第22話胴田貫

「お邪魔します」


俊哉が合鍵を使って先輩の部屋に入った。


「オウ俊哉。今日も可愛いぞ」


「先輩、何やっているんですか」


「刀の手入れだよ」


そう言えば先輩のクローゼットに袴があったな、と思い出した。先輩に聞いてみた。


「ああ、今度演武会があって出るから準備しているんだ」


「先輩は何流ですか?」


「無外流だよ」


凄いですね、と俊哉は思った。この巨体から繰り出される剣はどんなものだろうかと興味を持った。俊哉は近くで先輩を見る事にした。


「先輩、これから何するんですか」


「刀装を変えるんだ」


プラモデルのように鍔を嵌め込んで、柄を取り付ける。目釘で鞘を固定して完成だ。


「昔の人もこうして手入れしていたんですね」


「そうだよ。これは何年経っても変わらない」


手入れをして箱に入れる。刀箪笥と言うらしい。


「ああそうだ、チケットがある。良かったらみんなで観に来たら良いよ」


先輩がチケットを4枚取り出した。観戦優先席と書いてある。


「基本的に無料なんだが、良く見える席はチケットが必要なんだ」


日本全国から諸流派の演武が見れる。


「先輩は何するんですか」


「青竹を切ろうと思う」


何だかよくわからない。


「行けばすぐわかるさ」


後片付けをして、2人でお茶をした。


翌日の月曜日、ロッカールームでチケットの事を話した。


「ああ、それ、有名な演武大会だよ。海外のテレビ局も来るわよ」


涼子がそう言った。


「へえ、面白そうね」


「行ってみましょうよ」


4人、行く事が決まった。


「さあ、仕事、仕事」


俊哉も職場へ向かった。また1週間が始まる。バタバタと忙しく過ごすとあっという間に日曜日になった。待ち合わせ場所に4人は集合した。


「あの建物ね」


意外と人が多い。関係者だろうか?


「高坂さんの出番はいつだろうね」


加奈子が言った。まあ、観ていたら出番は来るだろう。アナウンスがあり、演武が始まった。俊哉には良くわからないが、型の演武が殆どみたいだ。俊哉は隣の席から聞こえる会話に興味が有った。


「今年も無外流の高坂さんが出るらしいぜ」


「あの人の居合が凄すぎるからな」


「恐ろしいよな」


「あの人の刀、胴田貫どうたぬきらしいな」


「凄いな。新刀かよ」


何やら先輩は有名らしい。色々な流派が演武を始めて終えて行く。アナウンスが流れた。


「次の演武は無外流です。出演者は高坂浩一郎さんです」


場内がざわついた。注目されているのだろうか。何か会場で準備がされている。


「やっぱり据え物斬りだ」


さっきの隣の観客から声が聞こえて来た。またアナウンスが流れた。


「それでは無外流免許、高坂さんの演武です」


先輩がゆっくりと進み出て来た。腰にはあの刀が差されている。先輩は何やら演武をしていたがそれもしばらくすると終わった。


「それでは高坂さんの据え物斬りです」


先輩はまた進んで正座をした。目の前には青竹が立ててある。正座をしていた先輩は


「鋭!」


と鋭い声を出すと飛び上がった。そして着地すると青竹が3つに切り分けられていた。おおっと会場がどよめき、拍手が先輩に送られた。


「凄いわね。飛び上がった所しか見えなかったわよ」


俊哉は思い切って隣の人に聞いてみた。


「青竹をああして斬るのは凄い事なんですか?」


「凄いも何も、青竹斬りは相当な熟練者しかできません。見えましたか、1回でも難しいのに返す刀で2回斬った。それも殆ど見えません。免許の腕前です。高坂さんの演武を毎年楽しみにされている人も多いんですよ」


先輩は礼をして去った隣の人は


「彼は最後の侍かもしれませんね」


と言った。


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