第23話小紫詩織

「あの女、最近先輩に絡んでるな」


俊哉は気が気でならない。先輩と小紫が何か談笑しているが内容はわからない。気にしないと思っても、視野に入って来る。俊哉は悶々としていた。


「あら、それは嫉妬ね。わかりやすい」


4人のお昼休み。俊哉は思わず打ち明けた。


「うーん、高坂さんは大丈夫な気がするけどな」


気にしたって仕方ないじゃない、と加奈子は言った。実際、加奈子の言う通り俊哉は先輩を信じるしかない。


「あっ、また喋ってる」


ムクムクと負の感情が沸き起こって来る。しかしある言葉を先輩が発した。


「小紫、雑談は止めて仕事をしろ」


先輩は良く聞こえる声で言った。すみませーんと小紫はデスクに戻った。先輩、やったね!


「そうだ小紫、仕事しろ!」


キーボードを操りながらそう思う俊哉だった。


「でもバレてからそう言う事しているのは何か当てつけのような気もするわね」


涼子はそう言った。


「でも信じてあげないとね」


そうなのだ。先輩を信じるしかない。俊哉はデスクに戻った。先輩は仕事をしている。


「これが嫉妬なのか」


俊哉は自分の感情が揺り動かされているのを実感した。


金曜日、俊哉はお泊りで先輩の家に行く約束をしていた。家に着くと先輩は晩御飯を作っていた。


「オウ俊哉。仕事お疲れ様」


「先輩もお疲れ様です」


俊哉はビールやおやつを買いこんできた。


「ビールも買ってきたのか、お金使っただろう、大丈夫か?」


「問題ありません。それよりも」


ビールが入った袋をテーブルに置いて、トトトッと先輩に詰め寄り、先輩を抱きしめた。


「どうした俊哉」


「先輩、最近小紫さんと仲良いですよね」


「俊哉、どうした?」


ギュッと抱きしめて俊哉は何も言わない。


「小紫は駄目だ。人事考査も下がるだろう。お喋りが過ぎる。総務部には必要ないな」


俊哉はパッと先輩の顔を見た。先輩は俊哉が思うより冷静で、厳しい目で見ている。


「先輩はあくまで冷静ですね」


「それが俺の仕事だからな」


「どうした、やきもちでも焼いたか」


俊哉は頬を赤く染めて


「そんな事ありません」


そう言ってうつむいた。


先輩は片手でクイと俊哉の顎を上げてキスをした。


「心配するな。俺はお前に惚れている」


「先輩、先輩のそう言うところが好きです」


「そうか、ありがとう」


2人は抱き合った。俊哉が先輩を抱きしめる時、大きな海に飛び込んでいるかのような気持ちになる。


「今日は脂の乗った良いさばが手に入った。季節外れだが味噌煮にしよう。ビールにも合うだろう」


翌月曜日。俊哉が仕事の準備をしていると小紫がやって来た。


「田宮さん、高坂主任とお付き合いしているんですか」


「ええ、お付き合いさせてもらっているわ」


「男のくせに女みたいにして。それで高坂さんと釣り合うとでも?」


「それは高坂主任が判断するところよ。ところで就業時間だけどそんなお喋りしていて大丈夫なの?」


「うるさい!この男女」


その場が静まりかえった。


「何とでも言えば良いわ。あなたの言う通り、男女よ。それがどうして?」


小紫はくるっと後ろを向いて去って行った。俊哉も何事も無かったようにデスクに向かった。


給湯室で女子社員が陰口を言っている。


「小紫がやられていたわね」


「田宮もいつかボロを出すわ。それまで待ちましょう」


お昼休み。4人は盛り上がっていた


「俊哉、やるじゃない」


「よくやった!」


「胸がスカッとするわ」


3人がそれぞれ褒めてくれた。


「それくらいのメンタルが無きゃやってられないわ」


「よし、今日は飲みに行こうか」


4人はいつでも変わらない。




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