ゆっくりしていってね」


と3人を家に上げた。


「すごい昭和モダン」


涼子が驚いている。この家だけが令和の現在にあって時が止まっているようだ。


「広い玄関ですし、動線がしっかり確保されていますね」


彩が家を調べている。


「外観も古びた様子も無いし、不思議な家ね」


俊哉は3人に家の案内をした。


「広い間取りね」


3人は揃って言った。


「テレビは無いの?」


「うん、無いよ」


「退屈じゃない?」


「慣れるとそうでもないよ」


俊哉達はリビングに戻って来た。


「今日は思う存分食べて飲んでください」


「高坂主任、ありがとうございます」


涼子は言った。


「それにしても空気がなんか違和感が有りますね」


そうかい、と浩一郎さんは気にしないふりをした。俊哉に小声で


「この気配、川端さんが出てくるぞ」


「出そうな雰囲気ですね」


そう言っていると川端さんが現れた。いつもの白いワンピース姿。


「他の3人には見えていないみたいだな」


「どういう意味ですか」


涼子が聞くと


「いや、何でもないです。今日はハマチが手に入ったので酒のおつまみにお造りにしようと思ってる。ゆっくり過ごしてください」


4人はリビングでくつろいだ。


「家具のこだわりは俊哉じゃないよね」


「うん、全部浩一郎さんの趣味だよ」


リビングの椅子はイームスの椅子だ。リビングのソファはリメイクされた70年代のアメリカのものだ。やたら大きく、運び入れるのは引っ越し業者に頼んだ。コーヒーを飲みながら4人はお喋りをしている。浩一郎さんは夕食の準備をしている。横に川端さんが居る。


「川端さん、俺と俊哉以外には見えていませんよ」


川端さんは静かに浩一郎のそばに居て離れない。浩一郎は米を研いでいる。


「今日はご馳走ですよ」


涼子はキッチンから浩一郎の声を聞いた。


「ねえ俊哉。キッチンに高坂主任以外に誰かいるの」


俊哉はドキリとしたが


「ああ、浩一郎さんは料理する時は独り言が多いんだよ」


取りつくろった。川端さんが現れたみたいだ。


「お土産持って来たわよ」


加奈子が紙袋を見せた。


「じゃーん、虎屋の羊羹ようかん


川端さんの好物だ。そして俊哉の予想通りに川端さんがこちらへ来た。


「じゃあ浩一郎さんに切り分けてもらってくるね」


俊哉は浩一郎さんに羊羹を持って行った。


「加奈子がお土産に虎屋の羊羹を持って来てくれました」


「よし、川端さんにも切り分けよう」


浩一郎さんはペティナイフで羊羹を切り分けた。


「川端さんの分も持っていってあげてくれ」


「でもおかしくないですか」


「俺が食べる事にしたら良い」


羊羹を持って行った。


「あら、素敵な小皿」


涼子が言った。備前焼の小皿だ。


「浩一郎さんが食器集めが好きで」


川端さんは涼子の隣りに座っている。


「この皿は誰の分?」


「ああ、浩一郎さんの分よ」


「俊哉、この部屋に違和感が有るんだけど」


涼子は勘が鋭い。俊哉は慌てず正直に言った。


「この家は幽霊が出るって言われているのよ」


「霊なんて存在しないわよ」


3人は笑って言った。川端さんは静かに羊羹を見ている。


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