第19話居酒屋緊急会議
先輩と私達4人が居酒屋へ集まった。
「さて、高坂さん、どうするんですか」
加奈子が先輩に詰める。ゴクゴクとビールを飲んで先輩は答えた。
「どうもこうも無いだろう。付き合っている事は事実なんだから」
先輩はあまり気にしていないみたいだ。
「高坂さんにはわからないかもしれませんが、恋愛は私達にとってすごく重要な問題なんです」
彩が言った。トランスジェンダーにとって恋愛は大切な問題だ。特にノーマルのタイプと恋愛関係になるのは希少だ。
「高坂さんはトランスジェンダーについてどう言う意見を持っているんですか?」
「好きになった相手がたまたま元男だった、と言う事なだけだ。それ以上でもそれ以下でもない」
3人は不思議な目で先輩を見た。何か珍しい物を見るかのように。
「俊哉は幸せ者よね」
「うん、そう思う」
「出会うべくして出会ったのね。運命だわ」
3人は賛辞を2人に送った。
「で、どこまで進んだの?」
涼子が俊哉に聞いた。そこで先輩が口を挟んだ。
「行くところまで行ったよ」
ガタン、とテーブルが鳴った。加奈子がジョッキをテーブルに置いた音だ。今にもジョッキが割れそうな勢いである。俊哉は耳を真っ赤にして下を向いている。
「今までほぼノロケ話にしか聞こえていないんだけど」
涼子もビールをあおっている。
「何とも羨ましい話ですね」
彩が言った。
「おめでたい話なのに何なのこの雰囲気は。いけないわ」
はてこれは一大事と集まったのに何故か俊哉のノロケ話を聞く会になってしまっている。
「さあ、ちょっとここらあたりで話題を変えましょうか!」
加奈子もビールをおかわりしている。
「で、高坂さんは俊哉と将来の事、考えているんですか」
加奈子が聞くと先輩は何の問題も無いかのように答えた。
「俊哉となら結婚も良いかな、とは思っている」
「先輩!」
本音をガンガン言う先輩に流石に俊哉は割って入る。
「良いじゃないか。俺達恋人だぜ」
「もう!先輩、後は私が話すので黙っていてください」
「良いじゃないの。俊哉はあんまり話をしないから、高坂さんから聞かないと」
涼子は冷静だ。
「もし俊哉が結婚まで行けば私達のアイコンになるわ」
「今私、セロトニンガンガン出てるわ」
そうなのだ。トランスジェンダーの当事者はたとえ戸籍上は女性になっても世間では男として見られるのである。世間は寛容になったと言われるが、全然そんな事は無い。
「ねえ、私に提案があるんだけど」
涼子が言った。
「アンダーカバーに2人を連れて行かない?」
アッと俊哉は声を出した。
「それだけは駄目」
「良いじゃない。皆に祝福してもらおうよ」
「そうね、それが良いかもしれない」
彩も同意した。
「仲間、いや同志に高坂さんと俊哉の今を共有するの」
「いや、今の4人でも十分だよ」
「高坂さんも私達の事、もっと知りたくないですか」
「ああ、知りたいな、そのアンダーカバーと言うのは何かのイベントかい?」
「違います。バーですよ」
「なら問題無いな。俊哉、行ってみよう」
「先輩、アンダーカバーはいけません。色んな人が来るんです」
「色んな人とはどういう事だ」
「LGBTQの人達が集まるんです」
「俺もそういう人達を知りたい」
「じゃあ決定ね。来週の土曜日、アンダーカバーで」
俊哉は頭を抱えた。修羅場にならないと良いけど。
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