第20話アンダーカバーその1

「どうした俊哉、あまり元気が無いな」


先輩はTシャツにデニムパンツ。逞しい腕が目立つ。俊哉はブルーの半袖のワンピースを着ている。


「先輩、今日は朝まで帰れませんよ」


「なぜだ?」


「そういう人達が集まるんです」


「なんだか良くわからないな」


「行けばわかりますよ」


繁華街を少し離れた場所に、アンダーカバーと小さな看板があった。


「目立たない看板だな」


先輩はそう言ったが、俊哉はハァと深い溜息をついた。


「俊哉は乗り気じゃないのか」


「いえ、そんな事じゃないんです。説明すると長くなります」


俊哉がドアを開けた。黄色い声が聞こえた。


「あら、俊哉ちゃん、いらっしゃい。お久しぶりね」


一見男性に見えるが女性であるバーのオーナーだ。


「そちらは例の彼氏さんね」


もう話が広まっている。あの3人の誰かだ。


「ささ、カウンターにどうぞ」


勧められて2人はカウンターに座った。


「俊哉ちゃん、何飲むの」


「ハイボールちょうだい」


「彼氏さんは?」


「適当にウイスキー、ダブルをロックで」


オーナーが酒を作っているのを見ながら先輩が言った。


「別に普通の店じゃないか」


「先輩、まだお客が来ていません」


「どういう事だ?」


「このバー、トランスジェンダーの集まる店なんです」


「まあそれは聞いた事しかないけど、ゲイバーみたいなものじゃないのか?」


「ゲイバーなんて優しいものです。アンダーカバーは違うんです」


ドアが開いた。三洋商事の3匹狼だ。


「おっ、お2人さん早いね」


加奈子が言った。涼子と彩も居る。


「あらいらっしゃい。お好きな席にどうぞ」


「高坂さん、俊哉、テーブル席しましょうよ」


2人共断る理由も無かったのでテーブルに移動した。


「3人ともいつものでいい?」


はーいと元気良く返事をした。


「ハイボールとウイスキーのロック、お待たせしました」


男性のボーイが酒を運んで来た。


「俊哉、もしかしてこのボーイさんもか」


「そう、元は女の子」


なるほどねぇ、と先輩は感心している。


「どう見ても男じゃないか」


「トランスジェンダーは性同一性障害が殆どです」


トランスジェンダーは子供の頃から悩む人が多い。


「バーのオーナーもボーイの彼も性転換手術を受けて戸籍では男ですよ」


「こう言うのもなんだが、手術って何をするんだ」


「男性になる手術は子宮、卵巣摘出。膣道閉鎖、乳房切除、陰茎形成ですね」


「おいおいそんなに大変なのか」


「女性になるには陰茎切除、陰嚢切除、膣形成ですね」


「どれも辛そうに思えるな」


「そうです。性転換手術は辛いんです」


「そうですよ高坂さん。トランスジェンダーは茨の道です」


涼子が言った。


「でも戸籍の性別変更は感動したなあ」


彩は感慨深く言った。


「これで女の子になったんだって」


「まあ始まりなんだけどね」


加奈子も同意している。先輩が


「いや、このメンバーでは普通に可愛い女の子に見えるよ」


「いや、高坂さん、甘い甘い。女の子になるのもそんなに甘くないわよ」


加奈子が言った。


「高坂さんは俊哉とお付き合いしてるんだからもっと知識をつけないと。俊哉とはそういう話はしているの?」


先輩と俊哉は顔を見合って


「いや、特にそんな話はしてないですね」


「やっぱり!浮かれてそんな話をしてないんでしょ」


これから勉強します、と先輩は頭を掻いた。


店のドアが開いた。


「俊哉に彼氏ができたって本当?」


これまた綺麗な女性が店に来た。と同時に続々とお客さんが入って来た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る