第152話お風呂
高坂家のお風呂場は広い。昭和の作りを壊さないように最新の給湯器を設置した。俊哉と浩一郎のこだわりだった。最近、俊哉と紫苑はいっしょにお風呂へ入る事が多かった。
「紫苑ちゃん、学校はどう」
「まあまあ楽しいよ」
紫苑は俊哉の身体を観察する。胸は大きくないが華奢でとても元男だったとは思えなかった。
「お母さん、どうして女の子になりたかったの」
「それはね、お母さんは子供の頃から自分は女の子だと思っていたからよ」
俊哉は性転換を隠しもせずに紫苑に伝えた。紫苑は俊哉の背中を洗いながらその話を聞いた。紫苑は俊哉の事を好ましく思っていた。お母さんは本物の女の人だ。
「じゃあお母さんも紫苑の背中を洗ってあげる」
俊哉は紫苑の背中を洗ってあげた。浴室はタイル職人の精巧な技術で綺麗な、そして清潔なお風呂の印象を受ける。
「院生の方はどう」
「3段に昇段したよ」
「凄いね、もう少しでプロじゃない」
2人は身体を洗って湯船に入った。
「家のお風呂、広いよね」
「設計した人のこだわりかな」
俊哉と紫苑が浴槽に入っても余裕がある。
「お母さんはお風呂がこの家で1番好きかな」
「紫苑もこのお風呂大好きだよ」
紫苑は施設の浴場を思い出した。ただ古くなったその浴場は嫌いではなかったけれど、ゆっくり1人で入りたかった紫苑にとっては今は満足している。
「ねえ、お母さん。私、囲碁で強くなりたい」
「じゃあ頑張るしかないね」
俊哉の言葉は優しかった。それは育ての親の言葉ではない。産みの親の言葉である。紫苑は湯船で伸びをした。
「紫苑、1日の中で囲碁の勉強の次にお風呂が好き」
「それは良かったねえ」
紫苑は白い俊哉の身体を見るのが好きだった。美しい肌、すらりとした肉体、綺麗な髪。それは本物の女性が憧れるものだ。紫苑は至って普通の小学生の女の子だ。
「お母さんは普通の女の子よりずっと女の子だよ」
「ありがとう、紫苑ちゃん」
2人は髪を洗う事にした。俊哉は
「髪を切ろうかなと思っているの」
「お母さん、それはもったいないよ」
癖毛の紫苑からすると俊哉の髪の毛は理想なのだ。
「そっか。じゃあ毛先だけ切ってもらおうかな」
2人はシャンプーをしてトリートメントをした。トリートメントの香りが浴室に満たされる。
「お母さん、このシャンプーとトリートメント、すごく良いよね」
「美容室のお勧めのをまとめて買ってあるのよ」
紫苑の髪質も癖はあるものの、髪質は良くなった。高坂家に迎え入れられるまでは櫛も通り辛いものだったが今はそれが無い。良いシャンプーは凄い。トリートメントも凄い。2人は髪を洗った後、また湯船に入った。
「お風呂は天国だよね」
「うん」
「お風呂で仕事の疲れが取れるの」
「お母さんの仕事は大変なの」
「そりゃもう大変よ。部下の悩みも聞かなきゃいけないし、自分の仕事も有るし。でもやりがいがあるの。そして紫苑がこの家に来てくれて嬉しかった」
紫苑は俊哉の隠し事をしない性格が好きだった。だから紫苑は俊哉が好きなのだ。
「冬はお風呂が長くなるね」
「うん、でも大好き」
「お母さんも大好きだよ」
2人は幸せだった。紫苑は今まで楽しいお風呂を知らなかった。だから高坂家のお風呂が大好きなのだ。
「おい、お2人さん、晩御飯の準備ができたよ」
浩一郎の声にはーい、と返事をする俊哉と紫苑だった。
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