第109話サキュバス

三洋商事には各部署でヒアリング、聞き取りがある。仕事に対する意欲、目標などを聞き取るものである。新人のヒアリングは主任と係長補佐が同席して個室で始める。堅苦しいものではなくて、趣味の話や雑談もある。最初に望月が呼ばれた。俊哉と浩一郎が同席している。


「入ります」


ドアを開けた望月は礼をした。マナーは問題無いようだ。


「望月君、座ってください」


浩一郎さんがうながした。


「三洋商事ではこのヒアリングを参考にして個々の社員の希望や要望を聞き取ります。まあそんなに堅苦しい事は聞かないので安心してくれ」


「はい、承知しました」


ヒアリングが始まった。浩一郎の質問に望月が答えていく。三洋商事へ求めるもの、仕事への抱負、将来どうなりたいか、要望。これは俊哉も経験した事だ。聞き取りをしていると望月がかなりの野心家であることが垣間かいま見えた。だいたいの質問を終えた後、雑談に入った。これも三洋商事では重要な事で、社員の趣味や嗜好を把握する事で管理職の業務を円滑にするための大切な事だ。


「ところで望月君、君の好きな事はなんだい?」


「エッチな事です」


隣りで水を飲んでいた俊哉が吹いた。あまりにもあけすけに答えた望月に驚いた。しかし浩一郎は冷静に聞いている。


「エッチな事とはセックスの事かね」


「それも入りますね」


「好みのタイプは居るのかい」


「高坂係長補佐のような男らしい人が好きです」


「とは言え君は両性具有者と公言しているね。セックスの対象は男性だけかい」


「いえ、女の子を悦ばせる事も好きです」


「男女関係なくという事だね」


「はい、そうですね」


浩一郎さんは少し笑った。


「君ほど正直な人に初めて出会ったよ。心配しないでくれ。この内容はここだけの秘密だ」


「いえ、書いていただいて結構です。私にとって重要な事ですから」


望月はあっけらかんとしている。俊哉は淫魔、サキュバスをイメージした。


「君の性的嗜好は仕事とは関係無い。しかしチームワークを乱すような事はしないでくれよ」


「高坂さんはお堅い人ですね。普通の男性はそれで簡単に落とせるんですが」


「望月さんはどうしてセックスが好きなの?」


俊哉が望月に質問した。


「性行為では人は嘘をつけません。だからエッチな事は私にとって大切なコミュニケーションなのです」


浩一郎は考えている。質問が出た。


「君は色恋沙汰はどうやって解決してきたんだ」


「なんの問題も有りません」


望月は自論を展開しだした。


「ボノボと言う猿を知っていますか?彼らはグループ間での争いはセックスで解決するんです。異性、同性関係ありません。私の考えもそれと同じです」


「ボノボの話は聞いた事が有る。しかし望月君、最近はそんなに割り切ってセックスをしないでそこから恋愛に至る場合もある。そんな時はどうするんだい」


「心配ありません。いつでも問題無くそういった事は解決してきました」


何の心配もしていないようだ。


「そんな事より高坂さん、私を抱いてみませんか」


「それはお断りするよ」


「恋人が居るんですか」


「ああ、隣の田宮主任だよ」


ええっと望月は驚いた。と言うよりは驚いてみせた。


「高坂係長補佐は田宮主任みたいな人がタイプなんですね。心配は無用です。私は恋人が居る人とは関係を持ちませんから」


ヒアリングが終わり、望月は退室した。俊哉と浩一郎は2人で顔を見合わせた。


「とんでもない人が総務に来ましたね」


「望月は淫魔、サキュバスだな」


頭が痛くなるよ、と浩一郎は言った。

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