第100話三洋商事ゴルフ大会その2

なんとそのまま独走をした涼子が優勝してしまった。


「スコア90を切る?初心者の腕じゃないな」


浩一郎さんは驚いていた。参加者は皆驚いていた。涼子はパーすらなく、全てバーディーで全コースを終えた。


「これではかなわない」


三ツ谷会長も感心した。


堂々と涼子は優勝賞品の商品券を手に入れた。素晴らしい成績だった。帰りの車は浩一郎が4人を乗せた。車中で


「涼子さん、凄いね」


浩一郎さんは素直に褒めた。


「初出場で優勝なんて凄いよ」


3人もそれぞれ褒めた。車中は賑やかだった。涼子は浩一郎が冷やしてあったビールを飲んでいる。


「もっと成績伸ばせるかと思っていたけどゴルフって難しいわ」


涼子は冷静だ。


「それで涼子、商品券どう使うのよ」


「まずはカルティエで指輪を買うわ。残ったらみんなでランチをしましょう」


いい使い方だと浩一郎は思った。ビールを飲み干した涼子は眠ってしまった。


「そうは言っても相当疲れたみたいね」


彩が言った。


「あれだけ集中していたんだ。疲れもするよ」


加奈子が言った。


「家までそっとしてあげよう」


浩一郎は3人を家まで送った。最後の涼子を俊哉は揺り起こした。


「涼子、家に着いたよ」


いつの間にか眠ってしまったのを思い出したかのように涼子は目覚めた。


「高坂さん、家まで送ってもらってありがとうございます」


ゴルフバッグを担いで涼子はマンションに消えた。


「浩一郎さん、お疲れ様でした」


「いや、大丈夫だよ」


俊哉は浩一郎さんと語りながら家に帰った。


「それにしても涼子さんは凄いな。ゴルフしてまだ1年経ってないだろう」


「うん、休日にはプロの個人レッスンを受けているみたい」


俊哉は浩一郎さんにそう言った。


「涼子は今まで何か打ち込めるものを探していたのかもしれない」


俊哉がそう言うと浩一郎さんは答えた。


「そうか、涼子さんは打ち込めるものができたんだな」


「どれも卒なくこなす涼子だったけどゴルフと出会えてよかった」


俊哉はそう思っていた。涼子は4人の中で話をする時も聞き役に徹していた。加奈子のように強く自己主張する事も無かった。


「何か打ち込める事をさがしていたのかもしれない」


浩一郎さんはそう言った。


「仕事もプライベートも充実して本当に良かった」


俊哉は安心していた。心配するくらい涼子は自分の悩みを打ち明けない。強がりとも取れるがそうではない。涼子は強い人間だ。だからゴルフと出会って世界がひろがったのだと俊哉は考えている。


「それにしても浩一郎さん、お疲れ様でした。ところで浩一郎さんの成績を聞いていなかったんですけどどうでしたか」


「いや、散々だったよ。もっと練習しなければいけないな」


浩一郎さんは頭を掻いた。浩一郎さんの癖だ。


「今日は1日俊哉も大変だったな。応援お疲れさま」


「ゴルフコースってあんなに広いんですね。かなり歩きましたよ」


「そうだろう、結構ハードなスポーツだ。その中でもプレイに集中するのは並大抵の事ではない。プロもアマチュアもな」


部屋に戻った涼子は玄関にゴルフバッグを置くと優勝賞品の商品券をテーブルに放り投げた。綺麗に整っている涼子の部屋は主人を優しく迎え入れた。ベッドに倒れ込んだ涼子は


「今日は本当に疲れた」


何もせずに眠り込んでしまった。涼子にしては珍しい事だった。

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