第21話アンダーカバーその2

「若林さん、お久しぶりです」


俊哉はその女性に声を掛けた。


「俊哉、おめでとう。今日は記念すべき日。奢るわよ」


バーが満席になった。


「ねえ俊哉。彼氏ちょっと貸しなさいよ」


若林は俊哉に言った。


「良いですよ」


もはや俊哉は諦めている。


「貴方お名前は?」


「高坂と申します」


「高坂さんのお話聞きたいな」


ぐいと手を引いて先輩は連れて行かれた。


「まあ、仕方が無いわね」


加奈子が言った。


「高坂さんなら大丈夫でしょ」


涼子はカシスソーダを飲みながら答えた。


「若林さんは恋多き女だからなあ」


俊哉は心配である。若林さんにいじられて先輩に何も無いと良いけど。


先輩の座るテーブルは1つ向こう隣なのでどんな会話をしているか聞き取れない。


「若林さんって凄いらしいね、アレが」


「馬鹿、今は俊哉が居るでしょ!」


「ところでどこまでやってるの?」


俊哉は耳を真っ赤にして


「そんな事言えるわけないじゃない」


恥ずかしい。俊哉はやっぱりここに来るべきではなかったかと今更ながらに後悔している。しばらくすると先輩が戻って来た。


「若林さん、どうでしたか?」


涼子が聞くと


「意外と良い人だったよ」


先輩がそう言うではないか。驚いた。


「俊哉といつまでも仲良くしてくださいって言ってたよ」


意外な若林さんの言葉に俊哉は驚いた。そんな性格の人だったかな?でも先輩も大丈夫そうだし、良かった良かった。


「ところで俊哉はなんでアンダーカバーを知ったんだ?」


「ネットで調べて出て来たの」


そうか、と先輩は行っておかわりのワイルドターキーのロックを飲んだ。


「と言う事は4人もここで知り合ったんですね」


「そうよ、歳も同じだったし、意気投合したわね」


「三洋商事の求人は涼子が見つけたわね」


ほう、と先輩は身を乗り出した。


「それで4人で入社試験を受けたんですね」


高坂は黙っていた。筆記試験で満点だったのはこの4人のみだったことを。


「まさか全員合格するとは思わなかったわよねぇ」


「運が良かったんだよ」


先輩は黙って聞いていた。


「三洋商事は運では入社できませんよ」


三洋商事は業界では異端児である。しかし業績はトップクラスである。有名な大学を出たくらいでは採用されない。就活生の中では


「東大を卒業しても採用されない会社」


として有名である。三洋商事では学歴は重要視されない。個人の能力が全てだ。


「おっと休日に仕事の話もなんかイマイチですね」


先輩は俊哉の顔を見て、言った。


「そろそろ帰ります」


「え、もう帰っちゃうの?」


加奈子が言った。


「すっかり酔ってしまいました。今日はここまでで、俊哉に介抱してもらいます」


「それじゃ仕方が無いわね」


「若林さん、僕らこれで帰ります」


「あらそうなの?支払いは私がするからそのまま帰りなさいよ」


そうは言ってくれたが先輩はそっと会計を済ませた。アンダーカバーを出た。もうすっかり夜になっている。


「俊哉。これから寿司でも食べようか」


「酔っぱらったんじゃないの」


「あれくらいの量では酔わないよ」


「先輩も役者ですよね」


よし、と先輩はスマホを取り出し、電話を始めた。


「ええ、2人、カウンターで」


しばらく話をして、電話を切った。


「カウンター、空いてるって。早速行こうか」


「うん、お寿司楽しみ」


「寿司ってさ、俺が1番好きなのはこの時期なんだ。種類は限られるけど美味しいネタも沢山有るんだ」


「じゃあ私も先輩と同じものを頼みます」


夜の街に2人は消えて行った。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る