第12話喉から口が出そう

涼子は俊哉にポロリと言い出しそうになって慌てて止めた。業務内の秘密事項は固く守らないといけない。


「何よ涼子。言いたい事があるなら言いなさいよ」


加奈子は言った。いつもの屋上のお昼休みである。


「秘書は守秘義務があるから口を堅くしないといけないのよ」


仕事が有るからもう上がるね、といって涼子は屋上から消えた。


「絶対何かあるわよ」


「あったとしても涼子は絶対に言わないわ」


3人は涼子の性格をよく知っている。


「多分、あたし達が関係してるんでしょうね」


「そうだと思う」


俊哉は否定しなかった。


「あたし達ってそんなに珍しいかしら」


「まあ普通に生活してたら滅多に会わないでしょうね」


彩が言った。まるで動物園の動物かのよう。


「でもみんなそこまで気にしてないよ、忙しくて」


「まあからしてみれば目の上のこぶよね」


そうそう、と3人は同意した。


「だって男性社員も優しいよ?」


俊哉は先輩を思って言った。


「そりゃ何か惹かれるものがあるからじゃない?」


「まさか、恋?」


加奈子が言うと俊哉と彩が


「ないない」


と笑ったが俊哉は先輩との関係を言えなかった。


「この四人で隠し事は無い誓約よ」


彩がじろりと俊哉を見た。


「俊哉から恋の匂いがする」


彩は嗅覚が鋭い。単純に鼻が利く、と言うだけではない。ある種の直感が優れている。


「そうだ、面倒見の良い先輩とはどうなったの」


「この前家に行った」


「アーッ、お家デートかよ」


「そんなんじゃないよ」


「じゃあ何よ」


「何とも言えない関係なの」


知り合いにしては近い。職場の先輩としても近い。しかし恋人となるとそうではない。そのもやもやした気持ちを俊哉は説明できないと2人に言った。


「そりゃもう恋人でしょ」


「好きって言えば良いだけじゃない?」


加奈子と彩はグイグイ来る。俊哉は押される。


「はあ、最初は俊哉かぁ」


或る日、4人は昼下がり、誰が一番先に恋人が出来るか賭けをした。先に恋人を作った人に1000円渡す、なんだか不思議な賭け。


「これは居酒屋案件ですな」


加奈子がスマホを取り出した。涼子への連絡である。


「涼子も今日空いてるってさ」


「じゃあ決まりよね」


「第15回居酒屋会議決定!」


夜6時に4人は集まった。いつもの居酒屋である。4人はビールを注文して適当に

肴を頼んだ。


「その高坂先輩ってどんな人なのよ」


「背が高くてがっちりしていて料理も上手い」


「それはノロケなの?」


「違うよ、本当の話」


俊哉は3人から事情聴取を受けた。これも4人のルールである。


「だから、見守って欲しいの」


俊哉は全てを言った。言ってしまった。


「じゃあ今度紹介してよ」


必然の流れである。隠し事はできない。


「あ、私その人見た事有るよ」


涼子が言った。


「やたら背が高い人よね。昇任人事発令の時見たわ」


「嘘嘘、本当?どんな男よ」


「彫りが深くて鼻筋も通ってなかなかのイケメンよ」


俊哉は良く見ているな、と思った。しかし3人は違った。


「俊哉、そんないい男、ボーっとしてたら奪われるわよ」


「そうよ、早く告白しなさいよ」


それができれば苦労はしない。やはり躊躇ちゅうちょしてしまう自分が居る。


「よし、じゃあみんなで会ってみよう」


加奈子の提案は決議された。

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