第24話ホルモン治療

「田宮さん、どうぞ」


クリニックで名前を呼ばれて俊哉は診察室へ入った。女医の石塚先生だ。


「ふっくらと女性らしくなりましたね」


俊哉は性転換手術後も治療を受けている。ホルモン療法だ。女性ホルモンの注射と内服薬を飲んでいる。


「なるほど、特に副作用も無く、治療は成功ですね」


石塚先生はそう言ってくれた。しかし安心はできない。いつ重篤な副作用が起きるかは未知数なのだ。俊哉は女性へ性転換するために出来うる限りの事をしてきた。性転換手術は特に心身に負担が大きかった。始めておしっこを出来た時は感動した。医学の進歩で私は女になったのだと感謝した。


「じゃあいつものお注射と飲み薬お出ししますね」


「先生、私、彼氏ができたんです」


「あら、素敵じゃない。おめでとう」


先生は祝福してくれた。


「恋愛はセロトニンや色々身体に良い物質が作られます。恋愛、頑張ってね」


先生は他にもエストロゲンが作られたりと良い事があるらしい。


「元男だけどエストロゲン出るのかな」


薬局から出て来た俊哉は日傘をさした。7月ももう終わりで、今年の夏も暑くなりそうだ。


「夏の思い出作りたいな」


そう思いついて俊哉は先輩と海に行きたいと思った。先輩なら断らないだろう。いつも車だけれど電車で行くのも悪くない。思い立ったが吉日、早速俊哉は先輩に電話を掛けた。


「オウ俊哉。どうした?」


「先輩、海に行きませんか」


「海か。良いな。2人でか?」


「はい、2人きりで行きたいです」


「よし、じゃあ行こうか」


「車で行くのが楽なんだが道は混むし、車にイタズラされるのは嫌だから電車にしよう」


「私もそう思ってました」


「じゃあ内緒でな。詳しくは俺の家に来てからだ」


「はい、先輩」


「あと1つ良いか?」


「はい?」


「先輩じゃなく、浩一郎と呼んで欲しい」


「わかりました。浩一郎さん」


「俊哉。気を付けて家に来いよ」


電話を切って俊哉は足取りが軽くなった。そうだ、水着を買いに行こう。3人と買いに行くと絶対ついて来るから内緒にしておこう。


「どれにしようかな」


デパートの水着売り場まで来た。結構賑やかだ。どれが良いかな、と迷っている。浩一郎さんなら白のビキニかな?でも大胆過ぎるか。パレオのついたやつなら良い感じ。よし、これにしよう。店員さんに声を掛けた。


「この水着のバストが1番小さいやつください」


「それでは採寸してからでも良いと思いますよ」


言われるがままに試着室まで来てしまった。採寸用のコーナーもある。


Tシャツを脱いでブラのみになる。ぺたん子。店員さんは丁寧に採寸してくれて、アドバイスもしてくれた。


「カップが小さいのが気になるなら、パッドを使えば良いですよ」


なるほど、その手があったか。1枚だけ入れてみようか。


「ではこのサイズが良いですね」


「はい、これください」


ありがとうございます、とレジまで持って来てくれた。そうだ、水着になるのは初めてじゃないか?


「オウ俊哉。病院時間かかったな」


「浩一郎さん、病院の後に水着買ってきた」


「良いじゃないか。海で見るのを楽しみにしよう」


俺はファイトショーツで良いか、と浩一郎さんは言った。ファイトショーツって何だろう?その時はあまり気が付かなかったが後でとんでもない事になる。


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