第108話補充人員

俊哉と浩一郎は管理職の会議に出席していた。


「前回退職した人員の補充が採用試験で選抜された」


部長の言葉には何か重さがある。


「今回採用されたのはトランスジェンダー1名と両性具有者の2名だ」


「両性具有者?」


俊哉が部長に質問した。


「ああ、珍しいな」


「総務部は多様性の象徴になりましたな」


係長は疲れたような言葉を発した。色々と気を使う。


「それでその両性具有者とはどんな容姿ですか」


浩一郎が聞くと


「なんでも凄く可愛いそうだ」


部長は答えた。


「そこでだ、今回の新人教育は田宮君に任せたい」


「承知しました」


俊哉は答えた。


「田宮君には色々と苦労をかけるが適役が君しか居ないんだ。忙しいと思うがよろしく頼む」


「部長、提案があります。私も田宮の補佐に入りたいと思います」


浩一郎が提案し、部長も同意した。


「うむ、よろしく頼む」


俊哉は浩一郎さんを心配した。係長補佐は雑務を管理する忙しい立場だ。


「よし、決まったな。会議はこれにて終了する。田宮君は会議録を頼む」


会議は終わった。俊哉と浩一郎は会議室に残って話し合った。


「両性具有者ってなんだ?」


俊哉はスマホで調べてみた。


「男性と女性の両方の性を持っているそうです」


「可愛いとは言っていたから見た目は女性なんだろうな」


「そうでしょうね」


「だとしたらロッカールームは俊哉と同じだろうな」


「はい、そうなるようでしょうね」


俊哉達の使用しているロッカールームにはまだ余裕がある。


「しかし総務部は混沌としてきたな」


「でもどんな人か気になります」


「デスクは神崎と坂田の隣りにしよう。2人とももう先輩だからな」


新入部員初出社の日。総務部員は新人を楽しみにしていた。


「おい、今回の新人はめちゃくちゃ可愛い子らしいぜ」


「可愛いだけなら良いんだがな」


「それでも俺は田宮主任推しだぜ」


新入部員が入って来た。1人は可愛いショートボブの見た目は可愛い女子。もう1人は長身のトランスジェンダー。


「はじめまして。望月隆志です」


可愛いな、と俊哉は思った。どう見ても女の子だ。


「はじめまして、中村陽子です」


低めの声で挨拶をした彼女はやはりトランスの人間だ。


「2人ともわからないことだらけだと思うが、部員のみんなは協力して業務を教えてやってほしい」


俊哉はそう言って朝礼を終わらせた。部員はそれぞれ業務にかかった。望月と中村は俊哉の机の前に並んだ。


「はじめまして、主任の田宮です。わからないことだらけだと思うけど、その時は私を頼りに、先輩達にアドバイスを乞うように」


田宮は神崎を呼んだ。


「田宮主任、どうされましたか」


「忙しい所すまないが2人に会社案内をしてくれ」


神崎ははい、と答えた。


「じゃあ、2人とも案内するからついて来て」


3人は俊哉のデスクから離れた。浩一郎さんが俊哉に話しかけた。


「どうだ、見た感じは」


「望月さんは可愛いですね。中村さんはもう私と同じトランスジェンダーです」


「総務部もどんどん変わっていくな。何か問題があれば俺に相談しろよ」


「はい、わかりました」


俊哉は2人を見て対照的だな、と思った。両性具有者とトランスジェンダー、何か波乱がありそうだがまだ何も問題は起こっていない。神崎と佐田と同じように長い目で見てあげようと思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る