第26話話題になる
「ねえねえこれ、高坂さんよね」
加奈子が俊哉にスマホを見せた。動画には先輩が相手を持ち上げている動画だ。もちろん、海に行ったあの日だ。これはまずいんじゃないか。
「なんで高坂さんは海に来ているの?」
「私と海に行きたいって」
「デートでなんで対決しているの?」
「私がナンパされて困っているのを先輩が助けてくれたの。そしたらなんか私を賭けて対決になったんだけど先輩が勝って」
そりゃそうよ、勝たないと俊哉が連れていかれるじゃない、と至極当然な反応だ。
「でも凄いよね、最後相手失神しちゃってるし」
「でも犯罪ギリギリじゃない?」
涼子が言った。俊哉から血の気が引いた。
「でも審判も居たし、喧嘩じゃないよ」
「だと良いんだけどねえ」
彩は心配そうに言った。
俊哉は総務部へ向かった。挨拶をしながらデスクへ向かうと、浩一郎さんが囲まれている。
「高坂主任、めちゃくちゃ強いじゃないですか」
部員にそう言われた。
「どうして海に行ったんですか?」
「デートだよ」
「誰と?」
「田宮とだよ」
視線が俊哉に向かう。
「田宮さんと海に行ったんですね」
女子社員が聞いた。
「そうだよ」
さあ、朝礼だぞ、と浩一郎さんは言った。しばらくして朝礼が始まった。朝礼が終わり、課長に浩一郎さんが呼ばれた。しばらく会話をしていたが、浩一郎さんは自分のデスクに戻った。俊哉は心配になり、仕事のふりをしてメモを渡した。メモを読んだ浩一郎さんは笑顔で親指を上げた。サムズアップ。
「まあ大人なんだから喧嘩はしないようにとの事だったよ」
帰り道、2人は揃って帰った。
「まあちょっとバズったが、大した騒ぎにはならんだろう」
俊哉は思い出す。あの時の先輩の表情は決して俊哉には見せない。強い表情である。俊哉は質問した。
「浩一郎さんは何か格闘技をしていたんですか」
「ああ、ブラジリアン柔術をやっていた」
「どおりで落ち着いていたんですね」
「ああ、相手も相当自信があったみたいだな」
相手のタックルにも動じない浩一郎さんは凄い。俊哉は褒めた。
「まあ、体重差もあったからな」
2人別れて俊哉は家に着いた。ネットで調べるとやはり動画はまだあった。閲覧数が5万もある。バズっている。調べて行くと解説動画まであった。俊哉はその解説動画を観た。
「このグラップリングのビーチ対決は体格差もありましたが、負けた方も相当な実力があったに違いありません。それほど鋭いタックルでした。しかし相手が悪かった。相手は非常に腰が重い。がぶられたのもタックルと言う選択が失敗だったかもしれません」
動画を観ながら解説をしている。
「ここでバスターになるのですが、相手はバスターを選択せず、あくまでバックチョークへ移行するためにむしろ相手を地面に置いたと言って過言はないでしょう」
浩一郎さんが首を絞める動作をストップして、また解説が始まった。
「このバックチョークも素早い。相手はチョークも警戒できたでしょうがその上を相手は言っています」
首を絞められ、失神したところで動画はまた解説に入った。
「どうやらこの大きな対戦相手は総合格闘技かブラジリアン柔術を経験しているでしょう。調べれば判明しそうですが」
そこで動画が終わった。俊哉は考えた。ネットでは調べて相手を特定する人達が居る。浩一郎さんは過去を多くは語らない。もしかしたら過去を知る事ができるかもしれない。でもそれはやめておこう。浩一郎さんから聞きたい。俊哉はノートパソコンを閉じた。
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