第91話テレビ取材その2

「初めまして。レフトハンドのディレクター、下地と申します」


4人の上司が会議室に集まっている。浩一郎もその中の1人だ。


「MHKが放送するのだからディレクターはMHKから来るのではないのですか」


主任の1人が言った。


「現場での取材はほとんどが制作会社が製作しています」


浩一郎はなるほどと思った。MHKは仕事を制作会社に丸投げするのだ。


「こちらが取材スケジュールになります」


資料は細かなタイムスケジュールが明記されている。


「びっしりと決められていますね」


「できるだけ三洋商事の業務に支障のないように配慮しますとこうなってしまうのです」


「これは取材される4人にも周知させないといけませんな」


「その件に関しては私共からさせていただきます」


あくまでレフトハンドが指示権を握りたいんだな、と浩一郎は思った。


「できましたら早速今日から打ち合わせをしたいんですが」


「ウチの桜木は外回りで居ませんよ」


「帰社されるまで待ちます」


「じゃあ田宮からすれば良いでしょう」


浩一郎は提案した。


「ありがとうございます。では早速田宮さんから打ち合わせをさせていただきたいと思います」


打ち合わせが終わってレフトハンドの下地は会議室から退室した。主任達が会話している。


「しかしかなり大掛かりな撮影になりそうですね」


「会長の命令なら仕方がないですね」


「とりあえずウチの田宮の打ち合わせ内容を直ぐにメールします」


「高坂主任、助かります」


「いえいえ、気にしないでください」




総務部室で俊哉に資料が配られた。


「1週間丸々掛かるんですね」


「はい、放送時間は45分間、撮影と編集にそれくらいかかります。レフトハンドの社員が全員参加します」


「御社も相当な力の入れようですね」


「LGBTQの取材はMHKの初めての取材です。今回はトランスジェンダーを特集します」


タイムスケジュールを見るとびっしり予定が組み込んである。


「スケジュールはあくまで予定です。柔軟に対応しますが基本的にはこのような予定をしております」


「しかし我々の業務の支障のない範囲でお願いしますよ」


浩一郎は下地にそう言った。


「その件につきましては配慮させていただきます」


下地は丁寧な言葉使いをしているがどことなく図々しさを感じる。浩一郎は下地と俊哉の打ち合わせを隣で聞いている。


「田宮さんにはできるだけ通常の仕事作業を撮影させて頂ければと思っています」


「仕事はデスクワークですから目立つ事は無いと思いますが」


俊哉はそう答えた。


「それで構いません。いつも通り仕事をしてください。」


「その後はどうなりますか」


「インタビューをさせていただきます」


俊哉と下地は会話を続ける。


「何分くらいのインタビューですか」


「20分くらいの予定をしています」


長いな、と浩一郎は思った。


「わかりました。よろしくお願いいたします」


俊哉は下地に頭を下げた。


「いえいえ、こちらこそよろしくお願いします」


下地も頭を下げた。この席にはカメラマンも同席している。打ち合わせが終わると下地とカメラマンは何か相談している。浩一郎は下地に尋ねた。


「何の相談をしているんですか」


「固定カメラをどこにつけるか相談しています。田宮さんを中心にして撮影する予定です」


思い出したように下地は言った。


「高坂さんにもインタビューしますのでよろしくおねがいします」


浩一郎は承諾した。下地とカメラマンは総務部を後にした。次は秘書課に行くと言う。途中、下地はどこかに電話を掛けている。


「もしもし、下地です。今打ち合わせ中です。良い絵が撮れそうですよ」


下地とカメラマンはエレベーターに乗って上階の秘書課へ向かった。涼子との打ち合わせだ。



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